2014-03-19
劇場版テレクラキャノンボール2013
ネタバレ厳禁らしいが、金払って見てなんで指示されなきゃなんないんだ。ということでネタバレ有り。
『劇場版テレクラキャノンボール2013』を観た。水曜日のオーディトリウム渋谷はレディースデーということもあって満席で、そのうち半分は女性客だった。俺の隣には玉城ティナによく似た女が彼氏と並んで座っていて、始まる前からなんとなく居心地の悪い思いがした。所々手を叩きながらの爆笑が起こり、終わった後は周りの人達は興奮を抑えきれないと言った感じで作品を振り返っていた。Twitterで検索してみたら最高だったとか、死ぬほど笑ったとかいった感想が並んでいた。断っておくが、勿論俺も笑った。だが、劇場を出て煙草に火を付けてゆっくりと吸い込んだ時、どうしようもなく絶望的な気分が襲ってきた。
帰りの電車に揺られながら考えていたのは、作中で男優・梁井一が出会い系で会ったあるババアのことだった。そいつはとても40歳とは思えない老けた顔とたるんだ腹をしているくせに薄い髪を金色に染めていて、札幌の郊外に猫と一緒に住んでいた。梁井が出会い系はよく利用するのか尋ねると、「友達に教わった」とかいうしょうもない嘘をつくような見栄っ張りで、でもとんでもなく澄んだ瞳をしていた。 その顔がオッサンにしか見えないと出演者の一人が言うと場内は爆笑に包まれ、そいつの変な行動に対していちいち爆笑が起こった。そいつのうめき声のような喘ぎ声に梁井は耳を塞いで腰を振り、遠くを見つめながら射精した。梁井が「ウンコを食いたい」と言うと場内からは声にならない悲鳴が上がったが、そいつはその無茶な要求にも笑って浣腸を探すような人の良い奴だった。結局なんとか一粒ひねり出たウンコを梁井は割り箸でつまんで食った。
恐らくそのババアは知らないだろう、自分が東京のミニシアターで笑い者になっていることなど。なぜならここはミニシアターで映画を観るような習慣があるか、ツイッターで多少アングラなサブカル情報を手軽にゲットできるか、カンパニー松尾という監督を知っているか、あるいは東京に住んでいるかのどれかに当てはまるような限られた文化的強者しか訪れることができない場所だからだ。我々は安全な場所から彼女を笑い、ウンコを食う男優を笑い、そして無邪気に中身の無い感想を呟いて多少刺激的な小旅行から日常へと帰還していく。
しかし、俺は金髪女のブサイクな顔を笑いながらも、隣の玉城ティナの無邪気な笑い声が、自分に突き刺さってくるように思えてならなかった。それは圧倒的高みから理解不能な人間の滑稽さをあざ笑う乾いた笑いだった。それは軽々と対象を変え、全ての理解不能なものへと波及していく。男優へ、監督へ、そして俺へ。だが俺は、北海道の外れで猫と暮らしながら出会い系で一時の快楽と金銭のために身体を売るしかない寂しいババアが、恐らくたくさんの酷い目に遭いながら日々を過ごしているがゆえに、少し優しくしてくれた男に対して頑張ってウンコを出すそのどうしようもなさに泣きながら笑うしか無かったのである。自分がその立場になったらそうするしかないという絶望的な事実に。しかし、その二つの笑いはどこが違うのだろうか。何も変わらないんじゃないか。ただ言い訳が付いているかどうかなだけで。
こんなことは、今までのキャノンボールシリーズでは感じなかった。それもそうだ。俺は今までのキャノンボールシリーズは薄暗い自分の部屋の液晶画面で惨めにも自分の肉棒を握りしめながら観ていたからだ。先日同じくオーディトリウムで行われたキャノンボールシリーズのオールナイトにも行ったが、その時はカップルで賑わう土曜夜のラブホテル街の真ん中でごく僅かな(土曜の夜中にAVを見に来るような酔狂な)人間と朝までスクリーンの暗闇の中で過ごしていたからだ。その時は、AVの中のブサイクな女、男優、そして惨めな俺達を包み込む奇妙な一体感が確かにあった。このアンダーグラウンドな空間だけが俺たちに残されたほんの僅かな場所であるかのような、ささやかな充足感が。それが消費行動を自分の拠り所にするようなクソダサイ行為であることは勿論理解しているし、童貞のリア充への僻みwのような二項対立図式に飲み込まれるようなしょうもない感情であるのかもしれないとも思う。あるいは古参ぶって新参を叩くような気持ちの悪いアレなのかもしれないし、俺だけが分かっているという気持ちのよい優越感を邪魔されて苛々しているだけなのかもしれない。そしてだからといって人を笑って良いということにはならないというのもよく分かっている。でも、本来ならば許されるべきでないような人を笑いモノにする行為を、それでも支えていたのは最低限のアンダーグラウンドの倫理では無かったか。それは決して滑稽な見せ物として安全地帯から一歩引いた嘲笑をすることではなく、自分も一緒になって彼等と旅をし、必死になり、チンコをシゴき、そして共に笑い、笑われ、泣く行為だ。少なくとも俺はそう信じていた。
このキャノンボールシリーズが開始されたのは、まだテレクラが全盛期でアダルトビデオはその名の通りVHSで流通していた時代だった。誰が観るのかもよくわからないようなそのビデオの映像では、バイクのメーターにはモザイクがかかっていなくて、車にはオービスの位置を知らせる警報機が備えられていた。彼らはスピードメーターが振りきれるような疾走をしていて、その圧倒的な自由さに俺は憧れていた。あの手この手で女を言いくるめてヤっちゃうようなスレスレの行為は純粋にかっこ良く思えたし、化け物みたいな女とヤる男優に笑いながら、そんなヤバイ映像を見ているだけで、仲間に入れてもらえたように感じて自分の惨めさもどうでも良く思えてきて、そして最後には人生のひとときを彼等と過ごせたような、そんな気分になったのだった。
しかし、時代は変わった。全てのアンダーグラウンドは消滅し、サブカルチャーになった。何処へ行っても、俺よりイケてて人生をエンジョイしている人間が、それも悪気もなく、そして実際ケチのつけようもない良い人達が笑顔でやってくる。最高だっぜ、笑ったな、面白かったよな……
それはとても良いことだし、たくさん売れればいいなと心から思う。だってAVもミニシアターもいつまであるか分からないから。実際ヤバイらしいって噂も最近よく耳にする。その中で今まで買ってくれなかった層に売ろうって思うのは当然だし、圧倒的に正しい。分かっている。
でも…こんなしょうもないことで絶望的な気分になっている自分に対する絶望が無限に円環し続けてしまう…
映画のラスト、順位の結果発表も全て終わった後で、ビーバップみのるが、これをやらないと俺のキャノンボールは終われない、と言って何の脈絡もなく素人りんのウンコを食う。「ウンコを食う人生と食わない人生だったら俺は食う人生を生きたいんスよね」と照れ隠ししながらも、俺は彼がウンコを食った本当の理由が分かったような気がした。それは、恐らく彼等と本当に旅をした人間にしか分からないものだと思う。俺もウンコを食いながら、この雑文を書いたよ。
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