医療死亡事故の原因究明と再発防止を目的とする「医療事故調査制度」の運用指針を議論する厚生労働省の検討会が紛糾している。遺族の思いをくみ取り、透明性、中立性を担保すべきだ。
医療事故調査制度は、昨年六月の地域医療・介護総合確保推進法の成立で創設が決まった。今年十月にスタートする。
死亡事故が発生した場合、医療機関は第三者機関に届け出て、院内調査を行う。調査結果は遺族に説明し、第三者機関に報告。遺族が納得できなければ、第三者機関に調査を依頼することができる、という仕組みだ。
検討会の最大の争点が、院内調査結果の遺族への説明方法だ。
二〇一三年五月にまとまった同制度の骨格となる「基本的なあり方」では、院内調査の報告書は「遺族に十分説明の上、開示しなければならない」としていた。
だが、昨秋に始まった検討会で一部の医療団体側の委員が、裁判などの紛争に使われる恐れがあるとして、遺族への報告書提供に反発。厚労省は先週の検討会に「口頭または書面、もしくはその両方」と三つの方法を挙げ、医療機関が「適切な方法で行う」とする案を示した。これに遺族側の委員は書面と口頭両方での説明を求めたが、一部の委員が「個人の責任追及に使われる」と反対した。
約二千四百の医療機関が加盟する日本病院会が実施したアンケートでは、74%が報告書を遺族に「当然、手渡すべきだ」と回答。医療現場でも理解は広がっている。
難解な医療の専門用語や内容を、遺族が口頭で聞いただけで理解するのは困難だ。原則、報告書を提供することにしたほうが、遺族の理解、納得も得やすく、信頼関係が築けるのではないか。
このほか、再発防止策の報告書への記載についても厚労省案は「調査で検討を行った場合」と、任意であることを強調。一部委員から「責任追及に利用される」と反対があったためだ。
「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」の永井裕之代表(74)は十六年前、医療事故で妻を亡くした。東京都立広尾病院で、点滴中に誤って消毒液が投与された。病院側は事故を隠蔽(いんぺい)。関係者は刑事責任を問われた。永井さんは「なぜ、そうなったのかを教えてほしいというのは、被害者の悲痛な願い」と訴える。
検討会は近く指針をまとめる。遺族と医療機関の信頼関係が深まる制度の構築が求められる。
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