この壁に対して私は一体何ができるのでしょうか

村上様

初めまして。私は香港人で高校生以来、あなたの作品の大ファンです。まずはドイツのウェルト文学賞の受賞式の中であなたが香港のデモ参加者へ発せられた、平和的に壁に立ち向かい続けて欲しいという激励のお言葉について感謝申し上げます。あなたのお言葉は私たちにとって大きな力となりました。また、2009年にイスラエルのエルサレム賞を受賞した際のあなたの「卵と壁」の比喩は、私たちの運動のスローガンの一つとなり人々を勇気付けました。さらにはその比喩を取り入れた歌まで作られました。

私たちは若者の力をこの抗議活動を通して知ることができました。しかし同時に、現状とその壁に対して私たちがいかに無力かについても知ることとなりました。現在香港は再び日常に戻っており、香港の人々は何もなかったかのように生活しています。
しかし、この壁が決して揺らいだわけではないことを私たちは知っています。

そこで質問なのですが、文学を愛し執筆する若者として、この壁に対して私は一体何ができるのでしょうか。もし質問にお答えくだされば幸いです。

香港の若きデモ参加者より
(言雋、女性、22歳)

いろんなことが思うように行かなかったみたいで、僕としても残念です。でも民主化のためにあなたがたが行ったことは、決して無駄には終わらないと思います。一見「何もなかった」ように見えるかもしれませんが、足の下の見えないところで、何かは確実に変わっているはずです。あなた方が行ったことはひとつの事実として残っていますし、その事実は誰にも無視することのできないものです。世界はその事実のぶんだけ変化したのです。これからもがんばって、ほんの少しずつでもいいから世界を変えていってください。僕も応援しています。

村上春樹拝