ご機嫌いかがですか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第一週の選者小島ゆかりさんです。
今日もどうぞよろしくお願い致します。
今日の冒頭の歌は?出発の春はお別れの春でもあるのでさよならと言って手を握りよろしくと言って手を握る。
これまでどんなたくさんの方と手を握ってきたかなって思い…。
私は忘れられてしまうんですか?いや決して忘れません。
そうして下さい。
さあ今日お迎えしたゲストをご紹介を致します。
作家の落合恵子さんでございます。
ようこそお越し下さいました。
楽しみにしてまいりました。
落合さんは短歌との接点はどうなんでしょう?最初に出会ったのはちょうど女子中学生の頃。
女子校だったんですよ。
とてもみんな騒々しいんです。
女子校っていうのは。
にぎやかですよね。
紺色のサージのひだスカートはいて放課後はジャムパンかじると。
焼きそばパンの時もありますがかじりながら与謝野晶子ですね。
ドキッ「柔肌の…」おお〜!「黒髪のおごりの春の…」ですねああいうのをみんなで読んででもほんとのとこは何にも分からないんですよ。
ただ興奮をしたっていうのが一つですね。
それからそのあとはずっとあとですが在宅で母を介護していた時長いものってやはり気分的にも体力的にも読めないんですね。
それで短歌とか俳句とか詩とか読んで随分いろんなものを読ませて頂きました。
うれしい事ですね。
小島さんにとって落合さんは?いやよく聞いてくれました。
私の思春期青春期は1970年代ですから…。
ラジオの時代!深夜放送の時代です。
もうレモンちゃんです。
どこの誰だかよく分かりませんが…。
ずっと憧れて聴いていたそのラジオの向こうにいた方と40年後こんなふうにお目にかかれるなんて夢のようです。
はじめましてですものね。
私は作品を読ませて頂いてましたけれども。
うれしいです。
歌を作っていて本当によかったと思います。
さあ今日は短歌についてのお話いろいろ聞かせて頂きますが短歌のイメージはどんなふうに思っていらっしゃるか短い言葉にして頂きますと…。
何かいろんなものが渡りそうな橋でございますが後ほど詳しくこのお話聞かせて下さい。
どうぞよろしくお願い致します。
さあそれでは今週の入選歌をご紹介致しましょう。
題が「鞄」または自由でした。
小島ゆかり選入選九首です。
一首目。
早速落合さんに伺いましょう。
福岡ってわりと雪が降ったりする所ではあるんですがこれはもしかしたら出張先かな?ノルマが重い。
鞄も重くなるわけですよね。
それが「打って出る」っていう言葉にとても象徴されている。
私は今日は「打って出る」って感じで出てまいりましたけれど。
ちょっと気合が入った出方ですよね。
本当におっしゃるとおり「打って出る」がいいんですよね。
恐らく営業の外回りの方かと思いますが上の句の勢いのある言葉と下の句の現実感ですね。
この落差にこの歌の本当の切なさがあると思います。
私も落合さんに会えるので今日は打って出てきました。
私もお二人に会えるので打って出てきました。
打って出るが飛んでるよう。
みんな打って出る。
次へいきましょう。
では二首目をご紹介致します。
これも落合さん伺いましょう。
今の時代っていうかどの時代もそうなのかな?はいって手を挙げてどんどん自分を前に出していく。
存在感のどちらかというと濃い方が目立ちますよね。
でも私たちが暮らしていくっていつもいつも濃く生きられるはずもないしちょっと自分を薄める場合もあるって知っていてこの彼女の事をきっとちょっと離れた所で見ていて友達になりたいなと思ってる人とかゆっくりお茶を飲みたいなと思ってる方いらっしゃると思うのね。
ちょっと自分を突き放して客観視するところもすてきだなと思いますが…。
今のお話で作者とっても心が救われたんじゃないかと思うんですけどね。
恐らくみどりの鞄は意外に珍しいので余計にこういう事だと思うんですが今おっしゃったように本当は寂しいけれどもそれをちょっとほのかなユーモアでくるんだそれがまたすてきだと思いました。
では三首目です。
この子はきっとなかなか集団になじめないお子さんなんだと思うんですね。
でも黙って通るのではなくていつも「その犬は噛むの?」と聞くんですからこれが精いっぱいの恐らく寂しさの表現コミュニケーションの表現だったと思います。
「噛むの?」っていうのがちょっと切ないですね。
痛々しいですね。
それをきっと岡野さんがねいつも犬を連れてあの子来るかな?って待ってらっしゃるんでしょうね。
では次の歌四首目です。
分かりますねこれはね。
異国だと特に鞄に注意して下さいって言われますし旅慣れていないと楽しむ余裕もないので何か「鞄を運ぶ旅」というのが実に的確でいい表現だと思いました。
では次五首目です。
これ落合さんどうご覧になりました?日本にも移民の時代あれは政策だったとも思うんですがそういう時代があってそこに出かけていった書かれた方にとってみればおじいちゃんですよね。
その祖父が持ってった鞄の中から出てきたのがカリフォルニアワインのためのブドウをかるお仕事かその他のお仕事をされていて結局作業着にそのブドウの汁が付いたりしていると。
それを見て祖父が生きた時代と自分が生きている時代それを重ね合わせたりいろんな思いが浮かんでくる作品ですね。
この祖父のお一人の方の人生と共に日本の歴史ですよね。
それが刻まれた歌だと思いますね。
では次です六首目。
かつて私のキャリーバッグも走ったのでございます。
鞄は生き物のように走るのでございますね。
こだま号というのぞみ号じゃないところもなかなかこの歌を生かしていて楽しい歌だと思いました。
では次七首目です。
上の句の非常に鮮やかな表現と下の句の寂しさですね。
これがとてもお互いを生かし合ってると思いました。
自分自身ではなくて鞄を主人公にして描いたところがいいと思いました。
もう出かけられなくなったかなというね。
もしかしたらご病気とかご高齢とかかもしれないです。
それでは次の歌です。
これ落合さん伺いましょう。
これも切ない歌ですよね。
私の母もいわゆる認知症の症状の中を何年も居てくれた人ではあるんですが扉を開けると引き出しに山ほどのスプーンが入っていたりとかあるいはあの世代の人ですからタワシが何個も入っていたり。
亀の子タワシ。
亀の子タワシです。
片づけるのは簡単ですが彼女はそこに思いを込めているわけだから片づけられなかったこのトイレットペーパー特に高齢になってくるとお手洗いの事いろいろ気になりますよね。
きっと認知症という症状の中でもトイレットペーパーだけは忘れないで鞄に使ってないもの丸ごとだと思うんですね入れておられたんだなってそれをご覧になってるお孫さんの切なさも分かりますし…。
ほんと十分な鑑賞をして頂いて三個という数が切ないですね。
さあそれではおしまいの歌九首目です。
これは本当に若々しくてそして斬新な発想だなと思いましたね。
鞄つやつやなんですよ。
あの人に恐らく作者自身も恋をしておられるのではないかなとちらっと思いました。
口語のリズムが大変生きていると思います。
何ともいい読後感の歌ですね。
以上入選九首でした。
ではこの中から小島ゆかりさんの選んだ特選三首の発表です。
まず三席です。
三席は堂本光子さんの作品です。
では二席です。
二席は岡野はるみさんの作品です。
では一席の発表です。
一席は桜江喬さんの作品です。
「鞄」という題を時間的にも空間的にも非常にスケール大きく生かしたとてもいい歌だと思いました。
以上今週の特選でした。
今日ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちら「NHK短歌」テキストにも掲載されます。
是非テキストもご覧下さい。
ではここで今年度の小島さんの一席の中から選ばれました年間大賞の作品の発表でございます。
小島さんどうぞ。
今年度の年間大賞は今北紀美恵さんの作品です。
これは「街」という題詠で出た作品なんですけれどもほんとに小さな技巧などは飛び越えてですね言葉と心の力特に「見えとる」という最後の方言ですねこれが実に作者自身をよく表現していると思いました。
という事で今北さん年間大賞どうもおめでとうございました。
さあそれでは「うた人のことば」をご覧下さい。
早稲田には教員として25年間ですかねそして学生時代を含めると40年近く三十数年間通っていました。
ポイントは「人満ちている早稲田大学」というところなんですね。
柿本人麻呂とかですね「万葉集」の時代の人たちの土地ぼめの歌とかそういう歌の伝統を踏まえている表現なんですね。
早稲田短歌会っていうのは週に2回ですかね寺山修司さんとか小野茂樹さんと知り合ったんですね。
読んでる本が全然違いましたからねそういう人たちとどうしても喧嘩になっちゃうわけですけど1週間に2回7時間ぐらいずつワイワイワイ言っていてそれで負けちゃうとうちへ帰って1人で本を読んだりして来週に備えると。
僕が学生の頃はまだ戦後の雰囲気が続いていましてね教授の方々が同級生が戦死した話とかねそういう話をいろいろして下さいました。
帰ってくる事のできなかった若者その若者がふとね私の授業の後ろの席に聞きに来ていたのかもしれない。
そんなような事を思った歌です。
続いては「入選への道」のコーナーです。
たくさん頂戴するご投稿歌の中から小島ゆかりさんが一首取り上げて手を入れられます。
今日はどんな歌でしょうか?今日はこの歌です。
実に味わいのあるいい歌だと思うんですね。
しかし「そこにをり」で一旦切れていますのでね「いつもの鞄女房のごと」を2回後から付け足す形になっている。
これを下の句続けてみたいと思います。
こんなふうにしました。
「女房のごときいつもの鞄」きちっと定まりましたね。
こういう女房もきっと少なくなったのではないかなと思います。
何と言えばいいんでしょう。
余分な事を言いました。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
それでは投稿のご案内を致しましょう。
さあそれでは選者のお話です。
小島ゆかりさんの「うたを読む楽しみ」最終回のお話となりました。
今日は「恋する神々」です。
和歌の1,300年を超える歴史がありますけれどもその出発点にあるのがこの一首です。
作者は須佐之男命。
親の言う事をちっとも聞かないでお父さんに勘当されて高天原を追い出されたそんな実にやんちゃな神様なんですね。
でもこの歌は皆さんよくご存じだと思います。
「古事記」の八岐大蛇伝説のところに出てくるんですね。
八岐大蛇を退治してお目当ての奇稲田姫を奥さんにする事ができた。
その喜びの歌です。
雲がむくむくと湧き上るそのここ出雲の地に幾重にも垣根を巡らすその中に大事な大事な新妻を隠して住まわせておくよ。
その八重垣をねという歌なんですね。
和歌の始まりの一首というのがこんなに晴れやかなそして喜びの歌であったという事が何だか私はうれしい気持ちです。
恋する神々ね…妻を大事にしますよという歌から和歌は始まったとこういう事なんですね。
どうかお忘れのないように。
分かりました。
この精神を深く心にとどめて。
選者のお話でございました。
さあそれでは今日お迎えしたゲスト作家の落合恵子さんにもいろいろ伺ってまいりますがまずはあの言葉です。
キーワード短歌とは何ですか?さてこの心は?人の揺れる心を言葉にする。
心と言葉の間に橋が架かるわけですね。
短歌を作られる時。
そしてそれを作った方の橋という作品を今度は読まれる方またここにも心と心の橋が架かるかなと思って「橋」と書きました。
短歌ってそういうもんなんだって今よく分かりました。
これから皆さんに言いたいと思います。
そのように。
本当にいろいろな感情いろいろな思いが橋を渡っていきますよね。
とってもしっかりしたレインボーブリッジみたいな橋もあればグラグラ揺れる一本橋もあったり吊り橋もあったり感情って本当に揺れるものですよね。
その器になってるのが短歌でもあるわけで。
時々その橋から自分が落ちそうになるという事もありますね。
作者としてはそうかな…なるほど。
さあ落合さん今日はですねお好きな短歌を一首ご披露頂いてお話をしたいんですがどんな歌でしょう?とてもとても迷ったんですが好きな作品がたくさんあってご紹介したいと思います。
とても近くて距離もなくて愛する人であるがゆえに見えなくなる瞬間ってあるような気がするんですね。
何でも分かっているよ何でも見えているというのは幻想であって愛しているがゆえに見えなくなる瞬間のそれを怖いよっていう言葉でね書かれたこの作品とても好きですね。
むしろ近くにいればいる人ほど見えない時がありますよね。
近くにいるから分かってるわって思ってしまうのが時々私たちが陥りやすい罠でもあるかもしれませんね。
特に裕子さんは50年近い作者としての歳月をずっと夫を歌ってきた人ですから。
夫もまたねそれを歌われてすてきな相聞歌ですよね。
恐らく見えてしまったら歌は生まれないので見えないからこそ歌い続けてきたと思うんですよね。
詩でもあるんですがこの方は別に作ってる方ではないけど自分の夫を見送った時いつもあなたに触れていた。
でも私はあなたの何にも触れなかったんではないかって書かれた女性が夫を見送った時の詩があってそれも分かりますよね。
やっぱり怖いよっていうところに来るかもしれないですね。
落合さんいつもいろんな方を今本当にご講演活動もたくさんでいろんな方を相手にお話される時にちょっとした怖さって…?たくさんありますね。
逆説的に言うならこれは人間関係でもそうですが河野さんは夫との関係性について怖いよって言葉を出されたけど怖さがなくなったら駄目かなって思うんですね。
いくつになっても何かを前にした時のある種の驚きとか私は言葉にこう書いてるけどこれは本当に正しいというか適切な言葉かと思ったりその怖さを失った時そして自分は何でも分かってると思ってしまった時多分人間の関係性って内側から壊れていくのではないかなと思うし言葉もそういう気がします。
言葉を選ぶってほんと大変でしょ?小島先生。
今すごく胸にズンズンと来たのはやっぱり歌を作る時にいつも私の中に2つのおそれというのがあって1つは恐怖の方で1つは畏敬の…。
畏怖の。
ごめんなさい畏怖。
いや畏敬でもいいです。
そのおそれで言葉に対する畏敬の念と同時に一つ間違うととても怖いものなので。
その時どんな言葉を使ったかによって誰かの心を本当に切り裂いてしまう事もあるしあるいは傷つけてしまった心をふんわりと包んでくれるタオルにもなってくれる。
同じような事を私は詩人の石垣りんさんから伺った事があります。
落合さんご自身が絵本作家だし小説も書かれるしね。
それに原点がラジオという言葉だけで表現される世界だったという事もあり言葉の持つ力について随分お考えになるでしょう。
テレビはテレビのすごい可能性がたくさんあると思うんですが見えない世界の中で語る時ふってこう黙ってしまう瞬間がある。
今は黙る沈黙があんまり許されない社会で次々に言葉に変えなければいけない。
でも時々私は人が本当に心をどういう理由でも揺さぶられた時って言葉にならない時もある。
そのあと出た言葉が力になる時あるかなって思いますね。
今もちろんテレビはすてきですけどあまりにもビジュアルの時代になりましたからかつて青春時代に戻っちゃうんですけどラジオの向こうで声だけでその向こうにいる人を想像しその時の気持ちを想像しという想像力ですよね。
言葉の質によって温かさを感じたり今ちょっと何か言いたいなみたいに感じたり…。
今日は落合さんに言葉の持つ力についてお話を頂戴してありがとうございました。
ようこそお越し下さいました。
落合恵子さんでございました。
ありがとうございました。
さて今日は2年間選者をお務め下さいました小島ゆかりさんが最終回でございます。
どうぞテレビをご覧の皆様にご挨拶をお願い致します。
え〜寂しいです。
でも皆様のおかげでもしかしたら私自身が一番楽しんだ2年間だと思います。
本当にありがとうございました。
私も視聴者を代表して本当に楽しいお話勉強になるお話たくさん頂戴致しました。
歌の世界の魅力をね教えて頂きました。
本当にありがとうございました。
これからもどうぞご活躍を。
「NHK短歌」時間でございます。
ではごきげんよう。
2015/03/01(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「鞄(かばん)」[字]
選者は小島ゆかりさん。ゲストは作家の落合恵子さん。中学生の頃、放課後に与謝野晶子の恋の歌を友だちと読んでいたという落合さん。今も短歌を読むのが好きだという。
詳細情報
番組内容
選者は小島ゆかりさん。ゲストは作家の落合恵子さん。中学生の頃、放課後に与謝野晶子の恋の歌を友だちと読んでいたという落合さん。今も短歌を読むのが好きだという。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】落合恵子,小島ゆかり,【司会】濱中博久
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:13966(0x368E)