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ファルコン9ロケット、初の「オール電化」衛星2機の同時打ち上げに成功
March 2 - 2015 - ファルコン
Image credit: SpaceX
スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)社は3月2日、通信衛星「ABS 3A」と「ユーテルサット115ウェストB」を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。両衛星は初めて打ち上げられた「オール電化」衛星で、すべてのスラスターに化学推進ではなく、イオン推進システムを採用している。またファルコン9が静止衛星を2機同時に打ち上げたのも今回が初めてであった。
ロケットは米東部標準時2015年3月1日22時50分(日本時間2015年3月2日12時50分)、米フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションのSLC-40から離昇した。ロケットは順調に飛行を続け、打ち上げから約30分後にABS 3Aを、さらにその5分後にユーテルサット115ウェストBを所定の軌道に投入した。
ABS 3Aは中国のアジア・ブロードキャスト・サテライト(ABS)社が運用する通信衛星で、西経3度の静止軌道から、米国や欧州、アフリカ、中東に向けて通信サーヴィスを提供する。打ち上げ時の質量は1,954kg。
もう一方のユーテルサット115ウェストBは、フランスに本拠地を置くユーテルサット社の子会社、ユーテルサット・アメリカズ社が運用する通信衛星で、西経114.9度の静止軌道から、アラスカからカナダ、南アメリカに通信、放送サーヴィスを提供する。打ち上げ時の質量は2,205kg。
ABS 3Aとユーテルサット115ウェストBは、共にボーイング・サテライト・システムズ社が製造した衛星で、また同社が開発した「オール電化衛星」こと、702SP衛星バスを採用した最初の2機の衛星でもある。702SPはキセノンを使用するイオン推進システムをスラスターに使っており、従来の化学推進やアークジェット推進を使っていた衛星に比べてはるかに効率が良いため、衛星の軽量化や、あるいは同じ質量でも従来より多くの機器を搭載することができる。
また衛星を2つ重ねて打ち上げることができるようにも設計されており、今回の打ち上げでさっそく使用された。
両衛星は現在、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道という、少し変わった軌道に乗っている。多くのロケットは静止衛星を打ち上げる際、静止トランスファー軌道という、静止衛星の一つ前の軌道に送り届ける。静止トランスファー軌道は、遠地点(地球から最も遠い位置)が静止軌道の高度である36,000kmと同じだが、近地点(地球に最も近い位置)と、軌道傾斜角(赤道からの傾き)はずれていることが多く、そこから静止軌道に乗り移るには、人工衛星がスラスターを噴射するしかない。しかし、衛星にとって推進剤の残量は多ければ多いほど運用期間を延ばすことができるので、なるべく噴射を少なくしたいという事情がある。
そこで使われるのがスーパーシンクロナス・トランスファー軌道で、通常の静止トランスファー軌道とは異なり、遠地点高度が36,000kmよりもはるかに高くなる軌道に衛星を乗せる。これによって軌道傾斜角0度への変更が、通常の静止トランスファー軌道から行うよりも少ない燃料で可能となる。
ファルコン9ロケットはスペースX社によって開発されたロケットで、打ち上げ機数は今回で16機目、今年に入ってからは2機目の打ち上げとなった。ただし、6号機から使われているファルコン9 v1.1には、1号機から5号機まで使われたv1.0とまったく異なるロケットといえるほどの改良が施されているため、v1.1のみでは11機目の打ち上げとなった。これまでに大きな失敗は起こしておらず、非常に安定したロケットである。
ファルコン9が次に打ち上げるのは、トルクメニスタン国家宇宙局の通信衛星トルクメンサット1(TurkmenSat 1)となる。スペースX社によれば、打ち上げは3週間後を予定しているとのことだ。
最近のファルコン9の打ち上げでは、第1段機体の回収試験が注目されているが、今回の打ち上げでは積み荷が重く、ロケットが持つ能力を最大に使う必要があったことから、回収のための余分な推進剤を積んだり、着陸脚を装備する余裕がなかったため実施されなかった。また次のトルクメンサット1の打ち上げでも実施されない。
■FALCON 9 LAUNCHES TWO ALL-ELECTRIC COMMUNICATIONS SATELLITES | SpaceX
http://www.spacex.com/news/2015/03/01/falcon-9-launches-two-all-electric-communications-satellites
Written by 鳥嶋 真也
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