プロフェッショナル 仕事の流儀・選「クレーン運転士・上圷茂」 2015.02.23


(汽笛)日本の貿易の要横浜港。
巨大な貨物船がひっきりなしに入ってくる。
食料品から工業用の原材料まであらゆるものが行き交う。
物流の主役はこの「ガントリークレーン」。
運転士は「ガンマン」と呼ばれる港の男たちの憧れだ。
巨大コンテナを狂いなく積み上げるその技術。
横浜港にはエースと呼ばれる男がいる。
横浜が誇るスーパーガンマン。
コンテナを運ぶ圧倒的なスピードで世界の船乗りをうならせる。
地上50m。
その腕で日本の物流を支えている。

(主題歌)世界平均の1.5倍という驚異のスピードを誇る上圷。
自由自在にコンテナを操る。
目の前で起きた痛恨の事故。
自分を責め続けた。
2月記録的な大雪が港を襲った。
視界不良。
そして想定外の試練。
その時上圷は技術の粋を尽くした。
港の男。
誇りを懸けた闘いがここにある。
朝7時上圷が出勤してきた。
(取材者)早いですね。
上圷は慌てるのが嫌いな性分だ。
おはようございます。
毎朝始業時間の1時間前には詰め所に入る。
上圷の自慢はこの口ひげ。
朝の手入れは入念だ。
(取材者)どういうこだわりが?仕事場のコンテナヤードに向かった。
港での貨物の積み降ろしは日本の物流の生命線だ。
貿易量の実に99%以上が全国の港を通して運ばれる。
中でもこの埠頭は年間50万本のコンテナをさばきそのスピードは世界屈指。
(取材者)大きいですね。
(上圷)そうですね。
その主役を担うのが埠頭に6基あるガントリークレーンだ。
通称港のキリン。
全長127mの超大型クレーン。
運転室は地上50mの高さにある。
この畳2畳ほどのスペースに1人で乗り込みクレーンを操る。
よいしょ。
運転室の床はガラス張り。
ここでコンテナを見下ろしながら作業を行う。
共に働く作業員たちへの挨拶が運転開始の合図だ。
港の仕事はとにかく時間との闘いだ。
作業の効率が扱える貨物量に直結する。
安全を確実に担保した上でどれだけスピードを上げられるかに総力が注がれる。
船に乗り込みコンテナの様子を刻々と伝えるデッキマン。
運ばれたコンテナにすぐさまロックをかけて固定するラッシャー。
そして次のコンテナを滞りなく届けるトレーラーの運転手。
全てのスタッフがクレーンの動きに合わせて秒単位で動く。
そのプレッシャーの中でクレーンを操る上圷。
主に使うのは左右2本のレバーだ。
左手のレバーで運転室を前後に動かす。
そして右手のレバーでコンテナをつるすワイヤーを上げ下げする。
地上50mの運転席から狙うのはコンテナの四隅にある直径僅か10cmの穴。
4つとも正確に入れなければコンテナは固定されない。
速さと正確さで群を抜く上圷の運転には一つ大きな特徴がある。
コンテナを着地させる直前一度止めてからゆっくり下ろす。
トップガンマンとして掲げる理想がある。
優しく扱うのはコンテナの中身を気遣うためだけではない。
車が正面衝突するような着地の衝撃。
それを至近距離で受け続ける仲間の心労を慮っての事だ。
スピードを問われる作業の中であえて優しさにこだわる上圷。
それは効率にもつながるのだと言い切る。
上圷さんはコンテナを着地点の20cm上でピタリと止める事ができる。
50mもの高さから見下ろしているのになぜこんな事ができるのだろうか。
その秘密を解き明かすため目線追跡カメラをつけてもらった。
黒い点が上圷さんの目線だ。
2つのコンテナのラインを見比べている事が分かる。
コーナーポストが完全に見えなくなるまさにその直前にレバーをさばくと狙った高さになるという。
更に上圷さんはある技でガンマンを悩ます最大の問題を封じ込めている。
それはワイヤーにつるされているために生じるコンテナの揺れだ。
上圷さんはなんと振り子の性質を応用しているという。
まずコンテナを引き上げる時ワイヤーを急速に巻き上げながら前にも全力で引っ張る。
強い力で引く事でコンテナの細かい揺れを止めてしまうのだ。
そして着地点の手前で一気に減速。
コンテナが振り子のように振れていくのに合わせてワイヤーを延ばす。
この時運転席を60cmほど前に動かすとコンテナはピタリと止まるという。
こうした技を編み出した陰には上圷さんの果てなき探求心がある。
極限の集中力が求められるガントリークレーンの運転。
そのためガンマンは2時間の交代制で働く。
(取材者)お弁当ですか?
(上圷)そうですね。
待機中上圷さんはリラックスする事に専念する。
意識して何も考えないようにしているという。
仲間への冗談も大切なリラックス法。
(上圷)よしよしよしよしよしよしよしよし。
こうして次の勤務に備えていく。
特別な緊張を強いられる仕事が回ってきた。
この夜横浜港に強風が吹き荒れた。
作業が中止になる平均風速そのギリギリに迫っていた。
コンテナをつかむスプレッダーも激しく揺れる。
だがその中でもコンテナ船が入港してきた。
安全を守りながらできる限りの効率で貨物を積み込まねばならない。
強風の中積み込みが始まった。
船での置き場所はコンテナに囲まれた狭いスペース。
慎重に下ろしていく。
最も注意を要するのは両脇の足場だ。
コンテナを固定する作業員が大勢働いている。
コンテナの長さは12m。
それに対して足場の間は13m。
コンテナが50cm以上振られると足場を直撃してしまう。
運ぶコンテナは160本以上。
一つ一つ風向きと揺れを読み切り完璧に通さねばならない。
緊張を強いられる場面で上圷は一つの事を心に刻む。
躊躇してスピードを落とし過ぎればかえって風にあおられる危険が増す。
上圷はタイミングを見計らい次々に下ろしていく。
通常1時間に50本のコンテナを運ぶ上圷。
この日は僅かに遅れたがそれでも48本のペース。
見事時間内にコンテナを運びきった。
上圷さんの趣味はツーリング。
同僚と当てもなく出かける。
スピードを上げて冷たい風をひたすら切る。
上圷さんにとって最高の気分転換だ。
バイクに乗り始めたのは6年前。
その理由は自分を変えたかったから。
上圷さんの胸には決して消えない痛烈な記憶が刻まれている。
上圷さんは神奈川・相模原の生まれ。
小さい頃から大の負けず嫌いだった。
中学高校の野球部ではずっと補欠のままだったがそれでも誰より熱心に練習するそんな少年だった。
高校卒業後新聞の求人広告を見て港の仕事に応募した。
しかしその初日待ち受けていた仕事はコンテナに荷物を積み込む「バン詰め」。
時に70kgにもなる荷物を一日中運ぶすさまじい力仕事だった。
そんな中憧れるようになったのが毎日出勤で見上げるガントリークレーンだった。
運転士のガンマンは機械操作のセンスに優れプレッシャーにも動じない特別な者だけが選ばれるという。
ガンマンになるには港のあらゆる機械を運転できるのが絶対の条件。
その上で先輩から「あいつならできる」と認められなければならない。
一つ一つ機械の免許を取得し運転技術を磨いていった。
上圷さんがその腕を認められたのは9年後。
ついに念願のガンマンに抜擢された。
結婚もし2人の子供に恵まれた。
だが充実感をかみしめていたやさきその事故は起きた。
ガンマンになって9年目の2004年3月。
その日上圷さんはクレーンには乗らず船の上で作業を指揮するデッキマンを担当していた。
次に運ぶコンテナを準備するためにクレーンから目を離したその時。
コンテナの間に一人の船員が挟まれた。
死亡事故だった。
クレーンを運転していた後輩と船内作業を取りまとめていた上圷さんがその責任を問われた。
せめて仕事を辞めて責任を取りたいと思った。
でも何をしても取り返しはつかない。
そして上圷さんに突きつけられた現実がもう一つあった。
あの時クレーンを運転していたのはずっとかわいがってきた後輩だった。
その憔悴しきった姿を見るとかける言葉がなかった。
思い悩んだ末に上圷さんは仕事を続けると決めた。
再びクレーンに乗りレバーを握ると震えが止まらなかった。
事故の記憶が脳裏に何度もよみがえってくる。
その恐怖に耐えながら上圷さんはクレーンに乗り続けた。
極限の日々を脱し平静を取り戻すまでに8年かかった。
その日々の中で湧き上がってきた思いがあった。
厳しい作業を共にする仲間たちへの限りない感謝。
何十トンにもなる鉄の塊を黙々と受け止めてくれる仲間たち。
慰めるでもなく励ますでもなく。
でもみんなが上圷さんの腕を信じ命を委ねてくれている。
その優しさがたまらなくありがたかった。
そして上圷さんは一つの決意を固めた。
以後上圷さんは一心不乱にクレーンの腕を磨いてきた。
技術とは何を目指すものか。
その事をずっと問い続けている。
横浜港に静かな緊張が漂っていた。
この日は朝から雪。
気象台は今後激しい風を伴って荒れるおそれがあると注意を呼びかけていた。
だが物流は止まらない。
朝8時半9万トンのコンテナ船が入港。
夕方までに貨物の積み降ろしを終え出港させねばならない。
上圷は黙々とこの日の運転に備えていた。
この日は週の中で最も貨物量が多い金曜日。
悪天候の中で物流を守る闘いが始まろうとしていた。
10時15分。
上圷が運転室へと向かった。
あそう?はい。
風速は既に10m近い。
それでも大荒れにならないうちにできる限り作業を進めておきたい。
雪の中で運転が始まった。
空中を雪が舞うと距離感をつかみにくい。
コンテナがいつもより遠く見えてしまい高さの感覚に狂いが生まれる。
上圷はいつもより高い位置でコンテナを止めゆっくり下げながら感覚を修正していく。
しかし開始から1時間後。
異変が起きた。
コンテナを運ぶトレーラーが現れない。
雪のためトレーラーはスピードが出せずクレーンの動きに追いつけない。
貴重な時間が過ぎていく。
だが上圷は焦りを顔に出さない。
運転手を気遣いいつもより更に丁寧にコンテナを載せる。
(阿部)はいお疲れさまでした。
午前の作業が終わった。
この日上圷のクレーンが積み降ろしする予定のコンテナは400本以上。
午後の積みで巻き返さなければならない。
だが雪は少しずつ激しさを増していた。
次の運転に向けて集中力を高める。
午後3時。
近年まれに見る豪雪となった。
仲間のガンマンたちも距離感をつかめず苦戦していた。
最悪の条件の中で作業が始まった。
生命線である高さの感覚をどこまで正確に維持できるか。
吹雪はますます強くなってきた。
着地のタイミングをデッキマンに確認しながらの作業。
(衝撃音)上圷は一つの事を自分に言い聞かせていた。
この吹雪で作業員たちには見えない疲れが押し寄せている。
作業が遅れ焦りやすいこんな時全員を落ち着かせるのがガンマンの役目。
そのために自分の感情の揺れを抑え込む。
だが作業開始から30分が過ぎた時だった。
コンテナを運んできたところで予期せぬ事態が起きた。
クレーンに不具合が生じコンテナが入らない。
一度岸壁に戻そうにも既に次のコンテナの準備が始まっていてかえって危険を招きかねない。
不具合が起きたのはワイヤーの長さを調節する機器だ。
この不具合によってコンテナは水平を外れ傾いてしまっていた。
このままでは決められたレールの中に入れる事ができない。
重さ40トン近いコンテナ。
どうするか?上圷はコンテナを壁に当て始めた。
揺らす事で傾いたコンテナを水平に戻せないか。
一旦コンテナを巻き上げ態勢を立て直す。
(上圷)え〜。
絶体絶命のピンチ。
どこだ。
上圷が次の作戦に移った。
今度はコンテナを小刻みに揺らし始めた。
コンテナの1つの角をレールに当てそこを支点にして揺さぶっていく。
2本のレバーで揺れを制御する。
ついにねじ込んだ。
上圷はこの日一番の危機を乗り切った。

(主題歌)コンテナをつるすスプレッダーは大きく傾いていた。
その10分後吹雪のため全ての作業が中断となった。
詰め所に戻った上圷はこの日の運転を振り返っていた。
更なる高みを目指してガンマンの闘いは果てしなく続く。
ひと言で言えばできる事を淡々とやる人間だと思うんですけどそのできる事を追い求めていく常に追い求めていくっていう事だと思います。

(一同)確認よし!確認よし!確認よし!
(一同)ゼロ災でいこうよし!2015/02/23(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀・選「クレーン運転士・上圷茂」[解][字]

コンテナ荷役で世界屈指のスピードを誇る横浜港南本牧埠頭で、男たちの尊敬を集めるガントリークレーン運転士・上圷茂。昨年2月、歴史的な豪雪のあの日の総力戦に密着!!

詳細情報
番組内容
ヨコハマの港には、作業員たちの尊敬を集める男がいる。巨大ガントリークレーンの運転士、通称ガンマン、その中で卓越した技を誇る上圷茂(47)だ。50mの高さから数十トンのコンテナを自在に操り、正確に積み上げる速さは世界平均の1.5倍。驚異の効率を誇る。胸に秘め続けてきた一つの記憶。乗り越えるための葛藤を初めて明かした。昨年2月、歴史的な豪雪となったあの日、港で繰り広げられた総力戦に密着した!
出演者
【出演】クレーン運転士…上圷茂,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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日本語
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日本語(解説)
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