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【社説】

中1殺害逮捕 届かなかったかSOS

 川崎市の多摩川河川敷で遺体で見つかった中学一年上村遼太(うえむらりょうた)さん(13)は、早くから“SOS”を発していた。救えた命だったのではと悔やまれる。子どもの異変に、大人はもっと敏感でなければ。

 傷やあざだらけになって、事切れている上村さんが見つかったのは二十日の早朝。近くの公園のトイレでは、服や靴が燃える火事があった。身元を隠す工作だったのだろうか、悪質極まりない。

 殺人の疑いで逮捕されたのは、上村さんの知り合いだった十八歳と十七歳の三人。容疑を認めていないというが、加害者までも少年だったとすれば、周りの大人の責任はあまりにも重い。

 真相究明は警察に委ねるとしても、学校や教育委員会、家庭、地域は一致協力し、なぜ凶悪犯罪を食い止められなかったのか徹底的に検証するべきだ。上村さんの変化を読み解き、手を差し伸べることに失敗した原因である。

 バスケットボール部で頑張っていたはずなのに、昨年夏ごろから部活に参加しなくなった。年明けから不登校になった。担任の先生が家庭に電話をしたり、訪問したりしても、本人にまつわる確たる情報がなかなか得られない。

 これだけでも重大な事態だ。不登校生の一人と軽くみて、学校は担任に対応を任せきりにしていなかったか。少年非行や犯罪被害を防ぐための学校警察連絡協議会が情報をうまく共有できていないのではないか。疑問は尽きない。

 上村さんは小学六年だった一昨年夏、島根県・隠岐諸島の西ノ島から川崎に引っ越してきた。大人をふくめ約七十人が別れのフェリーを盛大に見送ったという。

 地域の結びつきが強い小さな町から人間関係が希薄な大都会に移り住み、戸惑ったに違いない。中学校に進めば、教育環境も様変わりする。学校や家庭で孤立感を深めていたのかもしれない。

 友人らは、上村さんの異変について豊富な情報を持っていた。

 昨年十一月ごろに少年らの仲間に加わり、ショッピングセンターや公園などで遊んでいたこと。万引を強要され、断ったら殴られたり、学校に行くなと命じられたりしていたこと。仲間から抜けようとして暴力を振るわれ、命の危険におびえていたことも。

 こうした重要情報は大人に伝わらなかったのか。地域ぐるみで子どもや若者を見守り、声を掛ける取り組みが大切だ。上村さんは西ノ島のような暮らしを川崎に求め、裏切られたのかもしれない。

 

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