社会

【社説】首相の「記憶違い」 リーダーの資質に疑問

 首をかしげたくなる。日教組をめぐる、安倍晋三首相の「記憶違い」である。首相は過去にも、自身の歴史観に懸念を示した元外務官僚を個人攻撃し、波紋を呼んだことなどがあった。為政者の言葉の重みを認識しているとは思えず、あきれざるを得ない。

 問題となったのは、衆院予算委員会での2月20日の答弁。「日教組は補助金をもらっていて、日本教育会館から献金をもらっている議員が民主党にいる」と述べた。

 引き金になったのも、安倍首相自身の発言だ。19日の同委で、数日後に辞任することになる西川公也前農相の「政治とカネ」の問題を追及していた民主党議員に対し、「日教組はどうするの」などと、首相席からやじを飛ばした。

 「記憶違い」は、やじの理由を説明したもので、23日になり「教育会館から献金という事実はなかった。記憶違いであり、正確性を欠いたということで遺憾だ」と釈明し訂正。日教組が国から補助金を受けた事実もなかった。

 発端が国会での自身のやじで、その理由説明も出任せだった。民主党の枝野幸男幹事長は「事実と異なることを堂々と言いながら謝罪しないのは、あるまじき態度だ。思い違いで済まされない」と反発した。逆の立場だったら、安倍首相は激高しただろう。記憶違いというより誹謗(ひぼう)中傷のレベルだが、首相の特異な言動は今に始まったことではない。

 2年前には首相の歴史観や外交姿勢に懸念を示した元外務官僚を「彼に外交を語る資格はありません」などとフェイスブック(FB)で批判した。最近も、邦人人質事件の政府対応を疑問視されると、「民主党は、危機管理をちゃんとできていると言えるのか」と声を荒らげて反論した。批判や指摘に対して聞く耳を持たず、大人げない振る舞いを繰り返している。

 為政者の言葉は重く、取り返しがつかない。安倍首相は明らかに、その認識が欠如している。「綸言(りんげん)汗の如(ごと)し」という言葉を投げ掛けるのもむなしくなる。

 首相は23日、「私の至らなさについては深く反省する」とも述べたが、もはや額面通りに受け取るのは難しい。こうした直情径行な性格で、不測の事態に国家のリーダーとして冷静な対応ができるのか。不安を拭い切れない。

【神奈川新聞】