日本時間のきょうアメリカで発表されたアカデミー賞。
惜しくも受賞は逃しましたが日本人監督による2つのアニメ作品がノミネートされ改めてその評価の高さを印象づけました。
しかし今、日本のアニメを海外に展開して利益を上げる試みは岐路に立っています。
クールジャパンのけん引役と期待されながら実は長らく輸出が伸び悩んでいる日本のアニメ。
今、中身や売り方を工夫することで海外への展開を加速しようとしています。
日本でヒットした作品を相手の国に合わせて内容を大胆に変更。
世界中の人に親しみやすさを抱いてもらおうという戦略です。
さらに本来ライバルどうしの制作会社などが共同でネット配信を行いより多くの海外ファンに届ける取り組みも始まりました。
巻き返しが始まった日本アニメの輸出。
その戦略と課題に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
アニメやゲーム、J−POPなど日本のポップカルチャーを積極的に海外市場に売り出していこうというクールジャパン戦略を国は打ち出していますけれどもその中でもすでに海外での収益率が相対的に高くクールジャパンをけん引できる目玉になりうると期待されているのが日本のアニメです。
日本の子ども向けアニメは世界の多くの国々で放映されていますしまた世界の各都市で開催される日本文化フェスティバルにはアニメのコスプレを楽しむ熱心な海外のファンの姿が見られます。
しかしアニメの海外の販売は決して順調ではなくむしろ苦戦を強いられてきました。
売り上げのピークは2005年313億円でした。
そこから2013年にはご覧のように169億円に減少。
ようやくこのところ売り上げが改善する兆しが見えてきましたものの日本のアニメが持つ潜在的な力を十分に生かして海外市場での売り上げを伸ばすには至っていないのが現状です。
テレビで放送される日本のアニメの本数をそして時間をどうすればもっと増やせるのか。
放送されることでDVDやキャラクターなどの関連商品の売り上げ拡大にもつながっていきます。
作り上手だが売り下手といわれる日本。
子ども向けアニメからティーンエイジャー、大人そして熱心なファンが好む日本アニメなどさまざまなターゲットがある中でどんな方法で海外の売り上げ比率を増やせるのかその戦略が問われています。
初めに企画の段階から海外の多様な人々を意識して制作を進める新たな現場の動きです。
都内にある国内最大手のアニメ制作会社。
新作アニメ映画の公開に向けて制作を進めています。
この会社の看板作品ドラゴンボールです。
主人公が仲間と共に敵と戦い成長していく物語。
29年前から世界70か国以上でテレビ放送などがされてきました。
今回の映画は最初から海外市場を意識し日本に続けて世界30か国以上での公開を計画しています。
すべての国の子どもたちに受け入れてもらえるように数あるヒット作品の中からこの人気作品を選びました。
しかし、世界に売るためには新たな配慮が必要だといいます。
特に子ども向けアニメの場合日本とは比較にならないほど表現に対する規制があるからです。
そのため今回は日本で多く見られる流血の場面はできるだけ避けるようにしています。
そうした世界に広く受け入れられるようにする標準化を進めることでこの会社は各国のファンを獲得しようとしています。
海外人気は高いといわれてきた日本アニメですがここ10年近く輸出は伸び悩んできました。
日本のアニメ制作会社のアドバイザーを務めるジョン・イーサムさんは日本がかつての成功に安住したことがその後の低迷を引き起こした要因だと指摘しています。
イーサムさんによると2000年代前半ポケットモンスターがアメリカで大ヒットしたことで大量の作品が日本から輸出されたといいます。
その後、ブームは去ります。
黙っていても売れる状況はなくなりアニメ作品の輸出は減少。
しかし日本企業は売るための戦略やノウハウを蓄積できませんでした。
日本の輸出が低迷している間に標準化の海外戦略を徹底し輸出を伸ばした国があります。
韓国です。
この作品はロボットに変身する車が主人公の大ヒットアニメ。
世界80か国以上で放送されています。
制作を手がけた会社です。
この会社は、企画段階から海外に展開することを想定しどこの国でも受け入れられやすい作品を作ることに力を傾けています。
その一つが試写会です。
各国のバイヤーにパイロット版のフィルムを見てもらいそれぞれの国の実情に合わない部分を訂正したり削除します。
どの国に輸出しても耐えられる作品を作るために時にはストーリー自体を変えることもあるといいます。
日本のお家芸ともいえるアニメをどうしたらもっと見てもらえるのか。
あえてどの国にでも受け入れられる標準化を目指すのではなく一つの国にとことん寄り添って売り上げを伸ばそうとする動きも現れています。
このアニメ制作会社が今取り組んでいるのが代表作であるルパン三世の新作を日本より先にイタリアで放送することです。
文化的な影響力の強いイタリアで新しいテレビシリーズを放送してブームを起こすことができればヨーロッパ全域での販売につなげることができると考えました。
そのため今回、現地を調査しイタリア人の好みに徹底的に寄り添いました。
例えば主人公のルパン三世。
トレードマークは赤や緑のジャケットですが調査の結果、青色に変更しました。
また、物語の主な舞台は多くのイタリア人が憧れる古都サンマリノに設定しました。
ストーリーにも一工夫。
イタリア人の好むワインやサッカーの話題も絡めています。
こうした特定の国を対象にした現地化戦略を進めることで日本への波及効果も狙っているといいます。
今夜のゲストは、アニメなどのコンテンツビジネスにお詳しい、電通コンサルティングの森祐治さんです。
クールジャパン戦略が打ち出されてからおよそ10年ですけれども、この間に黙っていても売れた日本のアニメが、苦戦を強いられるようになって、そしてとりわけ子ども向けのアニメも、ややかげりが見えてきたと、なぜこんなことになってしまったんですか?
今までは日本のアニメというのは、海外ですごく人気があったと、ですから、海外の人たちが、どんどんどんどん日本に買いに来てたんですね。
なので、あまり売り方というものを考えることなく、売れている、人気があるといわれているものを、そのまま持っていけばお金になったという、非常にいい環境だったということがいえると思います。
あとやはり2005年、非常に売れた年なんですが、これをピークに下がってきているわけですけれども、これ実は日本のアニメだけではなくて、DVDも含めて、映像作品が非常に苦しい時代に入ったという大きな環境変化の始まった年でもあるんです。
なので、日本のアニメの人たちというのは、そういう環境の変化というのをある意味で知らなかった。
なので、一緒に飲み込まれてマイナスの側面のほうに、どんどんどんどん落ち込んでいってしまったというところがあるかと思います。
今のアニメの収益の核となるメディアというのは、何に移ったんですか?
もうDVDのほうが売れなくなりましたので、基本的に海外のバイヤーは放映、そしてネットの配信といったような今までにはなかったような仕組みをどんどん使う、あるいは活用するということが、収益の中心になっています。
特にテレビに関しては、新興国が非常にテレビの環境が整ってきたことがあって、今、アニメのような子ども向けの番組、非常に需要が大きくなってるんですね。
なので、そういったところに対して、積極的に売っていくというやり方というのは、まだまだある可能性だと思っています。
そしてそういったところに売っていこうとなると今のVTRに出てきましたように、多様な人に見てもらいやすい標準化、あるいは現地化という戦略があるわけですけれども、やはりそういったことが必要になってくるんですか?
そうですね、作る側、要するに作品のほうとしても対応する必要性っていうのはあるんですが、それとは別に、やはりどういう売り方があるかということも、やはり理解をする必要があると思います。
先ほども子ども向けのアニメというお話がございましたが、別に子ども向けだけではなくて、ジブリの作品のように、いわゆるファミリー映画というものもございますし、ほかにも、やはり日本のアニメというと、どちらかというとアダルト、ヤングアダルト向けというあるいはオタク向けという表現、海外ではされますが、子どもだけじゃないという部分というのは、日本のアニメの特徴ですから、それぞれの固まり、あるいは分類に応じて、ちゃんと売っていくということが、非常に大事になってきていると思います。
今まで、自分たちで積極的に売りにいかなくても売れてたことに慣れきってしまって、例えば子ども向けの市場に対しての売り方について、海外で常識になっているようなことを十分認識できてますか?
いや、ないんですね。
やはり今までの知識というのが、基本的に蓄積されてこなかった。
買いに来てくれた人たちに対して売っているということだけだったので、日本の人たちにしてみると、きちんといい作品を作るというところに注力をしてしまったという意味では、日本の工業製品がかつて歩んだ道と同じようなわだちを踏んでいるというふうに考えてもいいと思います。
いいものさえ作ってれば売れるという、ちょっとマインドから抜け出しきれていないと。
本当に海外では、何歳の子ども向けなのか、あるいは男の子なのか、女の子なのかっていうことで、全然変わってくるといわれているんですけれども、そうした中で、標準化を徹底して、マーケットのシェアを伸ばしているのが韓国ですけれども、韓国の強み、売り方の強みの戦略というのは、どういうものなんですか?
もちろん、市場に対してよく理解をしているという、マーケティング発想というのはあるんですが、それとは別に作品だけではなくて、売り方そのものというのが非常に考えられているんですね。
韓国の中で売っている作品、あるいは放映されている作品のことなんですが、そこでのスポンサーと一緒になって、海外に売っていっているということがあります。
スポンサーとアニメと一緒になってるんですか?
むしろアニメよりも、韓流ドラマといったほうがたくさんの人には分かると思うんですが、非常に世界的にも有名になっているドラマが特に、先べんをつけたわけなんですが、まずドラマを国内でやっているスポンサーの人たちと、一緒に海外のマーケットも開拓しようという仕組みです。
それに対して、政府がまた支援をして、各国のことばに変えるといったような支援というのもするんですね。
それなので、新興国、あまりお金がない放送局も多いわけなんですが、彼らが買いやすい仕組み、買いやすい環境というのを整えたというのが、非常に大きなポイントだと思います。
そうすると、スポンサーもついていますと、非常に安く、放送局はアニメを手に入れられるということですか?
そうですね。
放送局にも非常に大きなメリットがあります。
そしてそういった国々のスポンサーとしてもですね、韓国の企業が一緒に乗り込めるわけです。
なので、韓国製品がやはりそういった国でも、力を持つために、非常にいい役割を、放送というものが役立っているというふうに考えてもいいと思うんですね。
今、そういう意味では、ある意味ではチャンスですね、マーケットが広がっているわけです。
そうですね。
今現在、新興国を含めて子ども向けマーケットというのはどんどん広がっている状態。
海外のやはり放送局、そしてグローバルの放送チャンネルというものが作品に、そして子ども向けだけではなくて、アニメというものに対しては興味があるということはまだ続いていると思います。
日本もそうしてウィン・ウィンの関係、産業とアニメが両方ウィン・ウィンの関係が生まれるといいなと思いますけれども。
さて、続いてご覧いただきますのは、熱心なファン、コアファンに向けて作られた作品を海外市場に向けて、つなげていこうという取り組みです。
都内にある中堅のアニメ制作会社です。
自分たちが作りたいものを作って世界で稼ぐという戦略で今、注目されています。
この会社は長年、アメリカから制作を請け負ってきましたが去年初めて独自の企画で日本のテレビ局に向けてアニメシリーズを制作しました。
宇宙を舞台にロボットに乗った少年少女が謎の巨大生命体と戦うストーリー。
今、作り方の主流となっている3次元のCGを使いながらもあえて2次元のアニメのような質感を出すことにこだわり目の肥えたファンから熱烈な支持を得ました。
しかしこの作品が放送されたのは多くの収益が得られない深夜のみ。
テレビの放送権料だけでは制作費の回収が見込めませんでした。
そこで、社長の塩田周三さんが目を付けたのはネットで海外配信を行う会社でした。
世界およそ50か国5000万人以上の会員を抱えるアメリカの大手配信会社です。
大ヒット作品だけでなくターゲットの小さいマイナーな作品まで豊富にそろえていることで会員数を急激に増やしています。
塩田さんはこの会社と契約することで各国に存在する熱烈なアニメファンに作品を届け利益を上げることができました。
さらに今ライバルどうしが手を組んで海外での販路を拡大しようという取り組みも始まっています。
去年11月大手アニメ制作会社5社と玩具メーカー、そして官民ファンドなどが出資して新しい会社を設立しました。
狙いはテレビで放送したアニメを各社が持ち寄り、ネットを使って共同で海外に配信することです。
これまで各社ばらばらに行っていたネット配信。
それを一つの大きなプラットホームにすることで品ぞろえを充実させそれまでユーザーではなかった人にまでビジネスを広げることを目指しています。
さらに一つのプラットホームにすることで関連ビジネスの拡大も図ろうとしています。
著作権を集中管理してアニメグッズの収益を上げようと考えているのです。
そのネット配信で、活路を見いだそうという動きも出てきています。
これはどう捉えてらっしゃいますか?
そうですね、今までのやり方と比べれば、圧倒的に海外への距離は縮まると思うんですね。
非常におもしろい、やらなきゃいけない挑戦だと思います。
日本のアニメを、海外のプラットホームで挑む、あるいはオールジャパンで集まって、海外に発信していこうと、差がありましたけれども、それぞれ、どんなメリット、デメリットがありますか
やはりたくさんの人に作品がどこにあるかということを知ってもらわなければ見てもらえないと、こういう課題というのは、いずれにせよ課題として残ると思うんですね。
であれば、なるべくすでにユーザーがいる、お客様がたくさんいるような海外のプラットホームに乗るというのは、非常にいい発想だと思います。
それに対して分かりやすい場所があって、ここに行けば日本のアニメが見れるということまで知ってもらえるかどうかということが、オールジャパンでという形で組んでも、そこが課題になってくることは間違いがないと思うんですね。
ですから、放送ということを入り口にして、そこからそのキャラクタービジネス、関連商品でもうかる仕組みを作っていくことこそが、このダイナミズムだとすれば、このプラットホームを作ったあと、どうやって展開していくんでしょうか。
やはりプラットホームの上で作品を知ってもらう、それから商品というものをどんどん買いたくなるという気持ち、ファンになっていただくというのが非常に大きいと思うんですね。
その商品をどうやって買ってもらえるのかというところに関してはまだまだ課題があるという状況だと思います。
特にプラットホームのプレーヤーのほうに作品を渡してしまって、その権利、あるいは売り上げを取っていかれるというような形になっていくと、不利益というものも生じる可能性もあると思います。
そういったメディア、日本の知財を守りながら、そして、なおかつ魅力ある商品開発にもつなげ、またさらにクリエイターたちの環境をよくして、よりよい製品が生まれるように、作品が生まれるようにするという、こうした、いわゆる循環を作り出すうえで、何が鍵になっていきますか?
よく知財、あるいはその産業の構造を理解したプロデューサーという人材は、やはり必須だと思います。
やはり、そういったプロデューサーをトップに従えた形で、アニメの業界だけではなく、広く産業、この場合もそうだと思うんですが、おもちゃやメディアといったような、あるいはもっと違う産業の人も入ったエコシステム、オールジャパンの体制というのをもう一度考え直す必要もあるかなと思います。
そうした人材がまだまだ足りないということなんでしょうけれども、日本の持っているソフトパワーの潜在力は、高いんですよね。
まだまだ力はあると思います。
新しい作品、あるいは非常に優れた作品というのは作り出せる、じゃあ、あとはどうやって売っていくかという課題のほうがまだ残っていると。
そしてその資金がいいところにきちっと集まるような仕組み、これも鍵でしょうね。
きょうはどうもありがとうございました。
2015/02/24(火) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「逆襲なるか 日本アニメ〜海外輸出・新戦略の行方〜」[字][再]
長らく低迷してきた日本のアニメの海外進出に、新たな戦略で逆襲に出る動きが相次いでいる。人気作品を輸出する最新の取り組みを取材し、コンテンツ輸出の課題と展望を探る
詳細情報
番組内容
【ゲスト】電通コンサルティング…森祐治,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】電通コンサルティング…森祐治,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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