−技術目線の箱根駅伝− スタートからゴールまで

テレビの技術はとにかく幅広い!箱根駅伝がオンエアされるまでを追いかけます。

総合テクニカルディレクターが語る箱根駅伝

01 移動中継車

中継車にはカメラ、音声、VE(ビデオエンジニア)、スイッチャー、TD(テクニカルディレクター)、アナウンサー、解説者、ディレクターが乗車します。目の前を走るランナーを追いかけ、その状況を伝え続けます。片道100キロのコースをノンストップで走り続けるので、冬場は特に体調管理に気を付けています。

02 開発

箱根駅伝をHD中継するにあたって、デジタル対応の伝送装置やアンテナの開発に取り組みました。また、ヘリコプターが飛ばした電波を地上で受信し、自動的に追尾する装置や、現場で受信中のデータを簡易に映像として確認する装置などを開発し、制作現場を支援しています。

03 中継ポイント

片道100キロに及ぶコースを途切れることなく中継するため、コース沿いにはたくさんの中継ポイントを設置し、移動中継車からの電波を受信しています。都心のビル群、海沿いの街道、風光明媚な山道、と魅力満載の駅伝コースを美しく撮影するのも中継ポイントの重要な任務です。

04 箱根センター

箱根センターは、箱根駅伝でも難所といわれる箱根の山を上り下りするエリアを統括する放送センターです。移動中継車の映像を途切れることなくつなぐため、たくさんの中継ポイントからの映像がここに届けられます。湘南エリアは湘南センター、スタート&フィニッシュを含む東京エリアは汐留本社にて統括しています。

05 ヘリコプター

空撮映像と移動中継車から受信した映像・音声を地上の放送センターに届けることが任務です。ランナーが画面から外れたり、電波が途切れたりしないよう、パイロットと息をあわせて業務にあたります。片道100キロの長丁場ですので、3機のヘリコプターが交代しながらフライトしています。

06 SDC

マイクロ波、光ファイバーなどを使って、スタートからフィニッシュまでの全ての映像・音声信号を管理しているのがSDC(Signal Distribution Center)です。その回線数は50を超えます。回線障害が発生したときは、ここが中心となってトラブルシューティングをし、迅速に正常状態へ戻します。

07 CG

コースのレイアウトを紹介するCG、そしてレース状況に応じた順位スーパーなどリアルタイムで表示するCGの制作統括および送出システムの構築を行っています。データに間違いが無いか?制御に不具合が無いか?OA直前まで入念にチェックします。伝統ある『箱根駅伝』で新しいCG表現に挑戦できるのが醍醐味です。

08 編集

ハイライトやエンドスローと呼ばれる3分程度のダイジェストVTRをCVセンターというところで作成し、OAしています。首位交代、ごぼう抜き、シード権争い、アクシデント…たくさんのドラマがある中で特に印象的なシーンを抜き出し、時間ギリギリまで編集をします。VTRが完成すると、即座に送出担当者が受け取り素早く再生。日常業務で培っているチームワークでOAが成り立っています。

09 インターネット事業

選手のタイム表示や、プレゼント企画を実施するデータ放送、ハイライト動画や選手の現在地を地図上に表示するコンテンツが好評のホームページなどを手掛けています。スマホやタブレット向けの“セカンドスクリーン”展開も充実させ、箱根駅伝をより楽しめるアイデアを実現しています。

10 IT

テレビ局には専門性の高い社内業務がたくさんあり、その業務を支援するシステムが70件近くあります。中でも『営放システム』は、テレビ局にとって大きな柱である編成(視聴者に親しまれるタイムテーブルを作る)、営業(スポンサーニーズを踏まえ効率的にCMを販売する)、マスター(番組とCMを事故なく確実に放送する)の3業務を横断的に結び付ける基幹システムであり、『箱根駅伝』を含む全てのOAを支えています。これらのシステムを安定して利用するためのIT設備管理・運用も重要な業務です。

11 マスター

番組本編にCM・データ放送・字幕などを載せ、その日のタイムテーブルに従って正確に送り出すことがマスターの任務です。日本テレビの放送を守る最後の砦であり、24時間365日、決して休むことはありません。スポーツ番組の放送枠延長、緊急の報道番組や速報スーパーにもスピーディ且つ確実に対応します。少しのミスが大きな放送事故につながるため、常に緊張感をもって業務にあたっています。

12 送信

日本テレビの番組を電波に乗せ、各家庭に向けて送り出しているのがスカイツリー送信所です。地上約600mの高さから送り出す電波は関東一円をカバーしますが、山間部や島しょ部においても日テレのOAを楽しんでいただけるよう、大小様々な中継基地を200局近く設けています。これらの建築、運営、保守が送信担当の仕事です。

総合テクニカルディレクターが語る箱根駅伝Q&A

プロフィール

渡邊 勇二Yuji Watanabe
入社後、送信を経て音声担当に。
2014年、第90回箱根駅伝大会で総合TDを務める。

箱根駅伝の総合TDを担当されるのですね。

入社する動機は「スポーツ中継に携わりたい」でした。日テレといえば「巨人戦」と「箱根駅伝」。20年経ち、その総合TDを担当できるのはこの上ない喜びです。

総合TDとは、どんな役割?

箱根駅伝はお正月の放送ですが、準備は6月後半から。OAに向けて、電波テストのスケジュールを立てたり、人員配置を考えたりすることから始まり、制作スタッフとの打合せを重ねながら技術プランを構築していきます。毎年同じコースを走るものの、昨年と同じとはいかない。例えば交通量が多いことで有名な蒲田の踏切も高架化されたり、中継ポイントとしていた建物が新しく建て直しになったりします。

踏切や建物が箱根駅伝の放送に影響するのですか?

建物などに設置しているカメラポイント=定点ポイントでは、建物の形状が変わると、カメラの設置位置が変わり、ケーブルの引き回しや中継車の駐車場所が変わったりします。また、駅伝中継は移動中継車がコース上を移動しながら画を撮り、集音し、その信号をタスキリレーのように受信しながら繋いで放送しています。電波が通るルートに新しく高い建物が建ったりすると、昨年と同じ中継ポイントでは電波がうまく送受信できない、ということもある。すると新しく別の中継ポイントを作らなければならず、使えそうなビルのオーナーに相談をしに行くところから始まる。コース沿いの建物は普段から注視する癖がついていて、新しく高い建物を見つけると嬉しくなったり。すっかり高層ビルマニア!

全長100キロにわたってそれを積み重ねていく…本当に地道な作業ですね。

そうですね。電波以外にも、「ここでクレーンカメラを使いたい」等のディレクターの新しいチャレンジにも応えていく必要があります。熱いレース展開だけではなく、東京の都市部から湘南の海岸沿いを駆け抜け、雪化粧に飾られた箱根の山道を走るコースの美しさも箱根駅伝の見どころです。風光明媚な箱根ルートの情景をより美しく伝えるため、最高のカメラポジションを探求しています。80台ものカメラを使っているんですよ。これほど多くのカメラを駆使するスポーツ中継は他には類を見ません。

ところで箱根はビルというより山が多いですが、こちらはどんな苦労がありますか?

ルート沿いで最も標高が高い駒ヶ岳の山頂も中継ポイントの1つです。平地は晴れていても山頂は吹雪だったりする極寒の環境ですが、移動中継車の電波を受信する重要な拠点です。機材や資材はヘリコプターで運びます。また、「箱根センター」という箱根エリアの映像音声をすべて集約する場所は、急な坂道の上にあるので、路面の融雪剤や、下山できないことを想定した寝袋を用意しています。

寒さとの闘いがあったとは…番組の見方が変わりそうです。ところで移動中継車は、何時間も車中で過ごすことになり、こちらも大変そうですね。

はい。例えば1号車と呼ばれる先頭ランナーを撮り続ける車には、10人ほどのスタッフが乗っていますが、一度スタートするとお手洗いにも行けません。体調の管理には細心の注意を払っています。

中継車1台だけで10人…全体だと何人のスタッフが関わっているのでしょうか?

1000人規模です。うち、技術スタッフは700人。普段、制作技術の仕事をしていない社員や、ネットワーク局各社からも大勢のスタッフが集結しています。

最後に、総合TDという仕事の面白さ、やりがいを教えてください。

僕の仕事は「土台作り」。カメラさん、音声さん…プロの皆さんが現場の最前線で最高のパフォーマンスを発揮する、それだけに集中できる環境を作るのが役目です。OA本番で「いい画だね!」「いい音録れてるね!」という声が聞こえてきたときに本当の喜びが得られます。

日本テレビで箱根駅伝の仕事に携わりたいと思っている学生のみなさんにメッセージを。

年齢に関係なく、自分がやりたいと思ったことにチャレンジさせてくれるのが日テレの良いところです。大役に不安や焦りを感じつつも、充実した日々を送れますよ!テレビが好きな人、現場で働きたい人を待っています!