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■特派員リポート 星野真三雄(ヨーロッパ総局員)

 資本主義は限界に達しているのではないか。先進国に共通する「病」は重症かもしれない。いつまでバブルの傷をバブルで糊塗(こと)し続けるのだろう。

 危機を経た欧州経済と金融政策を取材していると、そんなことを考えざるをえない。

 低成長にあえぐユーロ圏を横目に比較的好調な英国経済。それを支える要因の一つが資産価格の上昇だが、ロンドンは住宅バブルの様相を呈している。

 ロンドンを貫くテムズ川南岸では、マンション建設が相次ぐ。その中心が、バタシー石炭火力発電所跡地の巨大再開発だ。

 英国のロックバンド、ピンクフロイド「アニマルズ」のレコードジャケットに使われ有名になった発電所。閉鎖から30年手つかずだったが、白い煙突とれんが造りの外観を残しつつ、マンションやオフィスなどの複合商業施設に生まれ変わろうとしている。再開発を手がけるバタシー・パワー・ステーション・ディベロップメント社のロブ・ティンクネル最高経営責任者(CEO)が案内してくれた。

 バタシー発電所は1929年に着工し、83年に運転を停止。跡地は93年に香港の企業に転売され、遊園地などに衣替えする計画も持ち上がったが、開発費の不足もあいまって進まなかった。2006年にアイルランドの企業が購入して再開発を進めようとしたが、財政・金融危機を受け頓挫。12年にマレーシアの政府系ファンドなどに買われ、アジアや中東の金融機関の融資を受け、ようやく再開発にこぎつけた。

 総事業費は80億ポンド(約1兆4千億円)で、25年までに約4千戸の住居やホテル、オフィスビル、店舗、地下鉄の駅などを建設する。ティンクネルCEOは「1万5千人が働き、年間4千万人の集客が見込まれる魅力的な街となる。多くの人が住みたがる」と強調する。マンションの販売価格は安くて34万3千ポンド(約6300万円)、高いものは1千万ポンド(約18億4千万円)以上する。普通の英国人にとって手の届く物件とは言いがたい。日本や欧米、中国など世界でマンション販売を展開しており、これまでの購入者の4割ほどが外国人だという。

 その周辺に立ち並ぶ高級マンションは、夜になっても窓の明かりはまばらで、「ゴーストタウン」と呼ばれている。「所有者はいるが、住んでいない。中国やロシア、中東の金持ちが、値上がりするロンドンの住宅を『安全な資産』として買っているからだ」。都市計画に詳しいロンドン大のピーター・リーズ教授はそう説明する。

 ロンドンには中東やロシアのオイルマネー、中国からの巨額資金が流れ込む。投資先の一つが住宅だ。右肩上がりの住宅価格を背景に、転売も見込んで賃貸に出さず、ただ資産として保有している人も多い。