前回のコラムでは、アメリカンプロフットボールリーグ、NFLがレベニュー・シェアリングを徹底させることによって安定した組織経営をしていることを述べた。後半となる今回は、資金力の面とは別に、NFLが絶大なる人気を保ち安定した経営ができている別の要素について触れていきたい。
まずは、ハードキャップと呼ばれる徹底したサラリーキャップ制がその一つだ。
フリーエージェント(FA)制で移籍した特定選手に対する年俸の極端な高騰を抑制し、均等な戦力で試合をすることを目的に1994年に導入された。毎年リーグ主催者の総収入をNFL参加チームの数で割った金額が各チームのサラリーキャップとなる。各チームはそのサラリーキャップの上限(制限)金額までの範囲内で契約更改を交わすこととなる。
一般には最高年俸の選手から数えて51人がその対象で、上限をオーバーすると罰金やドラフト指名権の剝奪など多くの罰則を設けることによって足かせをはめている。このような形式はハードキャップと呼ばれている。
戦力均衡という目的が機能し、過去20年間でスーパーボウル連覇を達成したチームはわずか4チーム(5回)しかなく、3連覇を達成したチームはスーパーボウル史上1チームも出ていない。
なお、サラリーキャップには下限も存在する。これは、極端に戦力を削ってまでもチーム総年俸を圧縮し、分配金への依存度を過度に高めるような、経営努力を放棄するチームが現れることを防止するとともに、選手の待遇向上にも役立っている。
ちなみにメジャーリーグ(MLB)は1994年にサラリーキャップ制を導入しようとしたところ、反発した選手会がストライキで対抗。結局、今は代替策として課徴金制度(ラグジュアリー・タックス)が導入されている。
ドラフトで下位チームの戦力底上げ
戦力均衡に関しては、新人のドラフト制度にも秘密がある。NFLはドラフト制度を採用した初めてのスポーツリーグとして知られ、全ラウンドで前シーズンの最下位チームから順番に指名を行っていくウエーバー制が採用されている。
ドラフト指名を受けるのは主に大学4年生。また、近年では4年生以外でも高校を卒業して3年がたっていれば、事前に申請をすることでドラフト対象選手になることができるようなった(アーリーエントリー)。しかし、その選手がドラフトで指名を受けなかった場合、選手は大学でのプレイ資格を失うことになる。
NFLが初めてドラフトを開催したのは1936年。当時、資金力のあるチームにばかりに良い選手が集まり、その結果そのチームだけがさらに強くなり弱いチームとの格差がさらに広がるという悪循環が続いていた。そこで、各チームのバランスを取り、全てのチームに勝つ機会を与えファンのリーグに対する興味を引き立てようとの考えの下、ドラフト制度を導入したのだ。
ちなみに、2年前ダルビッシュ投手がMLBに挑戦した際には、最高入札額を提示したチームに交渉権が与えられるポスティングシステムが使われたことも記憶に新しいだろう。従来の制度とは見直されたとされるものの、来シーズンから楽天イーグルスの田中将大投手のメジャーリーグ挑戦がささやかれる中、この注目投手獲得に向けてどのように争奪戦が繰り広げられるのかが話題となっている。
ただ、ポスティング制度であれば、どうしても資金面が潤沢な球団のみ大型選手と交渉権を獲得するチャンスが与えられるということになってしまい、戦力の均衡化とは程遠い。その点NFLは、これまで紹介したようなレベニューシェアリング、サラリーキャップ、そしてドラフト制などを早くから取り入れ、経営の健全化と戦力の均衡化を図りながら毎年右肩上がりの成長をし続けているということは大いに注目に値する。
同志社大学経済学部卒業後、日本での社会人経験を経て、2008年単身ニューヨークへ。現地TVプロダクションに勤務し、主にメジャーリーグをはじめアメ リカンスポーツ関連に従事。日本向けに、コラム執筆、リポート、映像編集、コーディネート業等行い、幅広く活動する。NHKスポーツニュース番組コーディ ネーション、「おはよう日本」スポーツコーナーMLBスプリングトレーニング等他多数。週刊NY生活「MLBコラム」、週刊NY生活TV、テレビ東京「海 外いくならこーでね~と!」出演など