(ナレーション)
風景画ではない不思議な絵
モチーフは鴨長明や種田山頭火などの歌人たちである
日本画家中野弘彦
中野は偉大な先人の哲学思想を絵で表した
彼にとっての終生のテーマは「無常」そして「死」であった
その「死」と向き合いそこに見いだした精神性や無常観を絵で表現しようとした
京都市東山区園
何必館・京都現代美術館で日本画家中野弘彦の展覧会が開かれている
没後10年の節目に開かれた本展では絶筆をはじめ屏風などおよそ50点の作品が展示されている
梶川さんは30年以上にわたり中野を支援しその画業を見守り続けてきた
屏風に描かれた大作
中央に1本の川が流れ周りには草花や木の葉がちりばめられている
全てのものは移ろいゆくという無常観を表してると思うんですね。
川は時間軸を表していろいろ起こっていく出来事…まあその出来事の悲しみであるとか哀れであるとかそういった感情や精神を表してると思いますね。
中野弘彦は昭和2年1927年山口県に生まれ間もなくして京都に移り住んだ
大きな呉服問屋を営む裕福な家庭に育った中野だったが14歳のとき父親を亡くし店は倒産
一転して極貧の生活を強いられた
太平洋戦争のさなか突如父を失い幸せな生活を奪われた少年時代
いつしか中野は人間の生と死を巡る不条理について深く考えるようになっていった
絵を描くことが好きだった中野は美術工芸の高校に進学
卒業後は小中学校の教員として働いた
その後立命館大学京都大学の夜間で哲学を学び卒業後会社員となった
その後も時折独学で絵を描いていた中野だったが47歳のときに転機が訪れる
梶川さんとの出会いである
梶川さんは中野の絵を見て思想や哲学を造形化し絵画として生み出していく才能を見いだした
そして画家の道を歩むよう背中を押した
中野は終生のテーマを「無常」と定める
1989年中野弘彦の展覧会が何必館・京都現代美術館で開かれた
テーマは「藤原定家と鴨長明の無常」である
「ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず」の一節で始まる鴨長明の随筆「方丈記」の世界を絵にした
草木や川家などが不安定で不規則に配置されている
長明は下鴨神社の神官の息子として生まれたが跡継ぎへの道を失うなど不遇な人生に絶望し出家
奥深い山里に隠れ住む
しかしその生活に満足することさえも煩悩であると自身を否定し最後まで無常の意味を問い続けた
(梶川さん)長明は無常を感傷的情緒的に捉えてですね情というものを全面に押し出してきてる。
「迷い」「悲しみ」「苦しみ」。
しかし生身の人間の心の弱さといった悟りきれない人間の魅力っていうのもありますね。
中野は長明の情に満ちた無常観に強く惹かれた
心の藤を入り組んだ境界線で囲い粒子の細かい岩絵具を使って彩った
定家は長明と違い叙情的な要素は一切ないと中野は言う
中野は巨大な木を炭で描いてにじませ冷静に無常を見つめる定家の世界を表現した
長明は感傷的定家は実存的な世界で無常を表現したと思いますね。
無常に対する表現は異なる二人ですがどちらも避けることのできない誕生と死滅。
無常と共に生きるしかない人間の宿命を表現しました。
1996年中野の展覧会が開かれた
テーマは「松尾芭蕉と種田山頭火」
「おくのほそ道」で知られる江戸時代の俳諧師松尾芭蕉
「月日は常にとどまることなく流れ続ける。
人生もまた旅のようなものだ」という芭蕉の無常観
中野は淡い色をベースに鉛筆の繊細なタッチで自然の風景をちりばめた
静かな画風が逆に自然の厳しさ無常さを際立たせている
(梶川さん)自然は常に変わりながらしかし何も変わらないという芭蕉の自然観。
中野さんはその時の流れの無常というものに共感していたのではないでしょうかね。
鮮やかな色彩の絵
紙の代わりにベニヤ板を使い彫刻刀で削って描かれた絵
これまでになかった激しい画風である
題材は自由律俳句の巨人…
酒に溺れ欲望のままに好き放題生きた山頭火
俳句を詠む旅のなかでもあるがままの心情を素朴で静かな句にしたためた
中野は自分をさらけ出して生きた山頭火に強く影響を受けた
(梶川さん)常識にとらわれない山頭火の生き方は激しく哀れで悲しいものです。
中野さんは知性や理性よりも本能に基づく感情が優先するという山頭火の生き方に共感したのではないでしょうか。
絵に描かれているのは中野自身である
中野も本能に基づいて描きたい絵を追求してきた
2003年3回目の展覧会が開かれた
中野が発表した簡略化された数多くの作品
表面的な無常の表現ではなくその裏側にある真の無常観を描きたいと常々語っていた中野
表現に必要な本質だけを見つめその他一切をそぎ落とした
(梶川さん)何も描かれてない所その所に中野さんの数多くの思いみたいなものがたくさん描かれてると思いますね。
この作品の中には中野さんの無常と共に生きていくっていう決意と覚悟のようなものが私には見えますね。
ひょっとすると中野さんの自画像あるいは涅槃図なのかもしれませんね。
まるで自分の死を予期していたかのような静かな世界
この個展から1年中野は76年の生涯を閉じた
定家長明芭蕉山頭火
先人たちの言葉に寄り添い無常を絵にした画家がいた
相国寺の塔頭で伏見宮家の菩提寺茶の湯の名品を所蔵する「大光明寺」をお送りします
2015/03/01(日) 06:15〜06:30
MBS毎日放送
美の京都遺産[字]
「画家・中野弘彦」
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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