こんにちは、今日も今日とて読書感想です。
もうすっかり甲田先生のファンになってしまいまして、missingも古本屋で全巻買って読みきってしまいました。(本当は新品で揃えたかったけど、古すぎて書店に並んでなかったとです…)
さて、甲田先生のデビュー作でもあるmissingですが、断章のグリムとは違い、直接的に痛覚に訴えかけてくるような恐怖は少なかったです。どちらかと言えば、不気味な理解しがたい恐怖が目立った作品といった印象を受けました。
軽くストーリーを紹介しますと、文芸部に所属する五人の高校生が、学校内で巻き起こる都市伝説や怪奇現象を解決していくといったもの。
このストーリーに深く関わる文芸部員のメンバー五名をざっと紹介します。
『近藤武巳』何処にでも居る平凡な男の子で、優しく臆病な性格。文芸部員の中でも特に足を引っ張りがちで、蚊帳の外に追い出されることも度々ある要領の悪い少年だが実は…?
『日下部稜子』こちらも何処にでも居そうな平凡な女の子。変わり者が多い文芸部の中では最も交友面で優れている明るい女の子で、フットワークの軽さで活躍するが、それが裏目に出ることも…。
『木戸野亜紀』気丈な性格と口調で、刺々しい印象を周囲に与える女性部員。同い年ではあるものの、武巳や稜子を引っ張る事も多い姉御肌で頭も良い。反面、プライドが非常に高く、そのせいで苦悩する事も多い気苦労の絶えない少女。
『村神俊也』文芸部には珍しく、肉体派なガタイをした男の子。基本的に寡黙な性格だが、やる時はやる男で肉体労働に乏しい文芸部員の中では非常に頼り甲斐のある存在。しかし、過去のとある一件を引き摺っており、それに縛られて生きている。
『空目恭一』文芸部員のキーパーソンとも云える少年。武巳や稜子からは『魔王様』と呼ばれるほどに世間離れした性格で、都市伝説やオカルトに非常に詳しく、時に常軌を逸した発言をすることも。しかし、そんな彼の推理や発想は事件解決の鍵となることが多い。
それなりに古い作品なので探すのは大変かもしれませんが、都市伝説絡みのホラーが好きな方にはオススメ出来る作品です。文体も丁寧で、これは贔屓目が入ってるかもしれませんが、擬音の使い方は他のラノベと一線を画する上手さです。擬音に抵抗のある方でも、目から鱗が出る表現を拝めるかと思います。
最後に、この作品に興味を持った方にアドバイスです。
ライトノベルなので当たり前といえば当たり前ですが、missingはとりあえず3巻まで読むことをオススメします。
何故かと言うと、まだ1巻や2巻の時点では始動段階だからです。それでも充分面白いですが、3巻からの怒涛の引き込みは続きが気になって仕方なくなるに違いない。
作品紹介はこれぐらいにして、ここからは読書感想に移りたいと思います。
ネタバレが多く含まれるのでワンクッション置かせて頂きますね。
――――郷よ、郷よ、夢の、郷よ、旅の娘が帰ります。
雲とおく、肌近き地より、夢の娘が帰ります――――
よし、読書感想スタート。
missingは、1巻から最終巻に向けて段々と学校生活そのものが壊れていく過程を不自然なく魅せていく全体の流れにまず脱帽しました。
神隠しの物語で空目が、神隠しの少女、『あやめ』を連れ戻した事によって、『黒服』が空目を監視するようになり、そして魔女が文芸部員を気に入った所から全てが始まった訳ですね。
そして呪いの物語で、亜紀に隠された犬神家の呪いが明らかになり、遂に学校内に明確な歪みが生じ始め、魔女が計画を実行する為に動き出す。
次の首くくりの物語では、今まで本の作者としてしか登場しなかった謎の人物、大迫栄一郎こと小崎摩津方が姿を現し、稜子が異界に接触することとなる。
こうして出揃った面々の様々な思惑によって、更に物語は怪奇に染まってゆき、目隠しの物語では“そうじさま”が自分に憑いていることに武巳は気付いてしまい、それを一人で抱え込むハメになる。
更に怪奇現象は鳴りを潜めなくなり、合わせ鏡の物語では遂に今までにない程の多くの犠牲者が出てしまう。
そして、この事件の最中に異界に対して自分が無力だと悟った俊也や、自分が無力であることにコンプレックスを抱き始めた亜紀は徐々にアンバランスな精神状態になっていく。
首くくりの物語の時に、黒服の手によって記憶を喪失させられていた稜子も、更に眠っていた記憶を呼び覚まされることとなり、武巳も“どうじさま”に対する不安を強めていく。
こうして、文芸部員が殺伐とし始めた中、生贄の物語によって学校に眠っていた大きな謎が明らかになり、空目が魔女『十叶詠子』の打倒を決意し、物語は佳境に向かって大きく崩壊し出す。
座敷童の物語から、魔女の行動も活発化し、魔女の使徒が姿を現し、稜子の中に眠っていた魔術師も遂に表舞台に再登場することとなり、既に殺伐としていた文芸部員達に遂に亀裂が入り始めてしまう。
稜子を守りたい武巳は文芸部員と決別し、俊也は使徒の誘惑を一蹴し、過去のトラウマを捨てて異界側の人間の思考を獲得する。
そして最後のお話となる神降ろしの物語が幕を開き、魔術師と共に行動することを余儀なくされた武巳、そんな武巳を守りたい一心で、残った文芸部員と密かに情報を交換し合う稜子、魔女打倒を決意し、儀式を止めるべく思考錯誤する空目達、そしてここ最近姿を見せていなかった黒服達さえもが活動を開始し、魔女も山の神を降ろす為の最後の儀式を始める。
最終決戦の火蓋を切ったのは、携帯の都市伝説の犠牲者となっていた亜紀であり、一度は失われた犬神の呪いを、“どうじさま”の儀式を利用して使徒達の手によって蘇らせられてしまう。しかし、怒りに我を忘れかけるも理性を取り戻した亜紀は魔女に一矢報いることに成功し、空目達に魔女の儀式場への道を開いた。
だが、その最中で俊也は魔女の刺客によって重傷を負ってしまい、空目とあやめだけで魔女の儀式場に向かうこととなる。
その頃、武巳と魔術師は最強の敵、神野陰之の打倒に赴くも、武巳の臆病さのせいで魔術師は命を落とし、武巳は神野陰之から逃げるだけで精一杯な状況となってしまう。
こうして、絶望的な状況に陥るも、魔女の儀式場に辿り付いた空目の作戦勝ちによって、魔女は重傷を負いながらも駆け付けた俊也の手によって倒され、降臨しようとしていた山の神も、空目が自身を生贄にしてあやめと共に異界に去ることによって押し留めることに成功した。
が、これによって空目とあやめは完全に異界の住人へと戻り、俊也は行方不明に。犬神を抑え込んだ亜紀も学校から転校する事となり、文芸部員は何とか生き残った武巳と、武巳によって安全な場所に避難していた稜子の二人だけとなった…。
私の稚拙な文章で、全体の流れを書いてしまって申し訳ないです…。
でも、自分でmissingの大体の流れを書いてみて改めて、この作品の無駄のない伏線の張り方と展開に感嘆しました。
流石は甲田先生といったところ。
長くなるので、特に印象に残った部分だけ細かな感想を書かせて頂きますね。
まず、合わせ鏡の物語は、まさに甲田ワールドといった感じの内容で読んでて楽しめました。目にガラスを突っ込む描写は狂気を感じましたね。
後は、後半からの武巳の主人公っぷりに心を抉られました。本当にあの健気さと臆病さが可哀想で、それを全力で受け止める稜子の純真さにも胸を打たれました。
最後に、missingで私が一番のお気に入りだったキャラクター。亜紀について。
亜紀の性格にはかなり共感できる部分があって、一番感情移入してたキャラなんですよね。なので、最終巻のあの展開は自分の事のように精神を擦り減らされました。でも、本当に生きてて良かったです。あのまま異界に取り込まれて自滅の流れだったら、本当にトラウマもんになってたかも…。
空目が最終巻で亜紀に遺した賞賛の言葉は、せめて本心からのものであると願いたいですね。あの時の亜紀にとっては、本心であれ一時の慰めであれ、変わらなかったかもしれませんが、物語が全て終わって転校してからの彼女が、あの時の空目の言葉を思い出して立派に立ち直ってくれることを祈ります。
さて、かなり長くなってしまいましたが今回はこの辺りで。
主人公は武巳という設定のようですが、私の解釈だと全員が主人公でした。一人でも欠けようものなら絶対にmissingは成り立たず、魔女を打ち破り、その後を語ることも出来なかったでしょうからね。
うーん、次は何を読もうかな。
予定では十文字青先生の新作品、最果ての東を読み終わってから、されど罪人は竜と踊るの続きを読んでいきたいと思っています。
ではでは、ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。おやすみなさい(この記事書いてるのが実は深夜の4時だったり……凄い眠い)