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2015年2月4日(水)
韓国経済政治の乱気流 日本は巻き込まれるか

ゲスト

黒田勝弘
産経新聞ソウル駐在客員論説委員
朴英明
韓国経済アナリスト
金慶珠
東海大学教養学部国際学科准教授

支持率29%過去最低を更新 朴政権の現状と国民の不満
秋元キャスター
「朴政権の現状についてですが、大統領に就任してからこれまでの支持率の推移ですけれど、政権が発足した2013年が67%という高支持率だったこともあったのですが、セウォル号沈没事故のあと、大きく支持率を下げていまして、その後、元側近による政府高官人事への介入問題が明るみに出るとさらに下がりまして、最新の世論調査結果によりますと29%という過去最低の支持率となっています。この支持率急落の背景をどう見ていますか?」
黒田氏
「支持率ですけれども、昨年のセウォル号の事件が非常に衝撃的な事件だったので、セウォルの対応が悪いということで、そのままガタ落ちしたわけですよね。その影響がずっと続いているのですが、このところ20%台にまで落ちたというのは、1つは、金の問題と言いますか、国民1人1人に関わる問題で、1つまずい問題があった。1つは、税金問題、つまり、年末調整でだいたい皆返ってこようと思っていたんだけれども、どんどん年末調整でとられそうだという話が出てくるもので、ある種の増税ではないですか。これはとんでもないという話になったのが1つと」
反町キャスター
「日本みたいに消費税の引き上げみたいな、たとえば、所得税の税率をアップして結果、年末調整でとられるようになってしまった?」
黒田氏
「必ずしもそうではないんだけれども、もっと複雑なんだけれど、そういうことが1つ。もう1つは、健康保険料がどうも上がりそうだというのが出ちゃって、こういうの皆すぐにくるではないですか。朴槿恵大統領はいわば増税なき福祉が公約でしたから。まったく逆のことをやっているじゃないのという若干の衝撃があって、それが非常に下落につながったということが現状ですね」
反町キャスター
「29%という数字。これは支持率としては危険水域なのですか?」
黒田氏
「20%というのは良くないと思います。これは四捨五入すると30ですけれども、前の李明博大統領は就任直後に例のアメリカ牛肉反対デモで20%になりましたけれども、あれは別ですけれども、だけど、ずっと下がっていますから、ちょっとまずいです。それと、期待した支持層が少し離れつつあると言われています」
金准教授
「大統領になる時の政権公約、言い換えると、政権の課題とも言えるのですが、これは大きく2つあるんですね。1つは経済。2008年のリーマンショック以降、韓国経済も非常に打撃を受けていますので、経済の活性化というものが1つ。それから、もう1つは福祉の強化。ところが、福祉の強化も、経済活性化も現在のところ、なかなか成果が出ていない。特に福祉に関しては増税なき福祉ということで、これまで日本の民主党が過去にやって、結局は最後、消費税を上げざるを得なかったという前例がありますけれども、韓国の場合も、増税しないと言いながら、実質的に、たとえば、健康保険料を上げるとか、あるいは先ほどおっしゃった、年末清算、日本でいう確定申告に似ているんですけれども、あれも結局は税金が戻ってくると思っていたら、むしろとられるような羽目になったとか、それ以外にも年金も含め間接的な増税というものがある。わかりやすい例で言えば、たとえば、たばこ1箱が、韓国でこれまで200円程度だったのが現在、一気に450円ぐらいに値上げをしたんです。これも庶民感覚としては増税しないと言っておきながら、増税しているではないかと。一方で、福祉は良くなったかと言うと、暫く前にあった保育園ですよね、児童虐待のように、タダほど高いものはないというか、システムがあまりにも粗いというような不満も出ている。まだ、3年目とはいえ、半分も達していないにもかかわらず、現在あちらこちらでレームダック的な現象が起きていると。そこが1番、むしろ心配していかなければいけない部分」

韓国経済の現状と危うさ 財閥・輸出偏重構造
秋元キャスター
「韓国経済は財閥への依存度が高いと言われているんですけれども、朴さん、実際はどうなのでしょうか?」
朴氏
「実際高いですね。なぜかと言いますと、まず韓国は1965年の国交正常化のあとに、現在の朴槿恵大統領のお父さんが、朴正煕氏が大統領で、経済再建をしていったんですよ。あの時の原資というのは、日本からの無償3億とか、有償2億ドル、民間からの3億ドルの借款がある。限られたお金でできるだけはやく経済をキャッチアップしていかなければならなかった。そうすると、どうしても大きな会社に全て投入して、そこで上から下まで全部やってもらった方がキャッチアップは早いんですよ。昔、日本で総合商社がもっと元気だった頃に、ラーメンからミサイルまで売るというのがありました。韓国の財閥は、ラーメンからミサイルまでつくって売っちゃうんですよ。つまり、メーカーも持っている。特に韓国経済というのが1997年のアジア金融ショックの前に、もっと言うと1987年の民主化前とあとに分けられるんですけれども、民主化前の時代は、政治と財閥がある程度やって、政府が財閥を優遇し、とにかくキャッチアップを急ごうと。そうすると、無理が出るんですよね。中小企業の育成だとか、内需の拡大だとか、そこまで手がまわらなかったんですよ。財閥に何でもかんでもやらせるから中小企業だって育ちようがないですよね。そういう第一期がございました。1987年に民主化して、1992年の金泳三さんでしたね、結構、財閥を規制して、ある程度金融自由化とかをやったんです。ところが、今度は1997年にアジア金融ショック。韓国経済がガタガタになっちゃったんですね。その時、IMFから5000億ドル受けて、30ぐらいあった財閥が半分ぐらい入れ替わりました。実は一昨年あたりの企業規模で言いますと、韓国経済の4割ぐらいの経済力はだいたい10大財閥から30大財閥というところでつくっています。その財閥が最近、結構苦しいんですよ。代表的な例は、サムスン電子のスマホですけれども、簡単に言いますと、中国市場で苦戦しているんですね。なぜかというと、日本企業に追いつけ、追い越せで、良いものをつくってやっていった。ところが、ある時から、自分達の追いかける立場が、逆に、中国企業から追いかけられるようになっちゃった。前には、日本企業やアメリカ企業がいて、高級製品があるとサンドイッチになっちゃってなかなかうまくいかない。この財閥が韓国経済の中に占める割合というのはなかなか把握しづらいのですが、ざっくり言って、国内の経済力の中で4割ぐらい占めるかなと。ところが、4割も占める財閥は雇用がせいぜい全労働人口の10%しかないんです。すごく給料はいいですし、それ以外の方達と中小零細企業。もっと言いますと以外なのは、韓国はサラリーマンの寿命短いです。45歳か50歳になったら肩叩きされちゃいますから。そうするとやることがないですから自営業を始めるんですよ。だから、自営業者の割合が3割弱」
金准教授
「韓国経済を論じる時に財閥の在り方を論じることが、韓国経済を論じることイコールにはつながらないですよね。経済というのは成長しなければいけないし、分配もしなければいけない。国内的に分配の問題では常に財閥はやり玉に挙がりますし、政治的な批判の対象にもなると。しかしながら、韓国の経済成長自体が、実は財閥と言われる、その巨大集団によって、短期間の間で一定の成果は挙げてきたというのも事実です。ところが、今おっしゃったように、ここに来て非常に苦戦しているのも事実です。それはどうしてかというと、韓国の場合、経済を引っ張るやり方として2つの方法がありまして、1つは外需ですよね。もう1つは内需ですよね。この外需というものを、いわゆる貿易依存度を日本と比較しますと、世銀の発表では、韓国の場合、貿易依存度がGDPに比べると約100%近くになるんですね。97%かな。日本の場合は3割に満たないので韓国は貿易に依存しながら、輸出や輸入を通じて国力、経済力を上げていたということですが、これは、言い換えれば、世界の経済状況というものの影響をもろに受けやすい体質ではあるということです。おっしゃる通り、サムスン電子や自動車というのは苦戦していますけれども、貿易全体でみれば、船舶ですとか、石油化学、こちらの方は増やしていますし、貿易収支も黒字です。むしろ、問題は内需がなかなか振るわないことであり、現在の朴政権が苦労しているのも、その内需がなかなか、どんな政策を通じても活性化されないというところに悩みがあるわけです」

朴政権の経済政策
秋元キャスター
「朴政権は、政権樹立当時、財閥や貿易依存という経済構造を改革するために、こちらのような経済政策を掲げました。財閥改革を行い、大企業と中小企業間の格差解消を目指す『経済民主化』、新しい産業と市場を創り出す『創造経済』。『内需活性化』という、この3つですけれど、これはあまりうまくいっていないということなのでしょうか?」
朴氏
「実にうまくいっていませんね。現在のところまだ1個だけ残っていますが、これもどうなるか、ちょっと。内需活性化ですね。つまり、先ほど申し上げましたけれども、経済民主化というのは財閥を規制して、既得権益から中小企業、内需依存型に変えていきましょうよと。創造経済というのはITだとか、そういうベンチャーとか、そういうものを創っていきましょうと。これが最初の目玉だったんですよ。あと構造改革を通して、内需活性化してきますよというのが、3本の矢だったのですが、財閥が規制できないですよ。手に負えない。財閥は強いです」
反町キャスター
「どういうことですか?具体的に財閥の強さはどう思ったらいいのですか?」
朴氏
「面白い例がありまして、サムスングループ、現在皆さんが日本で1番知っている。私は、サムスングループの経営陣は国の経済チームの閣僚よりもしっかりしていると思います」
反町キャスター
「しっかりしているというのは、人材的に?」
朴氏
「組織的にしっかりしているし、ちょっとイメージしてください。オーナーという会長がいます。その下に社長団協議会、30社のグループの社長団のグループがあるんですね。そこの横に、会長の間と社長団の間に未来戦略室というのがあるんですよ。この未来戦略室は室ですけれど、室長は副会長ですよ。各チーム長はグループの会長、社長レベル。そういうスタッフがバッと来て、横にサムスン経済研究所というシンクタンクを押さえているんですよ。さらに下にグループ会社30社があって、国内営業所、海外拠点、スモール経済チームですね。これは例えですが、会長がいわゆる大統領、それから社長というのは各経済閣僚、大臣。未来戦略室長というのは大統領補佐官です。研究所はいわゆるシンクタンク。グループ30社というのは各省庁。それから、海外拠点というのは出先の大使館とか、そういう拠点」
反町キャスター
「たとえば、国のコントロールが及ばないのかどうか、韓国がアメリカとFTAを結びますといった時に、サムスングループが困るといったものは、必ず入らないぐらいの、政策を曲げるぐらいの力を持っているかどうか。そのへんはどうなのですか?」
朴氏
「そこまで、私も申し上げられませんけれども、おそらくそれぐらいの意思表示ができるぐらいはあると思いますよ」
反町キャスター
「日本にも世界に誇るような国際、多国籍企業がたくさんありますけれど、その企業と韓国の財閥と何がどう違うのですか?」
黒田氏
「財閥というのが何だということですよね。一言でいうと家族経営だと思います。家族経営、家族支配。従って、親父がいて、その兄弟、子供達で全部コントロールをしているということをやっているんです。そのために株も持ちあっているんですけれど、その代わり、儲けたやつも全部、自分達で分けているということでしょう。だから、よく財閥のトップが捕まります。サムスンの李健煕さんはじめ、捕まっていない、刑務所に入っていない財閥はいませんよ。なぜかと言うとだいたい突っつくと全部悪いことをやっている。1つは背任とか、横領とか、脱税ね。これは自分達が儲けた金を自分達でまわしているからですよ。これを突っつかれたら全部オーナーにかかるということですよね。しかし、親父以下、家族で支配をしているために、その事業、プロジェクトをやる時に1番のメリットは決定がはやいということです。日本の企業は下から積み上げていって議論するでしょう。決定まで時間かかります。その間に、韓国は先に投資しちゃうということがあって、即断、即決で非常に有利だと。短期決戦に強いということではないですか」
反町キャスター
「たとえば、政治に対しての影響力で言うと、閣僚のポストとか、人事にまで介入するぐらいの力というのは、財閥は持っているのですか?」
黒田氏
「現在は直接的にではないですけれども、ただ、ちょっと悪口を言えば、財閥は家族経営だから儲けた金は自分達で全部支配しているわけですから、それは政治資金とか、勝手に自由に使えるというのはありますよ。だから、いろんな役人とか…」
反町キャスター
「透明性の問題ですね」
黒田氏
「そうそう。それは1番大きな問題で透明性がないです。と言うのは、改善するには経済の民主化、つまり、財閥の規制だとかということですよね」
反町キャスター
「黒田さんが見て韓国経済を立て直すためにどうしたらいいのか。民主化と言いながら、財閥には手をつけられない。内需活性化もなかなか内需も広がらない。韓国経済活性化に向けた方法は何があるのですか?」
黒田氏
「それはサムスンの李健煕さん、あるいはその息子さんに考えてもらえればいいんだけれども、日本で韓国の経済がダメだと、財閥は没落だという議論がよく出るのですが、これは少し過剰な反応ではないかという印象を持っているんです。なぜかと言うと、日本では現在、韓国批判が厳しいでしょう、慰安婦問題をはじめ。だから、韓国に対する批判、非難が喜ばれるということがあって、どうも過剰に韓国がダメだ、財閥はとんでもないとなっているように思うので、実態は、それでも苦労して、現在、苦労しつつあって、利益も落ちているし、大変であって、それは皆自覚していますよ。だけど、まだマクロでいえば、今年は成長率は3.5%ぐらいはいっているし、まだ輸出は黒字だし」
朴氏
「いっていない。いっていない」
黒田氏
「要するに、勝ち組は勝ち組でがんばっているということがありますし、我々はそんなに心配してあげる必要はないと思いますね」
朴氏
「ところが、数値だけ見ますと、たとえば、昨年の第3四半期、第4四半期の数値で見ますと、輸出も、製造業も、金融危機、1997年のショック以来、四半期連続で対前期を下まわっているんですよ。ただ、数字がどうこうではないんですけれども、雰囲気的な面がないではないですか。2期連続で、なおかつ1997年以来のこと。それから、当然輸出が落ちている、製造業が落ちていますから、今度は内需の方に影響がくるんですけれども、内需がなかなか活性化しないんですよ。ですから、私は、決して悲観論で言っているわけではなくて、ファンダメンタルズとしてはあまり素材はありませんよと。先ほど、金さんがおっしゃったように世界はリーマンショック以降、緊縮、ヨーロッパの問題もありますし、縮小経済に入っているのではないですか。そうすると、これまでみたいにつくったら、どんどん欧米に輸出できるかといったら、向こうも十分買ったよとなっているわけですよ。それがなかなか輸出が前に進まない事情ですよね」

深刻な少子高齢化
秋元キャスター
「さて、韓国社会の今後の問題として指摘されているのが、急速に進む少子高齢化です。低い、低いと言われている日本の合計特殊出生率は、日本も現在、1.43%ですね。ちょっと持ち直しています。一方、韓国は1.19%と、日本以上に少子化が進んでいるわけですけれども、この出生率の低さの原因は何だと見ていますか?」
金准教授
「いろいろあるんですけれども、子育ての負担というものが非常に重いということですよね。ただ、日本の場合、たとえば、1人の子供を産んで、大学に行かせるまで、金額だけでいうと2000万円ぐらいかかると言われているのですが、韓国の場合は、それがだいたい4000万円ということで、つまり、学校教育だけではダメで、向こうは競争社会で、就職するためにいろんな留学とか、いろいろ学びごととかをやらなければいけないということで、その費用の負担が非常に重いですね。そういうものが1つあるのと、日本とある意味、全体的に似ているところもあって、社会全体が少子高齢化していき、非婚率というものがどんどん増えていく。共働きが増えていくという中で伝統的な家族主義の姿というよりは、よく新家族主義と言っているんですけれども、個々人が家族という、この集団にぶら下がる形で生きていかなければいけない。こうなると、子供が1人増えるというのは、家族にとってはむしろ非常に大きな負担となってしまうと。全体の運営をしていく。そういう現状が…」
反町キャスター
「負担感で子供を受け止める時代ですか?」
金准教授
「そうなっていますよね。日本もある程度同じになっていると思います」
黒田氏
「韓国は、伝統的には家族主義です。ある種、儒教的な価値観ですね。家族主義が強かったんですけれども、近年は非常に、それが揺らいでいると思います。だから、お父さん、お母さんに対しても、子供達が面倒を見るのを嫌がるとか、それから、先ほど、おっしゃられたけれども、子供が負担だということを堂々と言うようになりました。特に、女性。子育てが大変だということですよ」
朴氏
「実は、財閥の社員は、現職でいる間は会社が教育費を負担してくれるんですよ」
反町キャスター
「それはインセンティブですね」
朴氏
「ですから、私の同期は、先ほど45歳、50歳と言いましたけれど、役員になったら、息子が大学卒業するまで会社が全部出してくれるんですよ」
反町キャスター
「そんなことやったら、格差がずっと固定化しますよね」
朴氏
「だから、おかしくなっちゃうんです」
黒田氏
「日系の企業でもそういう教育手当というのはあります」
反町キャスター
「そうやらないと人が集まってこないのですか?」
朴氏
「だから、皆、財閥に入れたくて一生懸命子供達に教育をさせるんだと思うんです」
金准教授
「この問題は、単純に教育費の問題というよりも、財閥も含めて全てそうですけれども、現在、韓国の国民が何に1番不安があるかと質問を変えてお答えするならば、簡単に言うと韓国は日本に比べると、社会の公共部門が非常に脆弱であるということが言えると思います。たとえば、教育1つとっても、本来は学校教育というものが、全ての教育プロセスを賄えなければいけない。しかしながら、競争が激化するにつれて、学校教育だけではダメだということで、どんどん他の、いわば塾とか、そういうところで、お受験戦争がどんどん起きてくるわけ。だから、政府はそれを規制しようと、様々な、塾に通わせなくてもいいような仕組みをつくるのですが、それがまったく通用しないと。そういうことが結局、中産階級の教育の機会がどんどん拡大されるにつれ、お金持ちのお受験戦争ではなくて、一般の国民、中間層にまでこれが浸透してしまっているが故に、一般の家計では、資金力による負債、負担というものが増え、内需が低迷して、なおかつ不動産価格も下がってしまっていると。だから、政府にやってほしいのはちゃんとした教育福祉の在り方。学費が現在、大学などは高過ぎるので、それを下げてほしい。あるいは医療、健康保険料をまた値上げするということに対する不満もあるとおっしゃいましたが、同様に、医療福祉ですとか、あるいは年金を含め、将来に対する福祉の、いわば未来像を提案してほしいにもかかわらず、そういったことに政府が何だかんだ言いながらも、増税なき福祉みたいなことを言っているわけなので、それは道筋が立たないのではないかというのが1番の不安ですね」

戦後70年の日韓関係 安倍談話の行方
秋元キャスター
「安倍談話は、どこまで過去の談話を継承するのかというのがポイントになると思います」
黒田氏
「安倍さんは具体的に、村山談話、小泉談話の文言をその通り使う、使わないについては言及してなくて、むしろ曖昧にしていますね。僕は個人的には、侵略という言葉を総理談話として使うべきではないと思うんです、個人的に。と言うのは、国際的に自分達の戦争を侵略だと言って、こういう反省の談話というのはおそらく国際的にはないと思いますね。過去にも異例だと思いますよ。侵略ではなくて戦争でいいのではないか。戦争だとどちらが悪いと(言っても)、両者が悪いわけですから。そういう程度で僕は安倍さんは収めるのではないかと。そうすれば、反発あると思いますけれど。だけれど、これは日本の談話であると。日本人のある種の過去の戦争に対する思いがあるわけだから、そういうものを出すべきであって、ひたすら、たとえば、中国、韓国のことだけを考えて、この談話をつくるというのは反対ですね」
反町キャスター
「あくまでも国内向けの談話だと…」
黒田氏
「特に、1つは中国、韓国向けではなく、むしろ外野向けというのを考えなければいかん。アメリカ含めてね。要するに、中国とか、韓国には何を言っても、どんな代案を出しても、絶対批判しますよ、これは間違いなく。だから、歴史認識で(一致)できないんだから、それは無視してもいいんです。むしろ外野、他の国際社会と言いますか、そこを意識した形の談話にした方がいいと思いますね」
金准教授
「日本の歴史認識の不一致。こちらの方がはるかに外から見れば、日本政府のメッセージがぶれるというふうにも聞こえると。つまり、外から見た時の日本の歴史認識というのは、村山談話と河野談話の2つですね。特に、村山談話が国際社会に向けて日本政府が発信したメッセージであると。なぜ日本の中でこのように議論され、もしかしたら、その文言などが取り消されるかもしれないのかと、これは日本の中の歴史認識というものが定まっていないからですよね。私は、歴史認識というのが100%定まるケースというのはほとんどなくて、問題はそこをオープンにどこまで積極的に議論するかということですが、安倍さんの国会答弁などを聞いて、私が腑に落ちないと思うのは、歴史は歴史家に任せると。歴史認識は歴史家に任せると言うけれど、そういうものなのでしょうかね。歴史感というのは、それこそ政治家がつくるものであり、国民の1人1人が歴史認識をどのように持つかということによって、学問的な研究とは別に、社会の歴史感というのは形成されるべきものだし、そうあってきたんですね。ですから、私はその教育においてもそうですが、もちろん、韓国の反日教育は批判される箇所があると思うんですけれど、一方で、日本はあの時代を本当にきちんと教えて、向きあおうとしているのか。議論して日本人としての歴史感がきちんと出た段階で出る談話なのかというと、私はどうもその時々の政権の意向でまた出て、もしかしたら安倍談話のあとにまた他の政権は他の談話を出すかもしれない。そういうことが繰り返されることが日本人としての果たして本当の歴史認識と言えるのかと思います」
朴氏
「僕はいつも不思議に思うんですけれど、黒田さんがアジア向けだとか、外向け、金さんが韓国向けとおっしゃった。僕ら在日から見ますと、日本は現在ちゃんと歴史認識をしようとちゃんと努力しているわけです、それなりに。僕はそう見ています。たとえば、歴代大統領が日本に来られて天皇の宮中晩餐会だかをやって、私が昔現役の記者の時は、金泳三さんと一緒に見ましたけれど、それですっきりしましたと、捨て去りましょうと。韓国のメディアも、それで日韓関係は終わりだと、解消したと言っていて、ただ、その後、先ほどの靖国参拝ではないけれど、教科書批判の問題が出て、もういっぺん日本人は反省してないという議論になって、現在まで延々と大統領が代わる度に、そういう話があるんですね。さあ、今度は日本の河野談話を見直しましょうと言った瞬間に、なぜ見直すんだと。僕が1つお伺いしたいんだけれども、李明博さん来られて最初、天皇陛下と、これで日韓関係が私の代できれいさっぱり清算しますと言ってやったではないですか。是非天皇も韓国にいらしてくださいと。すごく嬉しかったんです。これでようやく、長年のゴチャゴチャが終わるんだと。ところが、何年かしたら、竹島に行っちゃった。しかも、帰ってきたら、天皇がもし来たければと、ご自身が招請しといて、来たければ謝罪してまわれと。河野談話を安倍さんが見直すというのはわかるんですよ、次の世代の人が。言った本人が在任中に180度正反対のことを言う、これはどう理解したらいいのですか?」
金准教授
「李明博さんの竹島訪問と歴史問題は別個の問題です。それを、日韓の過去を乗り越えると言っておきながら、何なんだというのはちょっと論点が違うと思います。朴さんのおっしゃることも良くわかるし、黒田さんのおっしゃることもよくわかると。その非は韓国にあるのか。それで韓国さえちゃんとしていれば、日韓の間ではそもそも問題がなかったと言うのは…」
朴氏
「そういう言い方ではないですよ」
金准教授
「私は、それは違うと思うし、韓国も同じだと思うんですね。お互いの問題を見ていきましょうと。相手を非難する前に、まず自分達は本当にこの歴史ときちんと向きあってきたのか、妥当な主張というものを、あるいは話しあい、協力の模索というものをしてきたのか。日韓基本条約自体は非常に高く評価されるべきものだと思うんです。その後、築いてきた関係というものが現在全てまるでブラックホールのように、この歴史認識問題に吸い込まれている。この状況に至った本当の理由というものを私達が冷静に考えてみないと、現在、両国のメディアでは、やれ帝国主義だ、やれ反日だということだけで、お互いを煽っていて、それでまったくお互いの姿が見えないままだと思いますよ」

金慶珠 東海大学教養学部国際学科准教授の提言:『知彼知己』
 金准教授
「日本語で言うと、敵を知り己をしれば100戦100勝という孫子の兵法に出てくる話ですけれど、戦争に例えなくても、現在日本と韓国というのがそれだけ無駄な争いをある意味繰り返している背後にはお互いを知らないというのが1番大きいと思うんですね。日本の皆さんも韓国社会、経済含めて、よく知らないし、これまで知る機会もあまりなかった。韓国も、一方では日本に対して随分研究をしているようだけれど、一般の人々というのはどうしてもメディアを通じたイメージでお互いを捉えていて、それ以上知ろうとしない。そこで否定的なマイナスイメージの中で、これ以上知る必要もないし付きあう必要もないということになっているので、もう少し興味を持って見てみれば、そこに非常に面白い社会があり、日本と韓国が共有している価値観や、今後さらに協力を模索できる様々な可能性、楽しさ、面白さというのを、お互い十分持っていると思うんですね。そこを発見していく。だから、全ての関係が政治だけではない時代において、私達1人1人が持つべき姿勢ではないかと思います」

韓国経済アナリスト  朴英明氏の提言:『同質性と異質性』
朴氏
「同じだったから良いかとか、異なるものだから悪いという問題ではないですね。たとえば、私達アジアの人間は、姿・形は同じです。日本人も韓国人も中国人もだいたい似たり寄ったりです。ところが、立ち振る舞いだとか、価値基準とかは異なる部分が多いです。ほとんど異なっている部分が多いと思うんです。だから、異なっているからこの人はダメだとか、同じだからこの人好きだとか、そういうもので判断しない方がいいのではないか。むしろ逆に言うと、異なっている人達が、むしろお互いコミュニケーションとりあって理解しあうことが大事ですよね。敢えて申し上げますと、同質性と異質性を知って、自分の意志を相手に押しつけないということ。相手のこともちゃんと受け入れて、日韓首脳会談はコミュニケーションをやっていただきたいなと思います」

黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員の提言:『一衣帯水』
黒田氏
「ごく通俗的、平凡な表現ですけれども、現在、僕はソウルにいて思うのですが、日本で非常に韓国はけしからんというような反韓、嫌韓感情が非常に強いということが気になってるんですね。日本で韓国はもういいと、遠ざけよう、無視しよう、場合によっては国交断絶だという声も出るぐらいですから、非常に感情が悪いのですが、だけれども、引っ越しはできないではないかと。そうは言っても、日本がいくら韓国を遠ざけようと言ったって、遠ざからないと。一衣帯水にいるためにお互いの利用価値、プラスのみならず利用価値を探した方がいいんじゃないのと。今日も経済の話が出たんですけれど、北朝鮮とあわせて8000万人の人口ですけれど、相当な経済水準の8000万人の人口がいる国ですから、日本にとって相当利用価値があると思いますね」