自衛隊をどう動かし、日本の安定を保っていくか。自民党と公明党がそんな視点から、安全保障法制の与党協議を進めている。大切なのは、十分に国民の理解を得ながら、議論を深める姿勢だ。
政府は昨年7月、集団的自衛権の行使に道を開くほか、自衛隊による他国への後方支援などを拡充する閣議決定を下した。両党の協議は、これを実行するための法律を整えるのが目的だ。
専門的な法律の議論は、一般の国民には分かりづらい面がある。政府と与党は協議の過程をできるだけ公開し、国民にていねいに説明するよう心がけてほしい。
これまでの協議では、最大の焦点である集団的自衛権よりも先に、後方支援をめぐる法整備などから議論が始まっている。
争点のひとつが、周辺事態法の抜本改正である。同法は、日本周辺で日本の平和や安全に大きく影響する事態が起きた場合、自衛隊が米軍などにどこまで後方支援するかを定めたものだ。
政府は名称から「周辺」をとり、後方支援に地理的な制約はないことを明確にしたい考えだ。これに対し、公明党内には、自衛隊の活動が地球の裏側まで広がりかねないとの懸念がある。
現行法が制定されてから約15年がすぎ、脅威は国境を越え、瞬時に広がる時代になった。大規模テロやサイバー攻撃はその典型で、地理的な線引きを設けるのは難しい。代わりに、どこまで深刻な事態なら自衛隊を出すのか、日本への「影響度」に基づく制約を厳格にするのが一案だろう。
もうひとつの争点は、必ずしも日本に重大な脅威が及ばないものの、国際貢献として自衛隊を派遣する場合だ。インド洋での給油活動やイラクでの復興支援がこれに当たる。いずれも、個別に特別措置法を定め、対応してきた。
これでは派遣に時間がかかりすぎるとして、政府は恒久法を設け、自衛隊を速やかに送れるようにしたい意向だ。趣旨は理解できる。問題は歯止めだ。国会の事前承認を義務付けるほか、大規模な紛争に巻き込まれないよう、受け入れ国の統治が保たれていることを派遣の前提とすべきだろう。
国連決議も派遣の条件にすべきだとの意見がある。米中ロ英仏の1カ国でも拒否権を発動したら、決議が採択されない安全保障理事会の現状を考えると、絶対条件にするのがよいのかは疑問だ。