社説:就活スタート やっぱり自分を磨こう

毎日新聞 2015年03月03日 02時40分

 2016年春に卒業予定の大学生の就職活動が始まった。これまでは会社説明会が3年生の12月からだったが、3カ月繰り下げられた。短期決戦となり、焦る学生も多いだろうが、じっくり自分の将来を考えて就職先を選ぶべきだ。社会は変わっていく。長期的な視野で、自立した社会人になることを目指してほしい。

 経団連が就活期間を短縮した新ルールを定めたのは、大学3年の早い時期から就活に追われる学生が多く、普段の授業にも支障が出ていたからだ。サークル活動や海外留学をする余裕がないとの批判も起きていた。しかし、せっかく新ルールを導入したものの、昨年秋ごろから積極的な採用活動を始めていた企業は多い。景気回復や人手不足の影響で企業も焦っているのだ。

 学生にとっては例年にない追い風だが、こんな時だからこそ良い就職先を見抜く目を養うべきだ。

 「終身雇用」「年功賃金」「一括採用」「企業別労働組合」は日本独特の雇用慣行だ。いったん就職すれば会社内で手厚い職業訓練を受けられ、充実した福利厚生もあって家族の一員のように扱われ、定年まで雇用が守られる。その対価として、会社には転勤や出張、残業を命じる広い裁量権を与えてきたのだ。

 他の先進国では個々の労働者の普遍的な専門性が重視され、より良い仕事場を求めて転職していくことも容易だ。身に着けた技能が自分の会社内でしか通用せず、源泉徴収制度の下で税金や年金、社会保険も会社まかせの人が多い日本とは違う。

 企業活動がグローバル化していくに連れて、おのずと日本型雇用も変化を迫られていくだろう。当然、大学教育にも改善を求めなければならない。ところが、最近は面接試験や申請書類で好印象を与える方法といった、すぐに就活に役立つ技術を教える職業教育が目に付くのはどうしたものだろう。

 いつの時代も企業は即戦力を求めるものだ。太平洋戦争の開戦前、国家存亡の機に慶応大理工学部の前身となる藤原工業大学は設立された。初代工学部長の谷村豊太郎氏は「すぐに役立つ人間を育成してほしい」と産業界から要請されたが、「すぐに役立つ人間はすぐに役に立たなくなる人間だ」と退けたと伝えられる。

 技術革新や消費者のニーズ、国際的な市場の変化によって個々の会社の経営は変わっていく。現在好業績の会社が将来も好調が続くとは限らない。必要とされる労働者も変わっていくのだ。

 目の前の就活で学生の頭はいっぱいかもしれないが、どう社会が変わっても揺るがないよう、就職後も自分を磨く努力を忘れないでほしい。

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