それにしても、妻夫木がここまで二の線を崩すのは珍しい。恐る恐る感想をぶつけてみると、「そうですかねえ。正直に言えば、撮影が楽しかったからドライブがかかったんですよ。台本を見たときに『あまり泣ける映画じゃないな』とは思いました。でも完成品を見たら意外と感動しちゃったんですよね」。笑顔を浮かべ、あっけらかんと答えた妻夫木の回答はもちろんジョークだ。北川が「役者ばかだよね」と評するほど、妻夫木が披露してみせた演技は、緻密に計算しつくされ、演じる役をすっかり自分のものとして臨んだ結果なのだ。
「僕は駆け出しの頃から、実践していることがあります。台本を読みまくるということ。最低25回と決めていました。台本を読み込むと、自分の役がどんな人物なのか客観的に見られるようになる。違う目線から違う芝居がふと見えてくることがあるんですよ」。妻夫木は自らの役作りの基本線を教えてくれた。「クランクインした後は台本を持たない」と、さも得意顔で言う俳優もいるが、妻夫木は「僕は撮影現場でも、どこでもかしこでも、台本を読めるところならいつも読んでいますね。駆け出しの頃は台本を100回は読んでいたでしょう」と振り返った。