2006年07月25日

箱物教育

「公立学校のIT化大幅遅れ、LAN整備は目標の半分」という読売新聞の記事。

とっても気になる見出し。
だってね、記事の中では3つのことが遅れてるよ、と言ってるわけですよ。

・普通教室に校内LAN(情報通信網)を整備している割合
ほぼ100%のつもりが、50.6%
・コンピューターを使い指導できる教員の割合
ほぼ100%のつもりが、76.8%
・コンピューター1台当たりの児童生徒数
5.4人のつもりが、7.7人

一番深刻な状態なのはどれでしょう?

コンピュータが7人に1台というのは、1台に7人が群がる状態をイメージすると大変なことですが、7クラスが順番に使えると考えれば、そんなに深刻とも思えません。
少子化でクラスが少なくても、全校で7クラスなら1人1台で授業できますし、14クラスでも2人1台で使えば十分そうです。

校内LANがあるか?は、小学校、中学校、高校をいっしょくたにして割合を出すのは、ちょっと無理があるかなと思います。自主的に調べることのできる高校生ならばネットワークにつながっていないのは問題かもしれませんが、小学校ならばすごい問題なるとも思えません。以前も「調べ学習は図書館が基本」なんてことを言ってるフラスコですので、こちらも、ものすごい深刻なことと評価できないわけです。

むしろ、76.8%しか指導できる人がいないなら、残りの23.2%の学校はネットワークになんて継いではいけません。小学校だったりしたらなおさらです。
フラスコが、3つの中で一番深刻と考えるのは、道具がないことではなく、道具の使い方を教える人がいない、ということです。当り前すぎて補足することもないですね。

なのに、見出しではLANの方をクローズアップするわけです。
・半分という数字が印象的だから
・教員が増えても景気はよくならないけど、LANが整備されれば物が売れるから
・文部科学省の発表を鵜呑みにして考えもせず報道しているから
などなど、てけとーなことが考えられます。
じゃあ、元ネタはどうなっているのか?というところを、文部科学省まで見に行ってみますと……7月24日の発表には、それらしき項目が見当たらないんですが…あれ?

内容は、主に授業にIT機器つかったら効果があるかしらん?という調査で、まとめにも考察にも参考資料にも、LANの話なんか見つかりません…。節穴?
ということは、LAN整備が問題と言ってるのは、読売さんが問題にしているというだけ?

さらには、この調査を読んでわかったことは、コンピューターを使い指導できる教員の割合であって、コンピュータを指導できる教員の割合ではないということ。跳び箱の跳び方をデジタルビデオにとってコンピュータで子供に見せれれば「コンピュータを使い指導できる教員」になります。それで計算して76.8%なのですから……本当にコンピュータのこと、情報のことを教えられる教員の割合は、もっと低くなることが予想されるわけです。

大学生として入学してきた時点で、学生の情報教育を受けている割合にはとても大きな開きがあります。小中高とコンピュータをさわってきた学生もいれば、高校の数学でちょっとさわっただけでキーボードもたたけない学生もいたり。なかには、幼稚園からさわっていたという学生まで千差万別です。
教育機会の格差も大きいですが、熟練度もまたマチマチです。自分でコンピュータをもって使っている学生は、学校教育とは無関係にコンピュータが得意ですし、幼稚園から高校まで教育を受けたはずの学生が、ダブルクリックできないなんてこともめずらしくありません。想像することしかできませんが、小中高の情報の先生がハズレだったんじゃないか?と思うわけです。実際、その学生たちも1年で普通にコンピュータが使えるようになるわけですし。
そして、ネットワークの危険性なんかを話してみると、ほぼ初耳の学生ばかりです。
もう少し時間がたてば、教科「情報」に習熟した先生が増えて、状況が変わってくるかもしれませんが、いまのところ一番の問題は「教員がいない」ということのはずです。

そんなことに目も向けず、LAN整備を強調する態度などを見ると、中身を整備しないで外側だけをととのえようとする、箱物なイメージを感じてしまうわけです。そこまでの意図があるかないかはわかりませんが、見出し読みは避けようと思う今日この頃です。
公立学校のIT化大幅遅れ、LAN整備は目標の半分
 公立小中高校などで、普通教室に校内LAN(情報通信網)を整備している割合は、2005年度末で50・6%にとどまり、同年度末には「おおむね100%になる」としていた政府目標の半分にしか達していないことが24日、文部科学省の調査で分かった。

 コンピューターを使い指導できる教員の割合も目標に届かず、教育現場のIT(情報技術)化が計画通りに進んでいない実態が浮かび上がった。

 政府は、IT国家実現を目指し、01年度から始めた「e―Japan戦略」の中で、教育現場のIT化も推進するとし、05年度末を達成期限としていた。しかし、校内LAN整備のほかにも、コンピューターを使って指導できる教員の割合は76・8%、コンピューター1台当たりの児童生徒数は7・7人で、それぞれ目標の「おおむね全員」「5・4人」と大きな開きがあった。

 文科省では「財政的に余裕がない自治体が多い上、市町村合併で学校の再編・統合が起こり、整備が十分には進まなかった」としている。

(2006年7月24日22時2分 読売新聞)

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フラスコ氏のエントリ「箱物教育」にトラックバックです。 文部科学省が毎年行っている「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」について述べておられます。現実的な話として、この調査、毎年毎年面倒くさい丁寧に調査が行われています。 さて、高校での....
学校情報化の実態(1)【おしえるしごと。】at 2006年08月04日 02:02
この記事へのコメント
私も文部科学省のページを見ましたが該当する情報は見つかりませんでした。マスコミの記事の信頼性に関してはこれ以上触れないとして…。

>コンピュータが7人に1台というのは
うちの大学のことを考えてみました。かなり大雑把な計算(推測)ですが、3年生までの場合は学生10人から15人に一台ぐらいです。なんだ、小中高の方が大学より多いじゃん。もっとも、大学生の場合は個人で所有していることが多いし使い方も違うので単純に比較することに意味があるかは別ですが。

何?コンピュータを指導できる教員?そんなのうちには1割もいねーよ!
Posted by 元通りすがり at 2006年07月26日 02:11
他府県のことは分かりませんが,某県では「コンピューターを使い指導できる」かどうかは自己申告制です。で,「指導できない」と正直に回答すると,研修に行かされるので(行った後でも殆ど変化があったように見えませんでしたが),指導できなくとも「できる」と回答している方が非常に多いように思います。なのに,「コンピューターを使い指導できる教員の割合が全国一」と,その県の教育委員会のサイトにあったので,開いた口がふさがりませんでした。
Posted by シーサー at 2006年07月26日 11:48
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/07/06072407.htm
生データはこちらのようです。
Posted by masao at 2006年07月26日 23:34
> もう少し時間がたてば、教科「情報」に習熟した先生が増えて、状況が変わってくるかもしれませんが、いまのところ一番の問題は「教員がいない」ということのはずです。

個人的には、教科「情報」の習熟した増えるかどうかは、ちょっと懐疑的です。だって教科「情報」の立場も中身も、グダグダだから(汗)

今年、「情報」の教育実習へ行った学生に、今高校で何をやってるか聞いたら「タイピング」と答えましたからね。学生も困ってましたよ、「俺は何すればいいんでしょう?」と。現場はお寒い状況ではないでしょうか。
Posted by mkawano at 2006年07月29日 10:51
>元通りすがりさん
コンピュータを使えると自称する教員なら1割ぐらい、いるような気がします。使えるくせに「素人なんでフラスコさんに」という輩は大量にいます。

>シーサーさん
自己申告制……orz
正直に回答すると研修……orz
情報ありがとうございました。
とってもありそうで泣けてきました。

>masaoさん
ありがとうございます。24日の発表じゃないじゃーん>マスコミ

>mkawanoさん
(;゚д゚)「タイピング」

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) 「タイピング」
Posted by フラスコ at 2006年07月31日 11:44
スローコメントで申し訳ありませんが…。

大学生のPCに対する習熟度ですが、あと2年たてばかなりマシになると思います。中学校の技術科の指導要領が変わって、コンピュータが必修になった世代が大学生になります。実際、実感として今の高3と高2とでは、情報の授業でできる事の幅が広がりました。

詳細はまた、トラックバックします。
…たぶん。
Posted by ばろっく at 2006年08月04日 00:52
お。それは楽しみ。
トラックバックの続きも楽しみにしてます。
Posted by フラスコ at 2006年08月04日 13:55