経営委員選びについても同じ。現在の経営委員には政府与党に近い人物が複数いるが、民主党政権下の経営委員についても「いい加減な人選が一部にあった」と同党閣僚経験者から聞いた。当時のある総務大臣による人選が恣意的だったという。これでは民主党によるNHK批判にも説得力を感じない。
現在の放送法はNHKが不偏不党であることを絶対条件としながら、その経営委員と会長の選び方は政府与党の影響を受けざるを得ない仕組みになってしまっている。二律背反だ。不偏不党を優先させるのなら、放送法の一部改正も視野に入れるべきだろう。
たとえばBBCトラスト(元BBC経営委員会)は、あくまで視聴者代表としてBBCの業務を監督する。政治的な独立が担保されている。このような仕組みの導入はそう難しくはないはずだ。
一方で、会長を選出し経営を監督するNHK経営委員の場合、事実上は政府与党が選んでいるから、どうしたってNHK経営陣全体が時の政府与党寄りになってしまう。その上、最近は政府与党側に遠慮というものがなくなってしまったようで、露骨に政権と近い人物が経営委員に選ばれるようになってしまった。
たとえ政府与党寄りの人物であろうが、NHKのトップにふさわしい見識を持ち、放送法の意味をきちんと理解した人物が会長に選任されれば問題ないのだろうが、はたして籾井氏はそうなのか?
舌禍騒動を繰り返し反省もしない、前代未聞の会長
NHK会長は人格高潔で広く国民から信頼を得られる人物でなくてはならない。それは籾井氏自身が2月23日の衆院予算委員会で認めている。ところが、籾井氏は就任から現在までのたった約1年間で、物議を醸してばかり。広く国民から信頼を得られているとは到底思えない。
籾井氏は舌禍騒動を繰り返し、政府与党寄りを隠さない発言も繰り返している。NHKには過去20人の会長がいたが、ここまで世間を騒がせた人はいなかった。政府与党寄りが明白な人物は何人もいたが、少なくとも表面上は政府与党寄りの言動は控えていた。そして、世間から批判を浴びたら、きちんと責任を取っていた。
たとえば、籾井氏の三井物産での先輩にあたる池田芳蔵氏(14代会長)も国会での意味不明発言などが問題視されると辞任した。在任期間はたった9ヵ月だった。NHKプロバーで元は自民党担当の記者だった島桂次氏(15代会長)と海老沢勝二氏(17代会長)も国会や世間で批判を浴びると、潔く辞めた。ところが籾井氏は退く気配すら見せていない。それどころか、世間を騒がせていることについて反省する素振りもない。問題発言も止まらない。
2月5日には放送記者クラブのメンバーを相手にした局内での定例記者会見でこんな発言をした。記者が「戦後70年にあたり、従軍慰安婦問題を番組で取り上げるのか?」と質問したのに対し、「政府の正式なスタンスがまだ見えないので、放送するのが妥当かどうかは慎重に考えないといけない」と答えた。
政府の出方待ちをしていると説明した訳だが、こんな姿勢で方針を決める放送局など独裁国家以外ではあり得ない。まるで自主性の放棄。NHKは無党派層や野党支持者も含む全視聴者のための公共放送なのだが、そんなことは頭の片隅にもないのだろう。前代未聞の会長である。
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