(俊雄)《おおおいしい》《お母さんの味そのものだ》《すごいね依子。
おいしいおいしい》《んっ?》
(依子)《ちょっと間違ったかも》《うん。
ことしのはちょっとお母さんのとは違うかな》《でもじゅうぶんおいしい。
うん。
おいしいおいしい》《ごめん》《お父さんこっちの味も好きだな。
フフ》《おいしいおいしい》
(小夜子)どうせことしも無理でしょうね。
最初のときはまぐれだったのよ。
ビギナーズラック。
(依子)私はあなたのレシピどおりに作ってるわよ。
(小夜子)料理は科学実験とは違うってことよ。
あるいは何かを入れ忘れてるのかしら。
何よ。
(小夜子)真心。
あなたにないもの。
(俊雄)誰かと話してたか?いいえ独り言よ。
おいしい。
気休めはやめて。
(巧)だから女性に抱き付いたわけじゃないんです。
渋谷に近づいてきたらもう立っていられなくなって…それで思わず女性につかまってしまって…。
どこか悪いの?横浜を出て都内に入った辺りから気分が悪くなって…。
いよいよ渋谷だと思ったら目まいがして。
この後さらに新宿で乗り換えるなんてもう無理だ。
いったいどうしたらいいんですか?僕は。
明けましておめでとうございます。
遅かったですね。
2回ほど軽く吐いたんで…。
みんな待ってます。
上がってください。
あっ…。
みえたわ。
(俊雄)あああっあっ…こっこの間はどうも。
どうぞ。
父は知っていますね。
伯母の初枝さん。
そして初枝さんのご主人富田康行さんです。
谷口巧さんです。
(康行・初枝)明けましておめでとうございます。
明けまして…おっおめっ…おめでとう…おめでとう…うっ…。
お〜…。
ちょっと一回トイレ行かせてください。
3回目ですね。
こちらです。
えっ?
(鷲尾)ハッピーニューイヤー。
ハッピーニューイヤー。
(佳織)ニューイヤーキスもいいもんでしょ?ほら依子さんともして。
新年を祝わないと。
じゃあ私仕事に戻るわ。
ことしもよろしく。
元日はお節料理を作ることにしているのでそろそろ戻らないと。
僕も元日は『男はつらいよ』を見ることにしてるんで。
それでは本年もよろしくお願いいたします。
こちらこそよろしく。
これくらいにして残しておきましょう。
(俊雄)ああ…。
3日に初枝伯母さんたち来るのよね。
あ〜…そのとき彼も呼んだらどうかな?彼?谷口巧君。
付き合ってんだろ?彼とは初対面が気まずい感じになっちゃったしちゃんと挨拶しといた方がいいと思うんだ。
そうね。
あ〜いいですいいです。
そういうの苦手なんで。
遠慮しときます。
はい。
どうも。
はっ!?あんたバカ?何で断んのさ!もう都内なんて行けるわけないだろ。
渋谷と新宿を通過するなんて想像しただけでもう吐き気がするよ。
そんな理由?あんたホントのバカだね。
もう…。
行ったって気まずいだけだよ!
(宗太郎)親父さんとはベッドで抱き付いた揚げ句殴り合っちゃってんだもんな。
最悪の初対面だよ。
一族で袋だたきにするために呼んだんじゃねえか?あり得る。
顔が怖いんだ。
あんな恐ろしい顔のサンタ見たことない。
剣道やってるっていうしさ。
木刀でぼっこぼこだ。
だいたい正月だからって親戚集まってどうのこうのってもうくだらないよ。
結婚したいんでしょ。
相手のお父さんに会わないとできないでしょうが。
未成年じゃないんだし親の許可なんかなくたって…。
・ごめんください。
あの声は…。
藪下依子が来やがった…。
(宗太郎)ういういうい…。
えい。
重要事項なので直接確認しに来ました。
私の家族に会わないということは結婚する意思がないということで交際もこれをもって終了となりますがよろしいですか?えっ?はい。
ではそういうことで。
ちょちょちょっ…!ちょっと待って。
僕はただ…親戚の集まりに参加するのはずうずうしくないかなって…。
(留美)あらご招待断る方が失礼よ。
ほら行ってきなさい。
ん〜でもどうせお父さん僕のこと気に入らないと思うよ。
せっかくのお正月が台無しになるよ。
その場合も交際終了です。
あっちょっと待ってって。
うまくだまくらかして気に入ってもらうしかねえな。
だまくらかすとは何ですか。
ありのままの谷口さんを父が受け入れなければ意味がありません。
ありのままのこいつを受け入れる親なんていねえだろが。
まあね。
私でさえ受け入れられないもの。
では交際終了です。
あっ!ちょちょちょっ…ちょっと待って!もうどうしたらいいんだよ。
とにかく最善を尽くすしかない。
しっかり準備して行こう依子さんにも協力してもらって。
ほらお願いしなさいよ。
お願いします肩おもみしますんで。
助言はしますがその先はあなたの努力しだいです。
駄目なら…。
交際終了ね。
ではこれより事前対策会議を開きます。
事前対策会議…。
新年明けましておめでとうございます。
当日集まるのは父俊雄と父の姉の初枝さん初枝さんのご主人康行さんです。
康行さんはおとなしい方ですが初枝伯母さんは厳しい方なので注意が必要です。
とはいえ特別なことはしません。
ごく普通の一般家庭のお正月です。
谷口さん挨拶はどのような内容を述べるおつもりですか?挨拶?新年の挨拶です。
例年はどのような内容にしていますか?「明けましておめでとうございます」だけど。
その挨拶ではなく正月に述べる一年の総括と新年の抱負のことです。
総括と抱負?昨年中は格別のお引き立て誠にありがとうございました。
私事板橋区役所都市計画課課長職にまい進し特に防災…。
(康行)昨年はさいたま市水道局で主に後進の育成に力を注ぎました。
(初枝)国政の場に送り込みたい。
そんな野望を抱いておるしだいでございます。
述べるか?この地域では述べないんですか?変わってますね。
全国的には述べてるのかしら?述べてますよ。
巧君何述べるの?述べることなんかないよ。
ありのままを述べればいいんです。
ちなみにお父さんやご親戚には巧君のことどんな感じで伝えてあるの?もちろん正確に伝えています。
少しはオブラートに包んでる?35歳の健康体でありながら労働を拒否し母親に扶養されつつ読書や映画鑑賞などをして日々を送る高等遊民を自称する若年無業者。
(宗太郎)うん。
正確だな。
昨年は地方自治体の公共施設における民間型不動産価値から見た公民連携手法に関する数理モデル応用の研究論文を作成しました。
本年は職務はもちろんのこと私生活においても30歳までに父を安心させるべく努力する所存でございます。
よろしくお願いいたします。
さっ昨年は教養の幅を広げるため『ワンピース』頂上戦争編第61巻まで読破しました。
さっさらにドラマ『24』シーズン1からシーズン6までを6日間で一気に見るという挑戦もしました。
新年は途中で挫折した『LOST』をもう一度頑張って最後まで見ようと…。
よろしくお願いします。
お父さんも映画好きよね?ああ…。
谷口君は知らないかもしれないけど昔スティーブ・マックイーンって俳優さんがいてね。
もちろん知ってます。
あっ知ってるか。
名優です。
そうだよなあ。
『大脱走』って映画が最高なんだよ。
『大脱走』ですか?
(俊雄)うんうん。
マックイーンといえばね『大脱走』とね『荒野の七人』これ見てなかったら見てみるといい。
もちろん見てるに決まってるじゃないですか。
ていうかマックイーンといえば『ブリット』でしょう。
ブッブリ…?えっ?『ブリット』見てないんですか?『ゲッタウェイ』は?『民衆の敵』『パピヨン』それでよくもまあマックイーンが好きだなんていけしゃあしゃあと言えた…。
ハッ。
すいません…。
(康行)そうかい。
だて巻きおいしいかい。
伯父さん。
(康行)んっ?谷口さんに太郎紹介して差し上げたら?ああ。
この子うちの新しい家族太郎っていいます。
主人ったら子供たちが巣立ってからというもの太郎を溺愛しちゃってどこに行くにも連れてくんですよ。
とってもカワイイんですよ。
おいで。
太郎。
あっ苦手だったかい?あっいや大好きです。
カワイイですね。
どうぞ。
抱っこしてあげてください。
ほら遠慮せず。
・
(チャイム)鷲尾です!年始のご挨拶に伺いました。
本年もよろしくお願いいたします。
こちらこそよろしく。
自分もう手加減しませんから。
あなたから依子さん奪ってみせます。
覚悟しておいてください。
なじめないわ〜…。
NBAチームとの契約アジア市場の開拓など大きな仕事にも関わらせてもらえるようになりました。
本年はよりいっそう日本のスポーツメーカーの魅力を世界中に知っていただけるよう努力していきます。
また藪下さんから一本でも多く取れるよう剣の腕も磨いていきたいと思います。
よろしくお願いします!それ以上強くなったら困るよ。
いやいや。
(初枝)まあ素晴らしい。
ねえ食べて食べて。
はい。
これね全部依ちゃんが作ったのよ〜。
これ全部ですか?そう。
はいどうぞ。
はい。
ではお言葉に甘えて頂きます。
はい。
ん〜。
依子さんめちゃくちゃおいしいです!なかなか母の味が出せなくて。
毎年母のレシピどおり正確に作っているのに不思議です。
(初枝)それがおふくろの味の奥深さよ。
(康行)鷲尾君。
はい。
この子太郎っていいます。
太郎?
(康行)ほら。
カワイイなあ!
(康行)でしょう。
ちょっと触ってもいいですか?
(康行)いいよいいよ。
爬虫類飼ってみたかったんですよねえ。
ケッ。
あっあのトロフィーは何ですか?あ〜参ったな。
見つかっちゃったかあ。
たかだか区民大会だけどね一応準優勝。
すごいな。
決勝の相手は?警視庁の宮崎さん。
あっ!あの人ホント強いですからね。
(俊雄)つばぜり合いからちょっと油断したところをねこう引き面だよ。
フフフフ…。
映画ですか?うちの2階にレンタルショップあるんだもの。
巧君いなくてさみしくしてるかなって思って来たんだけど…。
ん〜羽伸ばしてるわよ。
何せうちにず〜っといたんだもの。
もううっとうしいったらありゃしない。
アハハハハ…。
これ面白いわね『ミート・ザ・ペアレンツ』ああ彼女のご両親に挨拶に行ってめちゃくちゃになっちゃうやつだ。
そっか今まさに巧君が…。
その状況にあるのかと思いながら見ると面白いのよ。
今頃やってんのかな百人一首。
その後は百人一首によるかるた大会で親睦を深めます。
いいね。
ゲームは打ち解けるチャンスじゃん。
活躍していいとこ見せろよ。
練習しとくか?小倉百人一首なら全部暗記してるよ。
「住の江の」
(俊雄)「岸に寄る波よるさへ」はい!「筑波嶺」
(初枝)てい!
(俊雄)「村雨の」はい!
(俊雄)「いにしへの」は〜い!
(俊雄)「夏の夜は」
(初枝)てい!
(俊雄)「忘らるる」は〜い!
(俊雄)「由良の門を」はい!鷲尾君やるわねえ。
依ちゃんのライバル出現かしら。
(俊雄)「田子の浦に」はい!
(俊雄)「奥山に」は〜い!
(俊雄)「わが袖は」
(初枝)てい!
(俊雄)「ほととぎす」はい!
(留美)あったわよ百人一首。
お〜。
年季入ってんな。
おらよ。
だから大丈夫だって練習なんかしなくったって。
練習しときなって私付き合ってやっから。
カッコイイとこ見せたいんでしょ。
全部僕の頭の中に入ってるから大丈夫だよ。
(宗太郎)鷲尾ちゃん?あした藪下家に突撃しろ。
巧と勝負してこい。
取りあえず百人一首の特訓しとけ。
よろしく。
(初枝)私まだ3枚。
伯父さんも頑張って。
(俊雄)「朝ぼらけ」はい!Yes!Igotit!
(俊雄)「宇治の川霧たえだえ」
(康行)ほい。
えっ?谷口さんお手付きです。
「朝ぼらけ」は2枚あるから最後まで聞かないとねえ。
谷口君1回休みね。
はい。
(俊雄)「ひさかたの光」は〜い!
(初枝)すいませんね。
ゼロってどういうことですか?暗記してたんじゃなかったんですか。
想定外のレベルだったんだよ。
もう帰っていいでしょ。
何言ってるんですか。
何のために昨日…。
鷲尾君すてきじゃないの。
(俊雄)うん…。
何であっちなのよ。
依ちゃんあれのどこが好きなのよ。
(俊雄)ん〜…好きなわけじゃないらしいんだお互いに。
お互い好きじゃないってどういうこと?その方が有意義な結婚ができるとか何とか…。
何よそれ。
(俊雄)知らないよ。
あの子の頭の中でどんな論理展開されてるかなんか俺に分かるわけないだろ。
鷲尾君にしなさいよ。
誰がどう見たって鷲尾君でしょ。
何かお手伝いします。
あっ谷口君から頂いたシャンパン開けようか。
ぼっ僕が開けます。
えっいやあっ…。
(佳織・留美の笑い声)そんなに都合よくシャンパンのコルクが飛んで遺灰の入ったつぼに当たるなんてねえ。
まあ映画ですから。
でも実際こんなことやらかしたらおしまいですよね。
やだ〜。
ハハハハ…。
(佳織・留美)ハハ…。
もういいよ。
直らないよ。
すいません…。
たかだか区民大会だからさ。
(初枝)谷口さんちょっとお話ししましょうか。
あなた依ちゃんが好きじゃないってホント?
(俊雄)姉さん今日はそういう突っ込んだ話はいいんじゃないかな。
そういう生ぬるいこと言ってるから駄目なのよ。
あなた働いてないのよね?どうやって生計を立てていく気なの?彼は働く気はないんです。
依子さんに寄生するために結婚したいだけなんです。
寄生って…。
依ちゃんあなた分かってんの?もちろん。
もちろんって…。
あなた寄生されちゃうのよ。
私も初めは受け入れられなかったけど重要なのは有意義な共同生活を送れるかどうかでありそのためのファクターとしては…。
(初枝)もういい。
もうとにかく反対です!結婚を何だと思ってるの。
こんな人とお付き合いするのは断固反対です!ねえ依ちゃん鷲尾さんとお付き合いしてみる気はない?鷲尾さん?
(初枝)そう。
鷲尾さん。
考えてみたことあるでしょ?今言われるまで一度もなかった。
何でないの?真っ先に考えるでしょ普通。
比べてごらんなさい。
鷲尾さんとニートよ。
爽やかなスポーツマンとニート。
どっちがすてきな男性?う〜ん…。
(初枝)いや難しくない。
あっあの…おっお言葉を返すようですが…男が家庭に入ることを望んで何が悪いんでしょうか?家事手伝いの女は普通なのに何で男は駄目なんですか?僕の事情をよく知らないのに簡単に人を否定するもんじゃないですよ。
確かに専業主夫だって大変な仕事だからな。
もちろん悪くないですよ。
それが本当にやりたいことならね。
本当にやりたいことですよ。
僕は専業主夫になるのが夢なんです。
そうですか。
じゃあ当然炊事洗濯お掃除普段からやってらっしゃるのよね?花嫁修業中の女性はみんなやりますよ。
台所でもお貸しいただければお雑煮でも作ります。
(初枝)いいじゃない。
やってもらいましょう。
でも言っときますけどね藪下家は味にうるさいんですよ。
じゃお借りしますんで。
積極的に専業主夫になりたいんですってニュアンスならどうよ?情熱を燃やしてますってさ。
何か料理作ってみろとか言われたらどうするんだよ。
お雑煮とかさ。
あっそれいいじゃないの。
作って差し上げなさいよ。
好印象よ。
まずかったら逆効果だろ。
しょうがないわね。
じゃあ谷口家特製のお雑煮作り方教えるから。
はい。
いらっしゃい。
特訓よ。
いいよ。
お〜…。
ちょっとほら早く。
(留美)ほら。
(宗太郎)早く行けよ。
早く。
もう。
(留美)はい。
いらっしゃい。
ほう…。
あの自分にも作らせてください。
鷲尾家のお雑煮を。
勝負です。
次何見ます?ん〜『卒業』でも見ようかな〜。
いいですね。
ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロス。
あっ宗太郎君は今日何してんの?あっ奥さんと初詣とか?まあそうでしょうね。
・「チャイナタウン」サンキュー。
お待ち遠さまでした。
(俊雄)手際がいいなあ。
(初枝)さっと作れちゃうのね。
(3人)いただきます。
(初枝)う〜ん。
(俊雄)あっうまい。
わっ…。
おいしいです。
(俊雄)うん。
(初枝)ホントにおいしい。
何でもできちゃうのねえ。
一人暮らし長いんで。
うん。
お代わりしちゃおうかしら。
ハハハ…。
あのあんまり食べ過ぎると僕のが…。
(康行)太郎太郎。
どうしました?
(康行)いや何かどっかで倒しちゃったみたいで。
えっ行方不明?
(初枝・鷲尾)えっ?ちゃんと見とかなきゃ駄目じゃないの〜。
(康行)まあその辺にいると思うんだ。
太郎。
どうかしたんですか?えっ?
(一同)太郎太郎…。
あっヤバい…。
うおっ!おっ何だこれ!うわ気持ち…。
(一同)太郎太郎太郎…。
熱っ!熱っ熱っ…。
(俊雄)どうした?あっ!太郎がゆだってる!あっあっ…。
(康行)太郎〜!てめえ何してんだ!
(初枝)太郎はウナギじゃないのよ!あっいえ…ちょっと…。
みんな落ち着いて。
心肺蘇生措置を施します。
(初枝・巧)えっ?1234!1234!何やってんですか?心臓マッサージです。
戻ってこい。
蛇の心臓がどこか分かるんですか。
つべこべ言ってないで谷口さんは人工呼吸!人工呼吸?蛇と?マウストゥマウス!早く!
(初枝)あんたがやんなさいよ!嫌だよ!救急車呼んでくれよ!蛇で救急車は来ません。
タクシーで動物病院に運びましょう。
あっそうね。
太郎…。
(初枝)あ〜太郎太郎。
行きましょう。
(初枝)はい。
(康行)どけ!太郎!逝かないでおくれ。
私を置いて逝かないでおくれ。
太郎太郎…。
「人生は地獄よりも地獄的である」バイ芥川。
トイレで吐き父の映画の知識を愚弄し百人一首で惨敗しトロフィーを壊し太郎を死のふちに追い。
どうやったらこんなに色々巻き起こせるんですか。
自分でも驚いてるよ。
・
(物音)
(戸の開く音)うわ!あっうっ…。
痛っ…。
あっ…。
やれよ!殺せ!殺せ!偉そうに人のこと値踏みしやがって!何様のつもりだ!古き良き正月を祝う家族を演じやがってよ!茶番だよ!僕は僕の生き方に誇りを持ってるんだ!あんたらにとやかく言われる筋合いないよ!君と少し汗を流そうと思ったんだ。
すっきりするよ。
(俊雄)そう。
頭の上から大きく。
はい。
(俊雄)前へ。
下がって。
前へ。
下がって。
そう大きく。
いいよ。
(俊雄)妻は数学者でね。
依子もその血を引いてか小さいころから理数系の成績だけは抜群に良かった。
妻は長年ミレニアム問題っていうある数学の難題に取り組んでいてね。
あるとき「解けるかもしれない」って言いだしたんだ。
ノーベル賞級なんだよ。
でしばらく研究室に閉じこもった。
そこで倒れたんだ。
(俊雄)がんだったよ。
気付いたときにはもう手遅れでね。
あっけなかった。
依子が12歳のときだ。
《お母さん本当に死んじゃうの?》《ええ。
人間は皆死ぬわ》《いつ死ぬの?》《3カ月以内の可能性が高い》《お母さんの研究は完成するの?》《無理ね》《残念だわ》《私がお母さんの代わりに解くわ》《いいわよあなたはそんなことしなくて》《私には無理だというの?》《私が努力を惜しまない人間だということをお母さんはよく…》《そんなことよりこれを覚えてほしいわ》《お父さんの好きな料理》《お節とお雑煮の作り方も正確に書いておいた》
(俊雄)妻はあの子に普通の女の子として生きてほしかったんだろうなあ。
(俊雄)そうそうこの場所だったよ。
私は妻が亡くなってホントに落ち込んでしまってね。
でもあの子は平然として私にこんなことを言ったんだ。
《お父さんに教えてあげる》《量子力学によると万物は全て粒子によってできているのよ》《えっ?》《つまり死とはその人を形作っていた粒子が気体という姿に変形することにすぎないの》《何だって?》《お母さんの粒子は存在し続けるわ》《お母さんはここやそこに居続ける》《そうか…。
そうだな》《お母さんは居続けるんだよな》《寂しくなったらいつでも話し掛けていいんだな》《ありがとう依子》《量子力学を教えただけよ》
(俊雄)大学大学院と数学者の道を進んで妻の研究を引き継ごうとした。
(俊雄)そこでがく然とするんだ。
母親の研究がまったく理解できないことに。
(俊雄)それこそ何カ月も何年も寝食を忘れて研究に没頭したけど結局は認めざるを得なかったんだな。
《結論を得たわ》《私は数学者としてお母さんに及ばない》《依子!》
(俊雄)丸々3日間死んだように眠り続けてね。
4日目に突然起きてこう言った。
《国家公務員になるわ》
(俊雄)わずかな期間で猛勉強して見事合格だよ。
うちは公務員一族だけどキャリアは初めてだ。
藪下家の誇りだよ。
そして今あの子は頑張って結婚しようとしている。
母親の願いどおり普通の女の子として生きようと必死で頑張ってるんだ。
私はねもうあの子が傷つくところは見たくない。
絶対に幸せになってほしいんだ。
谷口君君がどう生きようと構わない。
しかし自分勝手な理由であの子と付き合っているのならやめてくれ。
あの子のことを本気で思ってないなら…好きでないなら…消えてくれ。
まして変わった子だからうまくだませると思ってるなら許さない。
絶対に許さない。
すまないねこっちから招待しておいてこんな話。
料理…普段やってません。
僕は誰かに寄生するために結婚したいんです。
依子さんのこと好きなのかどうか…。
たぶん…好きじゃないと思います。
すいません。
ただだませるなんて思ってません。
僕みたいなのを相手にしてくれるの…。
依子さんぐらいでした。
消えます。
帰るのは最後まで作ってからにしてください。
お雑煮。
私は努力を無駄にすることを良しとしません。
(3人)いただきます。
(宗太郎)うん。
うん。
(留美)うん。
おいしいわよ。
うん。
上手にできたんじゃない?
(留美・宗太郎)うん。
みんなおいしいかな?
(宗太郎)うん。
いいんじゃね。
おいしいよ。
うん。
(宗太郎)うん。
藪下さんはどうかな?決しておいしいとは言えません。
(留美)えっ?そんなことないわよね?うん。
まあ味の好みは人それぞれだから。
決してまずくはない。
まずくはないです。
うんうん。
うん。
まずくないまずくない。
まずいです。
率直に申し上げると藪下家では通用しません。
お母さん自覚ないかもしれないけど…あんまり料理うまくない。
えっ?たぶん味音痴だと思う。
嘘〜。
今までそんなこと言ったことないじゃない。
小さいころからずっと思ってた。
それ早く言ってよ〜。
恥ずかしいじゃない。
谷口さんこちらへ。
藪下家のお雑煮教えます。
調味料は正確に計量してください。
使用するのは塩薄口しょうゆ濃い口しょうゆ…。
できました。
いただきます。
いただきます。
どうぞ。
どうですか?すいません…。
うまくいかなかったですね…。
これ…どうやって作ったんだ?依子さんに教わりました。
言われたとおりに作ったつもりだったんですけど何か間違えたんだと思います。
捨てましょうか。
おいしい…。
おいしいよ。
小夜子の…妻の味だ。
とってもおいしい。
なあ依子。
うっ…うっうっ…うっ…。
依子…。
うっ…うっうっ…。
おいしいよ。
母さんのお雑煮だ…。
おいしい…。
おいしい谷口君。
うっ…。
2人で行っておいで。
あそこは縁結びの神社でもあるから。
ではいってまいります。
お邪魔しました。
初詣なんて何年ぶりかな。
地元の神社には行かないんですか?知ってるやつに会いそうなんで。
はい。
依子です。
はい。
あっ…よかった。
はい。
お大事に。
(通話を切る音)太郎奇跡的に一命を取り留めたようです。
あっそうですか…。
よかった。
蘇生措置が功を奏したんですねきっと。
そうですね…。
(康行)太郎!ホントによかったね〜太郎。
おさい銭はあるんですか?まあそれぐらいは。
何か願い事をしたんですか?内緒です。
谷口さんは?内緒です。
私は毎年絵馬を奉納しています。
見ないでくださいよ。
そちらこそ。
帰りましょうか。
はい。
(留美)『卒業』のすごさはこのラストカットよね〜。
2人とも笑ってないんですよね〜。
これから待ち受ける現実にがく然としている表情よ。
いっときの情熱で突っ走っちゃ駄目って話ですよね。
あなたも気を付けなさい。
は〜い。
変なの好きになっちゃ駄目よ〜。
ねっ。
はい。
フフ…。
(宗太郎)・「チャイナタウン」ありがとう!お前も歌え!うなだれてる場合じゃねえぞ。
まだまだ勝負はこれからじゃねえか。
うっす!フゥ〜!・「とってもとってもとってもとってもとっても」・「とっても大スキよ」ただいま。
(留美)おかえり…。
えっ…。
(留美)どうだった?ちょっと…薬持ってくるよ。
うっ…。
いやいや大丈夫。
うっ…。
あっお母さんちょっと待って。
お母さんもう一度精密検査受けよう他の病院で。
ううん…。
喜んでたわねえお父さん。
17年ぶりに私のお雑煮が食べられて。
そうね。
どうして彼は再現できたのかしら。
あなたは1年目のときだけで以降ただの一度も再現できないのに。
さあね。
たまたまでしょ。
数学者とは思えない発言ね。
結果には必ず原因がある。
この問題のヒントはそもそもあなたが最初だけ再現できたのはなぜかよ。
(俊雄)不思議なこともあるもんだね…。
もう二度と君のお雑煮は食べられないと思っていたのに。
誰も作れるはずがないのに。
《おおおいしい》《お母さんの味そのものだ》《すごいね依子。
おいしいおいしい》《あ〜…》《どうした?依子。
おいしいよな?》《お母さんのお雑煮そのものだよ》《う〜…》
(泣き声)
(俊雄)あの子の涙を見るくらいなら君の味が食べられないぐらい…。
それなのに…。
君が彼に力を貸したのかい?私は何にもしてないわ。
あの子が彼に作らせたんじゃないかしら。
(俊雄)あの子が…。
きっとそうよ。
(小夜子)あなたは私と同じで昔から数字は一度見たら忘れないものね。
あなたはず〜っと作れたのに作らなかった。
お父さんが書き換えた数字にだまされたふりをしていた。
食べたら悲しくなるから。
それが今回17年ぶりに封印を解いて改ざんされる前の数字を彼に教えたのよ。
谷口巧がお父さんに気に入ってもらえるように。
答えはそれしかないわ。
彼が勝手に分量を間違えて偶発的にお母さんの味に近いものができたという答えもある。
ふ〜ん。
(小夜子)神社の絵馬にお互い何て書いたのかしら。
それは詮索するべきものではないし人に言うべきものでもない。
(小夜子)願い事かなうといいわね。
もちろんそう願ってるわ。
帰りましょうか。
はい。
『デート』のサウンドトラックCDを50名さまにプレゼントいたします
詳しくはこちらまで
2015/02/23(月) 21:00〜21:54
関西テレビ1
デート〜恋とはどんなものかしら〜 #06[字]【巧、依子の実家へ緊張の初訪問!】
依子の実家に新年の挨拶をすることになった巧。慣れない移動と藪下家の人々の新年の抱負を聞き萎縮してしまう巧。そこに完全無欠の好青年・鷲尾もやってくる。
詳細情報
番組内容
新年を迎えた1月3日、藪下依子(杏)の実家に谷口巧(長谷川博己)がやってくる。そこには、依子の叔母の富田初枝(田島令子)と、叔父の富田康行(田口主将)も来ていたが、巧は横浜から慣れない東京への移動と緊張で絶不調だった。
数日前、巧を、新年恒例の行事に誘ってはどうか、と依子に進言したのは藪下俊雄(松重豊)だった。ところが、巧はその誘いをあっさりと断ってしまう。怒った依子は、
番組内容2
自分の家族に会おうとしないのは結婚の意志がないからだ、と交際終了を宣言。慌てた巧は、島田宗太郎(松尾諭)と佳織(国仲涼子)に相談。するとそこに依子が現れる。谷口留美(風吹ジュン)も巻き込んで話し合った結果、行事に参加すべく、依子の指導の下、対策が練られることになった。
そして迎えた1月3日、行事はまず「あいさつ」から始まった。1人ずつ順番に姿勢を正して前年の総括と今年の抱負を述べ、
番組内容3
終わると一同で礼をするというものだが、あまりの迫力に巧は萎縮してしまう。
そんな頃、あろうことか和装でキメた鷲尾豊(中島裕翔)が訪ねてくる。早速、スマートかつ爽やかにあいさつをする豊に、初枝と康行は拍手喝さい。さらに、豊は俊雄とも盛り上がり始め、巧は一層、居心地が悪い。豊を気にいった初枝は、依子に豊と付き合ってみたらどうか、と猛烈にプッシュする。今まで考えたことがなかったという依子は悩み始め…。
出演者
藪下依子: 杏
谷口巧: 長谷川博己
島田佳織: 国仲涼子
鷲尾豊: 中島裕翔(Hey!Say!JUMP)
島田宗太郎: 松尾諭
藪下小夜子: 和久井映見
谷口留美: 風吹ジュン
藪下俊雄: 松重豊
スタッフ
【脚本】
古沢良太(『リーガルハイ』シリーズ、『相棒』シリーズ、『外事警察』『ゴンゾウ』、映画『エイプリルフールズ』、映画『寄生獣』シリーズ、映画『三丁目の夕日』シリーズ、映画『少年H』、映画『キサラギ』など)
【企画】
成河広明(『リーガルハイ』シリーズ、『すべてがFになる』『ラストホープ』『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』
スタッフ2
『ストロベリーナイト』シリーズ、『謎解きはディナーのあとで』シリーズなど)
狩野雄太(『大使閣下の料理人』『世界一即戦力な男』など)
【プロデュース】
山崎淳子(『リーガルハイ』『マルモのおきて』シリーズなど)
【演出】
武内英樹(映画『テルマエ・ロマエ』シリーズ、『のだめカンタービレ』シリーズ、『電車男』『カバチタレ!』など)
スタッフ3
石川淳一(『リーガルハイ』シリーズ、『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』『ストロベリーナイト』『謎解きはディナーのあとで』『ジョーカー 許されざる捜査官』など)
【音楽】
住友紀人
【主題歌】
chay「あなたに恋をしてみました」(ワーナーミュージック・ジャパン)
【制作】
フジテレビ
【制作著作】
共同テレビ
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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