ここから本文エリア 滑る指 こぼれた勝利 広陵・有原航平投手2010年04月02日 ぬかるんだ足元。思うように制球が定まらず、何度も足でマウンドをならした。5―4で迎えた8回裏の守備。雨脚はどんどん強くなる。有原航平君(3年)は、内野安打と四球で1死一、二塁のピンチに立たされていた。
二塁走者をちらりと見て、捕手のミットに投げ込んだ。日大三の8番根岸昂平(ねぎし・こうへい)君(同)はバントの構え。昨秋の中国大会以降、バント処理は繰り返し練習してきた。いつも通りさばいて一塁へ。「あれ?」。球が握りきれていない。でも、このまま投げないと間に合わない。「それるな!」と念じながら放ったが、球は一塁側の白線を沿うように転がっていった。二塁走者が同点のホームを踏んだ。 ◇ 昨秋の中国大会準決勝。同じようなバント処理のミスが大量失点につながり、開星(島根)に敗れた。この冬、守備練習に励んだ。加えて取り組んだのが、投球の幅を広げるチェンジアップだ。腕の振りは直球と同じだが、握りを変えて回転数を減らし、打者の近くで沈ませる。 「持ち味の直球で押すより、チームの勝ちに貢献できる投球をしたい」。広陵の柱として、変化を選んだ。 選抜大会では、低めに集めたチェンジアップに打者のバットはことごとく空を切り、再三、ピンチを脱した。日ごとに手応えが増していった。 しかし、この日は8回から雨で指が滑り出した。同点にされた後は、苦し紛れに投げた甘い直球を打たれた。この回6点を奪われ、上野健太(うえの・けんた)君(同)にマウンドを譲った。4試合に先発。533球を投げ、37個の三振を奪った春が、終わった。 ◇ 「大量失点の回をつくらせず、投手陣全員で勝てるチームにしたい」。試合後すぐ、目標を定めた。そして、うつむき顔を上げ、言った。「甲子園に必ず戻ってきます」。心はもう夏に向いている。「雨の中、守ってくれた仲間に感謝したいです」。そういたわる姿は、感謝の心を重んじる広陵の、紛れもないエースだった。 (広島版4月2日掲載) |