立春を過ぎた数日後大原に雪が降った。
夜半から降り始め朝が来てもやむ気配がない。
大原にある築100年の古民家。
ここもすっかり雪化粧。
この古民家に越してきて14年目を迎えたベニシアさん。
暖かな家の中でまきストーブの掃除に精を出していた。
灰を土にあげて。
庭のツバキの周りにちょっと植えたり…。
とにかくこれはどこに置いてても土のためにいいんですから。
自然の中で生まれたものは自然の中でまた役に立つ。
ベニシアさんは言う。
こんな日は大好きな庭仕事もお休み。
まきストーブの前で静かな時を過ごす。
ガーデニングダイアリーを読み返して考える。
春に向けてこれから何をしようか。
雪が降ったらじっとしていられない人もいる。
ベニシアさんの孫ジョー君。
滑るよ。
寒さを物ともせず田んぼの土手でそり遊び。
うわ〜!いつだって子供は遊びの天才。
寒さ厳しい大原。
この時期心配なのが風邪。
ベニシアさん風邪対策はハーブに助けてもらう。
ホアハウンドは結構苦いですから。
でもすごく喉にいいから頑張って作りたいと思ってます。
まず水を入れて沸騰したらハーブを入れます。
その間にスパイスを準備します。
カルダモンと甘い香りのアニスシードはあらかじめすり鉢で潰しておく。
すごいいい香り。
レモンジュース。
レモンは半分に切り搾ってレモン汁を作る。
ホアハウンドはせきに有名なハーブですから。
でも実際見た事ある人は少ない。
ホアハウンドはシソ科の植物でハッカに似た香りと苦みのあるハーブ。
古代エジプト時代からせき止めの薬として使われてきた。
他にもタイムヒソップレモンバーベナなど喉にいいと言われるハーブと先ほど潰したスパイスを加え20分ほど煎じる。
できるだけ自分でよく使いたいものは自分で作りたいという基本の考えですから。
今まで毎年新しいものにトライしてまた増えてまた…。
最初から先生みたいじゃないですから。
少しずつ…。
もうこのぐらいでいいと思います。
そしてこしますから。
煎じた液をこす。
じゃあ次はレモン汁をこうして…。
こした液にレモン汁酢ブラウンシュガーを加えよく混ぜながら強火で15〜20分火にかける。
砂糖が溶けるまで…。
温度が大体150度まで上がる。
途中丁寧にあくを取りながらあめ状になるまで煮詰める。
本当に何か効きそうなニオイ。
楽しみ。
もう出来たみたいよ。
これ入れたら…。
水に落としてみて固まればOK。
おいしい!出来ました。
こういう蓋で取りやすいから…。
くっつかないようにこれグレープシードオイル。
ブリキの缶など少し柔軟性のある型を用意しオイルを塗る。
そしてアメを流し込む。
光ってるのきれいですね。
この時一口大の切れ目を入れておく。
この感じで切ります。
ちょっと温かいですから冷めるまで待たないといけない。
固まったらトレーからアメを取り出す。
すごい!ちょっと形がいろいろありますけど…。
きれいなヤツは友達にあげて形がおかしいのは私がなめるという感じで…。
1個なめてみます。
うん苦い。
おいしい。
うれしい。
最後にパラフィン紙で包んで保存する。
手作りのせき止めアメ。
今年もベニシアさんのノートに新しいハーブレシピが加わった。
大原の南西山一つ隔てた所にある岩倉。
ここにベニシアさんの友人が暮らしている。
ベニシアさんの夫正さんがカメラマンとして千松さんを取材したのが知り合ったきっかけ。
千松さんが今作っているのは動物をしとめるためのワナ。
踏んだらそれだけでこれが引っ張られます。
こんな感じです。
これでもう絶対足が抜けない状態になるんで。
実は千松さんキャリア10年の猟師。
銃を使わずにワナで猟を行っている。
ふだんは運送業をしているため猟が解禁されている冬の間はとても忙しい。
これイノシシが体をこすりつけた跡ですね。
この上のほうに付いてるちょっと古いけどこの辺はオスのイノシシが牙で傷を付けて縄張りをアピールしています。
それでオスメスが分かったりして…。
これもそうですね。
同じようにオスジカが角でゴリゴリゴリゴリやった跡です。
こういう痕跡をいろいろ見ながらだんだんどこにワナをかけようかなというのを決めていくんですけど…。
ふだん人が入る事のない獣道の中にどんどん分け入っていく千松さん。
ワナ猟はワナを仕掛けるまでが勝負。
山を歩き動物たちの痕跡を観察して動きを読む。
そうして見えない獲物を探っていく。
覆いかぶさるような感じで生えてる葉っぱがあったら裏を見てみるんですね。
そしたらこんな感じで泥が結構付いてます。
動物が通らないとこういう泥は付かないので。
雨で泥がはねたようなものではないですね。
ここもちゃんと通ってるなと…。
いつごろ付いたヤツかなというので泥の付き方で判断したり…。
イノシシはダニを落とし体温を下げるために泥を浴びる。
これが沼田場ですね。
山の谷筋の所に結構こういう水が何となく湧き出てる場所っていうのはいっぱいあってイノシシはそういう所でドロ浴びをする習性があるんで。
こういう場所を見に来ればイノシシが例えば昨日の晩来てるかどうかっていうのが比較的すぐ分かります。
例えばこれ他の所の水と違ってちょっと濁ってますね。
濁ってるっていうのはあそこでイノシシが泥浴びをして巻き上がった泥が沈殿しきってないっていう…。
4〜5日前くらいにあそこでイノシシは泥浴びをしたと…。
夜行性の動物たちの行動をまるで見ていたかのように話す千松さん。
千松さんは兵庫県の農家に生まれ自然の中で育った。
京都大学に進学後アルバイト先の運送会社で偶然猟師に出会った。
そして大学に通いながらワナ猟を学び狩猟免許を取った。
でも初めはもちろん葛藤もあったという。
動物の命を奪う事はいけない事なのか。
最初に捕れたのは2〜3歳のメスジカだったんですけれども…。
当時僕まだ大学生だったので大学の寮に住んでたんですね。
みんなすごい喜んでくれてたき火で火をおこしてくれて鍋の用意もしてくれてシカ肉を焼いたり鍋にして食べてみんなうまいうまいと…。
その時にやっぱり別に間違った事でも何でもないんだなと。
むしろ動物の肉を食べるっていうのは絶対誰かがこういう事をしてる訳で…。
みんながそんなに喜んでくれておいしいと言ってくれるって事はある意味逆に動物の肉を食べるっていう意味が初めて分かったっていうか…。
人間も動物。
だから千松さんは銃を使わずに1対1で野生動物と対峙する道を選んだ。
ワナを獣道に置く。
動物に気付かれないようなるべく森にあるものを使ってワナを仕掛けていく。
この渡してある枝のおかげでこの輪っかの範囲ならどこを踏んでも必ずこの糸が引っ張られるという仕組みになってます。
動物をワナへおびき寄せるための工夫も怠りない。
これでもう結局シカにしてもイノシシにしてもそれなりの歩幅があるんで見事にさっきの穴を踏んでくれるか分からんのでその場合そこを踏んでもらうように歩幅を調整するんですね。
こういうものをこうして倒しておくとこれをイノシシもシカも踏みたくないんでこれをまたごうと思って手前で必ずふんばるんですね。
ふんばる場所にそのワナがあるんです。
こういう木をそれとなく置いておきます。
ワナ猟は頭と体持てる力を総動員した人間と動物との真剣勝負だ。
この勝負に懸ける千松さんの目的はシンプル。
自分が食べる肉を自分の手で手に入れるっていうだけの行為ですね。
だからある意味趣味でもないし仕事でもない。
本当生活の一部として自分が山際に暮らしていて裏山にいるシカなりイノシシなりの命を頂いて生活する。
自分の生を保っていくっていうか…。
本当に食べる事が前提ですよね。
殺すだけだったら何の意味もないですし。
家の離れにある小屋。
千松さん捕った獲物は丸ごと一頭自ら解体して保存する。
自分が奪った命なるべく無駄なくおいしくその肉を頂く事こそが動物に対しての礼儀だと千松さんは考えている。
そして時には知人や希望者に解体を体験してもらう。
肉をさばく大変さその先に見える命の重み。
それを感じてほしいから。
千松さんはとあるお堂を自分で改築した家に住んでいる。
家の裏手にある手作りのくん製機で肉をベーコンやハムに加工する事も多い。
そして家の裏山から取れた間伐材は大切な燃料。
何か月もかけて作った自慢のまき風呂で使っている。
カラフルなタイルを貼ったのは奥さん。
このワイルドな暮らしを4年前から共に楽しんでいる妻の裕香さん。
長男の小太郎君は2歳。
もうすぐお兄ちゃんになる予定。
これはシカの肉をくん製したあとボイルしてハムにしました。
サンドイッチにしようかなと。
シカのハンバーグです。
ああいいニオイ。
裕香さん千松さんの捕ってくる野生肉を使った料理のレパートリーも随分と増えた。
今日のメニューはイノシシとシカ肉ベーコンのサンドイッチとシカ肉のハンバーグ。
小太郎君の大好物だ。
(千松)頂きます。
頂きま〜す。
おいしい。
(千松)どれくらいおいしい?これぐらい。
(千松)それ何の肉?ハムのお肉。
(千松)シカのハムのお肉。
(小太郎)シカのハムのお肉。
(裕香)どう?おいしい。
楽しんでますね。
火を使うのは楽しいですね。
やる前は絶対無理やし大変やし絶対一人ではできないと思っていたけど数年たてば自分で火をおこせるようになりもうそれしかないとなると全然面倒臭くないし逆に石油とかも使わなくていいのが心地よい。
千松さんにとって猟をする事は間伐材でまきを作るのと同じようにごく当たり前の生活の一部になった。
生き物を育める森なり山なりが存在してないとそもそも猟師というのは成り立たないですし例えば僕がイノシシやシカを捕っててそこでイノシシを捕りすぎてイノシシを減らしちゃったら結局困るのは僕ですよね。
そして自然の中のバランスも崩れてくるし…。
だから猟師っていう立場は自然のよいバランスの中にいさせてもらってるというか…。
その中でそれを壊さないで逆に増えすぎたシカとかは捕る事で逆に自然の中で生きる責任も果たせてるんじゃないかと思いますけど。
雪が降り続く大原。
千松さん猟でしとめた獲物のお裾分けを持ってベニシアさんと正さんを訪ねた。
こんにちは。
こんにちは。
寒いでしょ今日。
寒いですね。
突然雪降ったり。
ベニシアさんこんにちはって。
こんにちは。
今日は恥ずかしいかな。
それはよく分かんないな。
今日お肉持ってきたんで。
朝から出してたんやけど雪で温度が低かったから…。
それはシカのロースであとで表面あぶってたたきか何かにして。
ありがとう。
すごいね。
これ2つ薄く切れると思うんであとで台所借りてやりますんで。
ありがとうございます。
いいニオイ。
(千松)それ何のお茶ですか?ハイビスカスとバラの実。
風邪予防になる。
毎日狩りやるんですか?ワナを仕掛けた以上は毎日見回りにいかないと。
(裕香)今日も行ってました。
何かあった?今日は。
今日は雪で全然でしたね。
結構忙しいね。
(千松)結構忙しいですよ。
バタバタですよ。
今年も僕は結局イノシシが2頭とシカ5頭捕って大体例年どおり自分が食べて人にお裾分けしたりとかで友達が来た時にパーティーで出す分はちょうどいいぐらいの量捕れてるんでそんな無理にこれ以上捕る必要もないので。
何となくあと2週間ないくらいで終わりですので…。
自分も自然の一部になって生きていきたい。
そう願うベニシアさんにとって千松さんのあり方は至極納得するものだ。
ありがとう。
乾杯!
(一同)乾杯。
千松さんが心を込めて作ったシカ肉の刺身とボタン鍋。
おいしい。
うまい!これがロースですね。
一番肉のキメが細かくて食べやすいとこです。
イノシシは脂自体がやっぱり脂っぽくないっていうか…。
よく九州のほうとかの猟師さんは白い肉だって言うんです。
違う感じの脂がおいしい。
脂身が分厚ければ「これはええイノシシやな」と。
一番食べやすい。
本当においしい。
おいしい。
自然の恵に感謝しながら友人と共に囲む食卓。
雪の大原ににぎやかな声が響く。
2015/03/01(日) 18:00〜18:30
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手「自然への感謝」[字]
一面の雪景色に覆われた京都大原。毎日世話になっているまきストーブの掃除をするベニシアさん。冷たく乾燥した空気が喉に厳しい季節、ホアハウンドの特製のどアメを作る。
詳細情報
番組内容
一面の雪景色に覆われた京都・大原。寒さが最も厳しくなる2月。冬、毎日お世話になっているまきストーブの掃除をするベニシアさん。灰も庭の土を整える肥料になる。冷たく乾燥した空気がのどに厳しい季節、ホアハウンドを使ったベニシア流ハーブのどアメを作る。午後、冬の間、山で猟をする千松信也さんがやってくる。千松さんは夫・正さんの友人でもある。まきストーブの前、千松さんが捕ったイノシシの肉で鍋パーティーを開く。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
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