社説:防衛省改革 文民統制を貫けるか

毎日新聞 2015年03月02日 02時32分

 防衛官僚(背広組)と自衛官(制服組)の関係が大きく変わりそうだ。

 防衛省は、防衛官僚からなる内局で自衛隊の部隊運用を担当してきた運用企画局を廃止し、幹部自衛官からなる統合幕僚監部(統幕)に一元化する。あわせて背広組の制服組に対する優位を示すと受け止められてきた防衛省設置法12条を改正し、両者を対等と位置づける。

 いずれも改正法案を3月に国会に提出し、10月からの実施を目指す。文民統制(シビリアンコントロール)の原則にかかわる問題であり、慎重な審議を求めたい。

 日本は旧日本軍が暴走し無謀な戦争に突き進んだ反省から、民主主義的な政治が軍事に優先する厳格な文民統制の制度をとっている。

 運用企画局の廃止案は、民主党政権では文民統制上の懸念から見送られたが、安倍政権になって自民党国防族が中心になって推進してきた。

 自衛隊の運用とは、行動(作戦)計画を立てるなど実際に部隊を動かすことだ。統幕から見れば、軍事専門知識を持たない運用企画局から口をはさまれ、迅速な対応ができない不満があった。

 改正案では運用企画局を統幕に一元化し、制服組トップの統合幕僚長が運用について防衛相を直接補佐できるようにする。ただし統幕長の下に文官ポストを新設し、省庁間調整や対外説明を担当させる。

 一方、防衛省設置法12条は、防衛相が統合幕僚長や陸海空の幕僚長を指揮・監督する際、背広組の官房長や局長が防衛相を補佐する規定だ。

 文民である防衛相が自衛隊を統括するのが文民統制だが、これを補い、背広組の防衛官僚が政策的見地からチェックを働かせる狙いがある。だが、制服組からは「文官優位」や「文官統制」といった、背広組との上下関係を示す条文と受け止められ、廃止論が強かった。改正により、背広組と制服組が対等の立場で防衛相を補佐できるようにする。

 制服組の不満は理解できる面もある。一連の改正により、業務の効率化や迅速な対応が、より可能になることはあるだろう。だが自衛隊という武力を持った組織の運用は、慎重の上にも慎重を期す必要がある。

 災害派遣、国連平和維持活動(PKO)、ミサイル対応などで自衛隊の部隊を動かす際、統幕長が背広組を通さず直接、防衛相に運用計画を上げ、命令を受けられるようになり、政策的チェック機能が弱まる可能性がある。軍事的見地からの必要性に力点を置くあまり、制服組に都合のいい情報が防衛相に優先的に上がる可能性も排除できない。

 軽々に進めていい話ではない。議論をもっと深めるべきだ。

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