「今の武田では、日本人であること自体がマイナス評価になる」
3月2日号特集「鎖国230年 開国1年 グローバルタケダの苦闘」では、次々と幹部ポストを占拠する外部の外国人たちの勢力拡大を中心に描いた。武田薬品工業を去ったある研究者が漏らした冒頭の言葉からは、そんな社内の状況を不安視する気持ちがうかがえる。
だが、劇的な環境変化をネガティブに捉える日本人社員ばかりではない。長谷川閑史会長はインタビューで「グローバルリーダーのロールモデルが目の前にいる訳だから、次の世代を担う日本人社員たちは彼らから学び取ることにチャレンジしてほしい」と述べている(日経ビジネスオンライン3月2日公開記事「強面の武田薬品会長が初めて漏らした本音」)。
実際、外国人幹部の優れた能力・技術を吸収しようと、主体的に動き始めた日本人社員が出てきている。湘南研究所(神奈川県)の田中晃さんはその1人だろう。
「もうすぐ自分が主導した研究テーマが形になるんですよ。今は武田の中で多様性の面白さを感じているところです」
途中で開発を中止した化合物や、販売中の医薬品を再点検し、新たな効能を持つ医薬品の開発につなげる「ドラッグリポジショニング」という技術手法。田中さんは湘南研究所のエクストラバリュー創薬ユニットに所属し、この新しい手法を使った医薬品研究を進めている。
新薬のタネとなるターゲットをゼロから探索し、医薬品にできるかどうかのスクリーニングをかける従来型の研究開発では莫大な投資と時間がかかってしまう。それを大幅に縮小できる可能性を秘めているのが、ドラッグリポジショニングだ。日本では馴染みが薄い手法だが、欧米メガファーマでは既に積極的に活用している。
武田は2013年、日本の製薬企業に先駆けて専門部署を新設。ドラッグリポジショニングの第一人者である、米製薬大手ファイザー出身のシャム・ニカム氏を部門長に据えた。「どうしてもこの仕事がしてみたい」。田中さんは自ら手を挙げると、社内公募制度を利用し、ニカム氏の下に移った。