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どうやって逃げればいいのか。やはりここは砂で目潰しを実行するべきか?
けれど失敗した後が恐ろしい。どんな仕打ちを受けるか、考えるだけで身の毛がよだつ。
『ずいぶんと可愛らしい不審者だ』
あたりに満ちていた沈黙を破ったのは、寝ぐせなのか天パなのか、あちこち跳ねまくっている栗色の髪が特徴的な男だった。気怠そうに前髪をかき上げながら、男達の輪の後ろから現れる。
『騒がしいから何事かと思えば。鼠の正体があどけない娘とはな』
ものすごく怠惰そうだ。やる気のなさを全身から醸し出している。なのに、男達は彼が現れた瞬間きりっと姿勢を正した。高位の身分の者に対する態度だ。
この男、意外と偉い奴なのだろうか。
彼はわたしの目の前に立つと、無感動な藍色の瞳で見下ろしてきた。まったく興味のない物を見る目だ。けれど慎重に注意深く、わたしを観察していることが分かった。
『さて、どうやって島に立ち入ったのやら。ひ弱な娘にしか見えぬが』
腕を組み、ゆるく首を傾げられる。わたしの反応を伺っているようだった。
もしや、これって尋問だろうか。
わたしは言葉を発するべきか否か迷った。
彼らの言葉が分かっても、話すことなどできない。それにわたしの言葉が彼らに通じるかも怪しい。というか絶対通じないだろう。だというのに、彼らの言葉を理解していると分かれば、さらに不審に思われるんじゃないかな。
『言葉が分からぬのか。それとも声が出せぬのか』
どちらだろうな、と面倒そうに男は呟き、背後にいた少年に目を向けた。
『どちらにしろ、島に置いていくわけにもいくまい。お前が船まで連れて行け』
『分かりました』
二人の会話に、わたしは青ざめた。
――嘘、嘘、嘘! それは困る、というか嫌だ!
ええい、こうなったら強行突破、わたしの底力なるものを見せつけてやるっ。
決意を胸に果敢に逃亡を図る。が、たった数メートルで頑丈な腕に腰を攫われてしまった。
このっ、誰だ! わたしの決死の逃亡を邪魔する野郎は!
『ははっ、威勢のいいお嬢さんだ』
睨みつけた先にあったのは、爽やかな声に相応しい爽やかな笑顔。まさに、ザ・好青年! って感じの若い男だった。奇麗な茶髪に鮮やかな緑の瞳。纏う色彩も爽やかだ。
しかし、わたしを抱える腕とは反対の手、つまり右手なのだが、その手に持つ武器――戦斧が非常に物騒だった。爽やかさとは対極に位置するものだぞ。
ちょっとでも暴れたら鋭い刃に当たってしまいそうで、わたしは大人しくならざるを得なかった。
もしかして、それを狙っているのか? いや、まさかねえ。
『そう、いい子だ。暴れると怪我をしてしまう。痛いのは嫌だろう?』
前言撤回。こいつ確信犯だ!
わたしの睨みもなんのその、男は楽しそうに笑う。
『また逃げ出しそうだし、俺が船まで運んであげよう』
いらん。お前に運ばれるくらいなら少年に運んでもらった方が数倍マシだ。
『裸足のお嬢さんを歩かせるのは、男としてもできないしなあ』
嘯く男の足を踏みつけたが、丈夫な革靴なので意味がなかった。
『あははっ、愉快だなあ』
わたしは猛烈に不愉快だよ!
結局男から逃げられず、わたしは彼の肩にひょいと担がれてしまった。
歩き始めた男を追う少年を見れば、彼はひどく疲れたように片手を顔に当てて天を仰ぎ、大きなため息を吐き出していた。
少年よ、君の気持ちがよく分かるぞ。この男、人の話を聞かないタイプだろう、絶対。
わたしは売られゆく仔牛の気分を味わいながら、がっくりと項垂れた。
逃亡、失敗である。
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