原発政策:建設差し止めを求める 北海道・函館市長に聞いた
2015年03月02日
青森県大間町でJパワー(電源開発)が建設中の大間原発について、国とJパワーを相手に建設差し止めを求める訴訟を起こした北海道函館市の工藤寿樹市長に聞いた。
−−毎日新聞の全国調査で原発から半径30キロ圏内にある周辺自治体の過半数が、立地自治体のみの同意で再稼働を進めることに反対と回答しました。
◆ゴミ処理場のように行政区域内だけで危険が収まるものであれば立地自治体だけで足りるが、原発はそれでは足りないことが(東京電力)福島第1原発事故で分かった。それなのに、立地自治体と周辺自治体を分ける扱いをいまだにしているのは全くナンセンスだ。
私は一貫して、脱原発、反原発と言ったことはない。裁判で言っているのは、福島の事故を踏まえて30キロ圏まで避難計画の義務付けが拡大されたのに、同意権(原発建設・稼働の事前同意)は立地自治体だけというのはおかしいだろうと。30キロまで危険だというなら、危険な地域に住む人間の同意を受けるのは当たり前だ。
−−函館市として原発政策に積極関与するようになったのは、東日本大震災の経験からでしょうか。
◆そうだ。その前は私も安全神話を信じていた。大間で(原発が)造られているのは分かっていたが、深い関心はなかった。だけど、3・11で私自身、目が覚めた。
−−自治体が原発の建設凍結を求めて国を提訴したのは初めてです。異例の行動に出ざるを得なかった背景は。
◆(2011年4月に)市長に就任し、6月に当時の民主党政権に凍結の要望に行ったが、のらりくらりの対応だった。戻って担当部局に「場合によっては訴える」と伝えたら「国をですか」と驚かれたが、「自治体として生存権を侵されているのと同じだ。憲法から(根拠を)持って来い」と指示した。その後も国に要望に行き、自民党政権になってからも会いに行ったが、明確な返事が返ってこない。原発再稼働の議論が高まる時機を見計らって、提訴するしかないと決断した。
−−Jパワー(電源開発)や国のこれまでの対応は?
◆説明会を開いてくれと言っても、一回も開いてくれない。「市長さんに説明しましたから、市長さんから説明してください」と。我々は、原発について詳しいことを質問されても答えられず、市民に説明責任が果たせない。そんな中で「避難計画を作れ」と一方的に言われる。(自治体の意向を)無視されているのと同じだから、それなら訴えるしかない、と思った。国も同じだ。話を聞いてくれない。
−−函館市は渡島半島の先端にあり、避難が難しい地形です。
◆北に向かう国道5号は、大型連休などでは函館から20キロほど先のトンネルが大渋滞する。事故が起きて一斉に逃げ出したら、動けなくなる。まして冬の吹雪だったらどうするのか。どういう事故が起きて、どこまで逃げればいいのか(Jパワーから)データの提供もない。裁判で万が一勝てなければ、今度は「データを示せ」という裁判を起こす。
−−町会連合会の署名が14万筆を超えました。
◆地域として「大間(原発建設)をやめろ」というのは総意で、私一人が騒いでいるわけじゃない。福島原発事故の後、水産物が風評被害で売れなくなったり、観光客が来なくなったり、我々もえらい目に遭っている。それが大間原発で事故となれば、函館は住めない街になる。東京にいると身の回りに原発はないし、恩恵にあずかりながら無関心だと感じる。
−−北海道庁の対応は。
◆道庁は正直言って、我関せずでしょ。自分たちも泊原発(北海道泊村)を抱えているからあまり触りたくないのだろう。お付き合いで心配そうな顔をしているだけなので、こっちもあてにしていない。(東日本大震災後に福島県の)南相馬市長や浪江町長に会いに行ったが、国や都道府県は最終的に一地域を犠牲にすることはあり得ると分かった。彼らは犠牲にされている。自分の街を守るのは住民と直結している我々、基礎自治体しかないと思っている。その覚悟でやっていくしかない。
−−函館市の提訴には周辺自治体の4割が「理解できる」と回答しました。
◆(30キロ圏の)他の人たちも、行動の仕方が違うだけで気持ちは同じだと思う。議会や市民を一枚岩にできるかということで、ちゅうちょしてなかなか進めないのだろう。訴訟を起こせとは言わないが、行動しなければだめだ。国に働き掛け、政府がやらないなら議員立法でやってくれと国会議員にも言うべきだ。【聞き手・横田愛、鈴木勝一】