吉留久晴「ドイツのデュアル大学での人材養成にかかわる産学連携の実相」
『産業教育学研究』2015年1月号に、吉留久晴さんの「ドイツのデュアル大学での人材養成にかかわる産学連携の実相」という大変興味深い論文が載っています。
是非、高等教育レベルの職業教育問題を論ずる方々は、L型とかいうキャッチーな言葉ばかりに踊らされず、こういう地味だけれど本当に役に立つ研究成果をふまえていただきたいと思います。
この論文については、すでに田中萬年さんがブログで紹介していますが、
http://d.hatena.ne.jp/t1mannen/20150213/1423791830(理論と実習を関連づけるドイツの大学改革)
ドイツのデュアル大学での人材養成にかかわる産学連携の実相
-デュアルパートナーの関与・役割に着目して-
吉留 久晴(鹿児島国際大学)
概要:学士課程での理論学修とデュアルパートナーと呼ばれる企業等での長期間の実習を組み合わせた、新しい種類の高等教育機関であるデュアル大学が、2009年にドイツで誕生した。本稿では、こうしたデュアル大学での人材養成に対する企業等の関与・役割の実態とその特徴を明らかにすることを試みた。分析の結果、大学の構成員であるデュアルパートナーが実習のための場所の提供のみならず、理論と実習の両学修の計画・実施・評価・改善に重層的かつインテンシブに関与し、同大学の理論学修と実習の統合の実現に貢献していることが浮き彫りとなった。
デュアルパートナーというのは、つまり実習先の企業のことですが、重要なのは、
・・・看過できないのは、デュアルパートナーに、大学教員などと対等な地位と権限が与えられていることである。・・・決して形式的ではなく、実質的に対等な大学の構成員であることは、デュアルパートナーの代表者が、デュアル大学の理事会の構成メンバーに必ず含まれることからも如実に分かる。このように、同パートナーが、「大学の自治や使命遂行」に直接関与できるようになっているのである。
こういうのを聞くと、すぐに「大学の自治が・・・」という人が出てきそうですが、いや、デュアルパートナーが参画して教育内容を決めることこそが「大学の自治」なんですね。文部科学省の基準に従うことよりも。
ある3年制のデュアル大学の学修課程のモデルは次のようですが、
入学すると、まず実習からスタートするんですね。その後、理論と実習を交互に繰り返して、実習では長期間かけてプロジェクト研究に従事し、最後に卒業研究で、学士号が授与されるというわけです。
そして、入学者選考はデュアルパートナーの手にすべて委ねられています。入学希望者は、各デュアルパートナーと学修・養成契約を締結しなければならず、つまりその企業に採用されなければデュアル大学に入学できないのです。
うむ、これって、卒業後の就職活動が大学入学時点に前倒しになっているだけという感じもしますな。
デュアル大学の学生には、在学中の3年間、各デュアルパートナーから毎月800-1000ユーロの手当が支給され、かつ卒業後はそのデュアルパートナーに採用される可能性が高く、6割は実習先に就職ということなので、ますますそんな感じです。
授業の60%が非常勤講師で、その9割はデュアルパートナーからの実務者で、企業側も力を入れているそうです。
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コメント
就職活動の前倒しとも言えるし、インターンの大学教育への内部化とも、企業の社内教育の外部化ともいえるでしょうね。
デュアルパートナーが入学者を決めるとなると、結局デュアルパートナーとなれる規模が大きい企業の採用対象となるレベルの層しか相手にされないわけで、そのような教育機関にどこまで公費を投入すべきかは微妙なところがあると思います。デュアル大学の財政構造を知りたいところですね。
いずれにしても、日本のFラン大学の学生のほとんどは対象外でしょうね。職業教育でも冨山氏のいう「高い山」に属する話でしょう。
労働組合がデュアル大学にどのように関わっているのか気になるところですね。日本の企業別組合の実態を前提に、日本でこのようなシステムを導入すると、企業の従業員教育の下請けにしかならなくなる恐れもありそうです。
投稿: 通りすがり | 2015年2月27日 (金) 00時27分