将棋:大混戦の名人挑戦者争い 演出は森内前名人に

毎日新聞 2015年03月02日 11時20分(最終更新 03月02日 21時39分)

行方尚史八段に勝利してA級残留を決め、感想戦で対局を振り返る森内俊之九段=東京都渋谷区の東京・将棋会館で2015年3月2日午前1時、竹内紀臣撮影
行方尚史八段に勝利してA級残留を決め、感想戦で対局を振り返る森内俊之九段=東京都渋谷区の東京・将棋会館で2015年3月2日午前1時、竹内紀臣撮影

 東京・千駄ケ谷の将棋会館で1日指されたA級順位戦の最終戦一斉対局は、23年ぶりとなる上位4人によるプレーオフにもつれ込む結果となった。この大混戦を“演出”したのは、当初本命視されていた森内俊之九段(44)と言って過言ではない。

 「絶不調」「どうした森内」−−。棋士はもとよりファンの間でも、こうした声がこの1年近くささやかれていた。16歳でプロデビュー。2013年に名人と竜王の2冠となり棋界の頂点に立った。しかし昨春の名人戦で羽生善治王位(当時)に「まさか」のストレート負けで奪取を許すと、昨秋には新鋭・糸谷(いとだに)哲郎七段(当時)にも敗れて竜王を失冠してしまう。今期A級順位戦は初戦で難敵、渡辺明王将に快勝し復調したかに見えたが、その後連敗。初めて「3勝5敗」と負け越して、最終戦を迎えた。しかも自身が負けて、三浦弘行九段が勝てば、史上初となる「前名人の降級」の瀬戸際にいた。

 一斉対局当日、森内は午前9時半、将棋会館に一番乗りした。気合が入って当然だ。対戦相手は、首位を走る行方尚史八段。自力でA級残留をもぎ取るためには、何としても勝たねばならない難敵である。

 矢倉戦となり、森内は我慢を強いられる展開になったが、相手の攻めを丁寧に受け止めると、日付をまたいだ頃、ついに相手玉へ迫った。形勢判断は揺れ動く。緊迫する控室をよそに、当の森内はいつものポーカーフェースのままだ。「勝ち」を読み切っていたのだろう。午前0時33分、行方が投了を告げた。

 「さすがに厳しいと思いました」。局後に森内はこう振り返ったが、笑顔は最後まで見せなかった。生中継するテレビへの出演を固辞し、午前2時過ぎ、足早に会館を後にした。外の冷気に丸めた後ろ姿からは、崖っ縁を乗り越えた安堵(あんど)感と、「前名人」の意地が垣間見えた。【最上聡】

 ◇名人戦A級順位戦(1日)(左が勝ち)

渡辺王将(6勝3敗) 69手 久保九段(6勝3敗)

森内九段(4勝5敗) 95手 行方八段(6勝3敗)

郷田九段(5勝4敗)130手 阿久津八段(9敗)

広瀬八段(6勝3敗)157手 三浦九段(3勝6敗)

深浦九段(5勝4敗)233手 佐藤九段(4勝5敗)

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