Listening:<特定秘密保護法>国会の監視機関、チェック機能あるか疑問の声上がる
2015年03月02日
昨年12月の特定秘密保護法施行から3カ月近くがたち、衆院の情報監視審査会の8人の委員が先月26日にようやく決まった。審査会は特定秘密の指定が適正かチェックする役割を担う。しかし、チェックの端緒になるはずの特定秘密の題名さえ、審査会の委員が見られるのかはっきりしていない。審査会の機能を疑問視する声が改めて上がっている。【青島顕】
◇情報提供は
「中身が分からないのに、どうやってチェックするのか」。2月26日の衆院議院運営委員会で質問に立った民主党の後藤祐一氏が声を上げた。
後藤氏は、昨年末に指定された382件の特定秘密情報や、40万件前後とみられる特定秘密文書の題名を「黒塗りせずに審査会に提示していただけるのか」と質問した。加藤勝信官房副長官は「出す、出さないは精査中だ。今の段階で申し上げられない」と答弁した。
審査会は外部から遮断された部屋で、保秘を徹底して開かれる。内容を漏らした委員は懲罰の対象になる。その代わり、政府に特定秘密の提出を要求できる仕組みだ。にもかかわらず、仮に委員が特定秘密の題名も見られないとすれば、調査対象の絞り込みや、調査の端緒を得ることがかなり難しくなりそうだ。
◇開会要求は
後藤氏はさらに、野党が要求したときに審査会が開かれるのかどうかをただした。審査会の規定では委員の3分の1以上、つまり8人中3人以上の委員が要求した場合に、会長が審査会を開く。しかし衆院審査会の野党委員は民主、維新各1人で、3分の1に満たない。
答弁した鈴木正典・衆院法制局長は「開会を認めるかは、ケースごとに会長、委員でご協議いただく事柄だ」と明確にしなかった。
通常、政府に協力的な与党は、政府の持つ情報のチェックに積極的になりにくい。仮に野党が要求しても審査会が開催されないなら、審査会が機能しなくなる恐れがある。
審査会の委員は衆参とも各会派の議員数に応じて割り当てられる。米国の「情報委員会」は下院では議員数に応じた割り当てだが、上院は15人を多数党8人、少数党7人と1人差で伯仲させている。
◇内部通報は
審査会には、不正な秘密指定があったとき、官僚からの内部通報を受け付ける仕組みが検討されたが、設置される見通しが立っていない。
審査会設置を昨年議論した際、4月の公明党案に内部告発者保護が明記されていた。ところが翌月に自民、公明で協議した与党案では消えた。6月に成立した改正国会法では、付則に検討事項として「調査機能の充実強化のための方策について検討を加える」というあいまいな表現が記されているだけだ。
内部通報窓口は、官庁内に設置されるが、官僚が所属省庁に通報するのは相当ハードルが高そうだ。それだけに、第三者である国会の審査会への設置を求める声は大きい。
◇
同様に審査会が作られる参院は、一昨年12月の特定秘密保護法案審議での与野党対立が尾を引いており、委員の人選も済んでいない。
与党側は3月中には秘密を扱う国会職員の適性評価(身辺調査)を終え、両院の審査会の初会合を目指すとしている。
◇審査会は政府に抗議を−−鈴木秀美・大阪大教授(情報法)の話
監視機関は施行に間に合わせるのが常識で、今ごろ動き出すのはおかしい。さらに、文書提供が監視のスタート地点なのに、秘密ファイルの題名・見出しに当たるものを審査会に見せられるかどうか分からないというのも解せない。これなら国会に監視機関を作る意味がない。国会軽視と言われても仕方がない。審査会として政府に強く抗議すべきだ。
■ことば
◇情報監視審査会
衆参両院に置かれる特定秘密のチェック機関。昨年6月の国会法改正で設置された。衆参各8人の委員で構成する。政府から年に1回、法運用の報告を受ける。必要なときは特定秘密の提出を要求でき、指定が不適切だと判断すれば指定解除などを勧告できる。会議は原則として傍聴できず、議事録も公開されない。
昨年、設置をめぐって議論した際から権限の弱さが指摘されていた。秘密の提出を要求しても、大臣らから拒否されることがある。指定や解除の勧告には強制力がない。
特定秘密の監視機関はもう一つ、内閣府の情報保全監察室があり、検事出身の佐藤隆文・独立公文書管理監が室長を務める。