僕は、文章を読むのが大好きです。
もちろん、好きな文章もあれば苦手な文章もあるけれど、他人の書いた「文章」を読む体験は他に代え難い。誰かが自分の思考を「ことば」として書き写し、語彙を尽くして描き出された「文章」。それはひとつの表現として誰かに伝わり、多彩な刺激をもたらしてくれるものだと思います。
そんな文章表現のひとつとして、「書評」の存在があります。
自分もこのブログで読書記録をしているけれど、その大半は「感想」としてのもの。一冊の本を“論じる”ほどに洗練された視点を提供できるとは思っていないので、「僕はこう思った」「この本がおもしろかった」という主観を全面に出した記事作りをしてきました。ゆえに、ひとつの読み物としても楽しめる「書評」を発信しているブログはすごいと思うし、いつも楽しく読ませてもらっております。
さて、今回読んだのはこちら、『書評記事の書き方』。ブログ「R-style」を運営する倉下忠憲(@rashita2)さんの電子書籍です。朝方、目に入った記事が気にかかり、安価だったのでそのままポチった格好。1〜2時間でサクッと読み終えることができて、ちょうど良い長さでした。
「書評」を再考し、複数の視点を提供する一冊
本書は、初心者向けの内容です。
すでに書評記事をたくさん書いておられる方には、あまり役立つ内容は含まれていません。逆に、これからブログで書評を書こうと思っている(そして、まだ書けないでいる)方には、助力になる要素がたくさん見つけられるでしょう。
※アクセス数を集める方法に関しては期待しないでくさださい。
著者ご自身もこう書かれていますが、確かに本書は「PV」や「売上」などの数字を重視したものではありません。むしろ、「書評を書きたいけれど、取っ掛かりが見つからない……」といった人に対して書き方の視点を提供するものであり、平易でわかりやすい内容となっています。
「文体はこうすべき」「注目されるためにこう書くべき」といった、“べき論”は皆無。実際的なノウハウも記されていますが、まったく押し付けがましさは感じず、非常に好感が持てました。これがもし「売上倍増!実践するべき書評ブログの8つの要点」なんてタイトルだったら、そもそもポチらなかったはず。
例えば、タイトルの付け方ひとつにしても、いくつかのパターンを示しています。
1)「書名」だけパターン
2)「書名+コメント」パターン
3)「書名なし」パターン
どれが正解でもありませんし、どれが間違いでもありません。特徴を踏まえた上で、自分の好みのパターンを採用すればよいでしょう。
実際にそれぞれのパターンを選択しているブログ記事を引用しつつ、その特徴を解説する流れですね。さらに、合わせて、いろいろな手法を試してみることも勧めています。
一冊を通して、「こうしよう!」と決めつけず、読者に複数の視点・選択肢を提供しようという考え方が感じられるような書き口でした。
実際の記事から見えてくる、十人十色の「書評」
本書は2部構成。後半部分では、著者が2009〜2014年にかけて書いてきた書評記事を10本掲載し、その変化を実感するものとなっています。著者が1人で書いてきたものなので、正確には“十人十色”ではありませんが、はっきりと違いの見て取れるおもしろい内容です。
中でも、個人的に「これは!」と感じたのが、こちら。4,000字ほどの長文に、それぞれのトピックに関して関連情報を出す形。文章としては読みやすいのですが、同時に、読んでいて頭がこねくり回される感じが好物です。ひとつの話題に終始しない文章運び。
一方でこちらは、読んでいて、書評記事の「お手本」のような印象を受けました。程良い文量に、書内のトピックからそれぞれ要点を示しつつ、「自分の感想」と「読者の反応の予測」を組み合わせて言及しているような。最後の余韻が残る感じも好きです。
これらの過去記事から見えてくるのは、「書評記事の形はひとつではない」という当たり前の事実と、「長く試行錯誤を続けることで表現は広がり最適化されていく」という経験則。
結局のところ、書評に限らず文章表現に答えはないのだから、いろいろやってみる以外にはないのかもしれない。その“いろいろ”として、ここで示されているようなノウハウを試してみるのは大いにありだと思います。
忘れちゃいけない、書評を書く動機
このように本書は、広く「書評」の視点を提供してくれる一冊ではありますが、特に印象に残ったのは巻末部分でした。詳しくはぜひ読んで欲しいので省きますが、主にアフィリエイト収益を目的として記事を書いている「プロブロガー」の皆さんにおすすめしたいところ
書評を書く動機は、おそらくシンプルなものでしょう。「この本の存在を、他の人にも知ってもらいたい」
とてもやんわりと書かれていますが、継続的に記事を書いている、しかもそこから僅かでも収入を得ているのだからこそ、「ことば」の表現には気を遣わなければなりません。書評記事に限らず、センセーショナルなタイトルや強い言葉は、読者を二分する諸刃の剣。外部の視線を気にし過ぎるがゆえに、貴重な読者を奪っている可能性もある、と。
自分にも、昔は好きで読んでいたけれど、毎度の煽りと定型が気になってしまい、読むのをやめてしまったブログがいくつかあります。強烈に印象に残る言葉は新規の読者獲得には効果的かもしれませんが、ずっと読み続けるにはアクが強すぎる。これまでモヤモヤしていた「記事の表現」に関して、ひとつ、得心がいきました。
書評に限った話ではありません。自分がどのような思いを持って、それを紹介・おすすめするのか。そしてそうすることで、どのような動きを誘発させたいのか。一個人ではあれど、情報を発信している身としては、常に意識しておきたいところです。