安倍晋三首相は19日、東京電力福島第1原子力発電所を視察した。貯蔵タンクから高濃度の放射性物質を含む汚染水が漏れた問題などで「しっかりと国が前面に出て、私が責任者として対応していきたい」と述べ、政府主導で解決する姿勢を強調した。7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会で汚染水対策を事実上、国際公約したことから、海外の不安を払拭し野党からの批判をかわす狙いだ。
首相の福島第1原発視察は、首相就任直後の昨年12月29日以来、2度目。19日は防護服を着て施設内に入り、汚染水対策の進捗状況を確認した。敷地内をバスで移動した前回よりも現場を直視する姿勢を鮮明にした。背景にはIOC総会で、汚染水は「全く問題ない」と政府主導の解決を約束したことがある。
首相は視察後、記者団に「汚染水の影響は湾内の0.3平方キロメートルの範囲内において完全にブロックされている」とIOC総会時と同じ言葉で状況を説明した。東電の山下和彦フェローが13日に「今の状態はコントロールできていない」と首相と異なる認識を示し、野党が追及を強めていた。
首相は視察時に会談した東電の広瀬直己社長には、福島第1原発5、6号機の廃炉決定を求めた。「地元の強い陳情が政府に届いていた」(菅義偉官房長官)からだが、福島第1原発全体の廃炉を決めることで汚染水対策に全力を挙げる姿勢を国内外にアピールする狙いもある。視察には海外メディアも同行させた。
政府は事故直後、一義的な責任は東電が負うとした。原子力損害賠償法には、異常に巨大な天災などの場合は電力会社は免責になるとの例外規定があるが、当時の菅直人政権は適用しないと判断した。
2011年9月には被災者に損害賠償する資金を肩代わりする機関として、原子力損害賠償支援機構を設立。国から交付国債5兆円を受け、必要に応じて現金にして東電を援助する仕組みだ。
一方、事故発生以来、原子炉建屋に地下水が流れ込んで汚染水が増え続ける状況は改善できず、東電は地上の貯蔵タンクを増設してしのいできた。しかし今年8月、そのタンクからの汚染水漏洩が発覚した。
政府は9月3日の原子力災害対策本部で、山側から流れる汚染前の地下水が原子炉周辺に流入するのを防ぐ凍土遮水壁の建設と、放射性物質の浄化装置の増設に470億円の財政出動を決定。首相は対策本部で「政府一丸となって解決にあたる」と強調した。
ただ凍土遮水壁の設置にはコストや技術の面で不安がつきまとう。自民党の高市早苗政調会長は、国と東電の責任分担や指揮命令系統を明確にする特別措置法を検討する考えを示しているが、どこまで国費投入すべきかはこれからの課題だ。
野党は首相の汚染水問題への認識を追及する構えだ。民主党の海江田万里代表は19日、首相が「影響は完全にブロックされている」と述べたことに「東電側が私たちの聞き取りに対して話したことと違う。海洋のモニタリング結果を見れば首相が言っていることが本当かどうか判明する」と批判した。
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