社説:ノバルティス処分 製薬業界は悪弊改めよ
毎日新聞 2015年03月03日 02時30分
製薬会社ノバルティスファーマに厳しい行政処分が下された。
同社が薬の重い副作用情報を国に報告していなかった問題で、厚生労働省は、医薬品医療機器法(旧薬事法)違反に当たるとして、医療用医薬品の販売など営業行為を15日間禁止する業務停止命令を出した。
ノバルティスの報告漏れは26種類の薬で3264例に及ぶ。同法は症例に応じ15〜30日以内の報告を義務付けている。医薬品の副作用情報は患者の命にかかわる。本来なら1例たりとも報告漏れは許されない。
副作用の報告義務違反で製薬会社に業務停止命令が出されたのは初めてだが、当然の措置だろう。
業務停止期間は今月5〜19日だ。この間、他社に類似品のない免疫抑制剤など5種類を除く医療用医薬品の販売や営業活動ができなくなる。
ノバルティスは医薬品の卸売会社に、停止期間前に必要な薬の量を確保するよう依頼している。薬が使えないことで、患者が不利益を被ることがあってはならない。
一方、見方を変えれば、処分を受けても、卸売会社が事前に買いだめしておけば、製薬会社の売り上げには影響しにくいということだ。
同社を巡っては、降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の虚偽広告事件で元社員が起訴された。この件でも、厚労省は業務停止命令を検討中だ。重い行政処分であることは確かだが、企業への制裁効果を上げる観点から、政府には、米国のような懲罰的罰金・賠償金制度の導入を検討してもらいたい。
東京大病院が事務局となったノバルティスの白血病治療薬の臨床試験で昨年、同社の社員が不適切な関与をしていたことが判明した。これをきっかけに同社が調査を進め、大量の副作用報告漏れが分かった。
厚労省によれば、同社のMR(営業担当者)が副作用情報を学会発表などで知っても、「追跡調査は医師に負担をかける」などと判断し、情報収集を怠ったケースがあった。
報告漏れの背景には、患者より薬の処方権を持つ医師を優先する日本の製薬業界の体質があるのではないか。今回の処分を業界全体の問題として受け止め、悪弊を改めてほしい。類似の報告漏れがないかも点検すべきだ。
東大病院は昨年4月、すべての製薬会社のMRが医師との約束なく病院に入ることを禁じた。「不要な営業活動がなくなり、研究環境が改善した」(同病院総務課)という。医薬品の副作用情報などは従来通り受け取っており、問題は生じていない。
当たり前の取り組みが今までできなかったのはなぜかを考えることが、医師と製薬会社とのもたれあいを是正する一歩となるだろう。