ゲストライター - 書評,社会,趣味 07:00 PM
フリーペーパー専門店「Only Free Paper」設立者が選ぶ、今面白い注目のフリーペーパー5選
街や駅、商業施設、カフェ、美術館、CDショップ。目を凝らして見ると、さまざまなところに溢れているフリーペーパー。このフリーペーパー、実際にはどのぐらいの種類があり、どの程度発行されているのか、ご存知でしょうか?
本や雑誌に負けず劣らずの読みものとしてファンの多いフリーペーパーも多数存在しています。それはすでに「無料の有料誌」と言ってしまっても言い過ぎではありません(おかしな日本語になっていますが)。
以前、僕は「おもしろいフリーペーパーだけが集まったお店をつくれないだろうか?」と模索し、フリーペーパー専門店「Only Free Paper」をスタートさせました。今はすでに「Only Free Paper」からは離れてしまった僕ですが、今でももちろんフリーペーパーは好きですし、注目しています。今回の寄稿では僕がおもしろいと思い、注目しているフリーペーパー5冊を紹介したいと思います。
1.『PEPPER SHOP』
A4判/36ページ/フルカラー
発行 : 合資会社ペッパーショップ
配布場所:BEAMS各店、Pater's Shop & Galleryほか
刊行ペース:編集発行人である古賀学の気が向いたら刊行
HP : http://peppergear.com/
デザイナーで映像作家の古賀学氏が企画・編集・発行するフリーペーパーがこの『PEPPER SHOP』。2013年8月30日にこの01号が配布されたので、おそらくこの号はもう入手しにくいと思いますが、個人的に「フリーペーパーらしさ」がとても感じられるので紹介したいと思います。
『PEPPER SHOP』は1993年に当時20歳の古賀学氏が創刊したフリーペーパーで、村上隆、松本弦人、佐藤可士和、伊藤ガビン、岡崎京子、信藤三雄といった人物のインタビューを世に送り出していました。その後、有料化した時期もふくめて3年ほど活動をし、インターネットが登場する前のアート・デザインのフィールドで多くのクリエイターに影響を与えました。
残念ながら、僕はその創刊号の存在は知っているのですが、実際に手にしたことはありません。過去に発行されたフリーペーパーを入手することは非常に難しいことです。たまに値段がつけられ、古本屋で見かけることがあります。しかし、それはごく一部のフリーペーパーで、ほとんどの場合、配布の時期を逃すと2度と手に入れることができません。フリーペーパーによっては直接問い合わせることで手に入れることができるものもあります。
話を戻すと、有料化した時期もふくめ、創刊から20年経った2013年、このフリーペーパー『PEPPER SHOP』が再起動しました。その再起動した01号の特集は「水中モーター」。1967年に登場した「マブチ水中モーターS-1」と現在発売中の「タミヤ水中モーター」をテーマに、参加クリエイターの作り下ろしのビジュアルを展開、また、古賀学氏が撮影した写真集『水中ニーソ』とリンクした企画もフリーペーパーに収録、といった内容となっています。
特集や企画の切り口、「気が向いたら刊行」という刊行ペース、この自由な作り方が「フリーペーパーらしさ」の1つだと僕は思います。このフリーペーパーを見つけたときの発見、新鮮さもこの『PEPPER SHOP』のおもしろさを加速させています。「気が向いたら刊行」なので、2013年8月30日に刊行されたこの号に続く、02号の予定はまだないということです。それで良いのだと思います。それもフリーペーパーのおもしろさです。
次号の予定はまだ未定ですが、古賀氏はさまざまな活動を継続中で、2015年よりレギュラーイベント『月刊水中ニーソ』をスタートさせました。毎月第2水曜日(ニーソの第2+水中の水曜日)を「水中ニーソの日」として中野ブロードウェイ2F「Bar Zingaro/Zingaro Space」でアートやファッションやフェティシズムやテクノロジーやホビーについておしゃべりするイベントを開催中です。
2.『Tech Tech(テクテク)』
A4判/16ページ/フルカラー
発行 : 東京工業大学広報センター
配布場所:東京工業大学大岡山地区広報コーナー 百年記念館 1F 〈大岡山キャンパス〉
東工大蔵前会館 1Fインフォメーション 〈大岡山キャンパス〉など
刊行ペース:年2回
HP : http://www.titech.ac.jp/about/overview/publications/index.html
『Tech Tech(テクテク)』は東京工業大学が発行する広報誌。主に高校生を対象とし、東工大の最新の研究、学生生活、研究室、先輩の活躍など本学のさまざまな面を豊富な画像とわかりやすい文書で紹介する内容となっています。
配布場所がかなり限定されており、僕は2010年に行われた『Make: Tokyo Meeting 05』に足を運んだ際、偶然見つけたのだと記憶しています。目的はあくまで『Make: Tokyo Meeting』ですが、まさに「出会ってしまった」という1冊です。
広報誌なので内容が「東工大にはチャンスがいっぱい」「イマを創る、先輩がいる」「キャンパスライフすごろく」など受験生向けだったりするのですが、特集が「鉄」だったり「スーパーコンピュータ TSUBAME」だったり、個人的にあまり出会うことのない新鮮な切り口の特集でかなり興味をそそられました。
実際に読んでみると、知らないことばかりですごくおもしろんです。紙の質、本や雑誌とは違う「フリーペーパーらしい」佇まいも非常に良いです。東京工業大学のリアルを伝える情報誌『Tech Tech(テクテク)』、出会ったときからずっと注目している1冊です。
3. 『シアター・コミュニケーション・マガジン「座・高円寺」』
タブロイド判/20ページ/フルカラー
発行 : 座・高円寺
配布場所:座・高円寺、高円寺駅、その他高円寺の商店会、劇場、大学・専門学校など
刊行ペース:年2回
HP : http://za-koenji.jp/
東京都杉並区高円寺にある劇場『座・高円寺』が発行するフリーペーパー。街の広場のような劇場になりたいという気持ちを込めて編集を行っていますが、劇場の情報だけでなく、高円寺の町と人の魅力を編集部の切り口で紹介する、地元密着型の1冊。
タブロイド版という、やや大きいサイズで誌面が構成されているので、折り曲げない、きれいな状態では若干持ち帰りにくいですが、「持ち帰りにくさ」を考えても、充実の内容が勝る、素晴らしいクオリティのフリーペーパーです。最新号は2014年8月12日に発行された第12号、特集は「踊る!!高円寺」。生き生きと阿波おどりをする人々と、阿波おどりに対する思いが誌面に溢れています。
「こちらが楽しんでおどると、観客も素敵な笑顔を返してくれる」
「こだわりを持って高円寺に上質な阿波おどりを届けたい」
「阿波おどりは、私たち家族の生活に"なくてはならないもの"なんです」
第10号「本を探しに行きたい町」特集も素晴らしい内容です
高円寺の飲み屋、花屋、写真屋、古道具屋などが小さな広告を出し、高円寺という町を盛り上げているのが伝わります。このフリーペーパーには高円寺という町と人の魅力だけでなく、高円寺の住民たちによる地元への愛がぎっしりと詰まっています。デザインはアリヤマデザインストアが手掛けています。
4. 『月刊島民』
iPadサイズ(と、ほぼ同じ)/16ページ/フルカラー
発行 : 月刊島民プレス
配布場所:京阪電車主要駅、大阪市北区・中央区・福島区の書店、公共施設、大学関連施設、店舗など
刊行ペース:月刊
HP : http://www.nakanoshima-univ.com/
大阪市北区中之島の島内及び周辺の話題を提供している中之島の「街事情」マガジン『月刊島民』。大阪市北区の出版社140B(イチヨンマルビー)が発行元で、2008年8月から続いており、2015年2月現在で79号を発行している人気のフリーペーパーです。もともとは約半年ほどの期間限定発行という予定でスタートし、内容のおもしろさから好評となり、発行を続けることになったというエピソードがあります。そんなエピソードがあるだけのクオリティがこの『月刊島民』にはあります。
まず表紙。イラストレーター奈路道程氏のイラストで毎号描かれた表紙は、それだけでも手に取ってみたくなります。そして内容は広告色が弱く、いかにも大阪! な記事が多く、特集も毎号おもしろい。1冊100円で、直接購入に足を運べる方のみにバックナンバーを販売しているのですが、バックナンバーを買いに求める人は非常に多いということです。
『月刊島民』でおなじみの執筆陣に加え、大阪大学をはじめとするシマ周辺の諸大学、さらには中之島エリアに基盤を置く各企業とも連携し、講演会などの座学、街歩きツアー、ワークショップを含めさまざまな「街なか講義」を展開する「月刊島民ナカノシマ大学」も開催しており、『月刊島民』を通して広がりをみせています。中之島はこのフリーペーパー抜きには語れません。僕にとっては関西に足を運んだ際は必ずチェックする、お気に入りの1冊です。
5. 『出西窯の仕事』
タブロイド判/16ページ/フルカラー
発行 : 出西窯
配布場所:出西窯のみで配布 ※一部出西窯の催事に合わせての配布もあり
刊行ペース:不定期
HP : http://www.shussai.jp/
島根県の民窯『出西(しゅっさい)窯』の魅力を伝えるタブロイド版フリーペーパー。島根県の釉薬(ゆうやく)、薪を使ってつくられ、手仕事のぬくもりを感じさせながらも、和食にも洋食にも合う、いまの暮らしに寄り添う器、それが出西窯でつくられたやきものたち。出雲地方を流れる斐伊川(ひいかわ)の近くにある出西窯はあります。
窯では、土づくりから釉薬づくり、成形、焼成(しょせい)まですべてを手がけています。仕事場では、窓に向かってろくろが並び、十数人の陶工たちが黙々とろくろをまわしている姿。そのすぐ隣には、レンガづくりの大きな登り釜。窯焚きは年3、4回、1昼夜を通して行われ、丸2日間かけて約5000個の器を焼きあげるといいます。
1947年に創業した出西窯の成り立ち、出西窯創設メンバー・多々納弘光氏へのインタビュー、出西料理レシピなどがこのフリーペーパーには収録されています。どの写真も美しく、出西窯のやきものの素晴らしさを伝えています。
出西窯の始まりを多々納弘光氏はこう語っています。「私が仕事をはじめた出発点に、イギリスのウィリアム・モリスの美術工芸運動があります。モリスは、生活にかかわるあらゆる分野の工芸を復興させようとしました。その理念に共感し、私もモリスのようにいわゆるギルド、手工芸の共同体を構成したいというのが出発当初からの願いでした」出西窯の歴史の一部を、迫力あるタブロイドの紙面で知ることができる貴重な1冊です。
フリーペーパーと聞くと、クーポン誌や無料のカタログなどを想像する人も多いと思います。しかし、今回ご紹介した5冊をはじめ、魅力的なフリーペーパーはまだまだ数多く存在します。フリーペーパーの世界はおもしろく、非常に深い世界です。これからもさまざまな場所に訪れては、どんなフリーペーパーと出会えるのか、楽しみです。あなたもフリーペーパーに目を凝らして街を散策してみてはいかがでしょうか。
1983年、福島県生まれ。フリーペーパー専門店「Only Free Paper」元代表。新聞のみの「Only News Paper」、Amazonにない本を紹介する「nomazon」、 漫画と音楽の企画「ミエルレコード」(OTOWAとの「紙巻きオルゴール漫画」で 第17回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 審査委員会推薦作品選出)など。企画とディレクション。本とさまざまなコトの周辺で日々動いています。
Photo by so kogure(ousia)
- 水中ニーソプラス
- 古賀 学ポット出版