自治はどこへ:2015年統一選 「無投票当選、阻止」→現職出馬取りやめ 新人思わぬ「白紙委任」

毎日新聞 2015年02月25日 東京朝刊

4年前の選挙で、掲示する機会のなかった選挙ポスターを広げる渡辺悟町長=長崎県東彼杵町で
4年前の選挙で、掲示する機会のなかった選挙ポスターを広げる渡辺悟町長=長崎県東彼杵町で
東彼杵町と時津町の位置
東彼杵町と時津町の位置
首長選でも増える無投票当選
首長選でも増える無投票当選

 現職の無投票当選を阻もうと新人が名乗りを上げたところ、現職が出馬を取りやめ、自分が無投票当選してしまった−−。有権者が1票を行使する機会を持てないまま、手を挙げた人物がそのまま自治体の首長となる「新人無投票当選」の事態が各地で起きている。人口減や高齢化が進む地方で、議員だけでなく行政の長の担い手不足が深刻化している。【深津誠】

 ◇長崎の町長選「論争できない」

 人口約8500人の長崎県東彼杵(ひがしそのぎ)町。4月の統一地方選で町長選が告示される。24日現在、現職の渡辺悟町長(66)以外に出馬の動きはなく、無投票再選の可能性が高い。

 2011年の前回町長選では前職の紙谷修氏(71)が同年2月、3選を目指し立候補すると表明。翌月、同町元課長の渡辺氏が「無投票は避けるべきだ」として出馬を表明したところ、5日後に紙谷氏が一転、不出馬を宣言。そのまま渡辺氏の「新人無投票当選」が決まった。「現職が下りるのは予想せず、拍子抜けした」と振り返る。ポスター100枚は無駄になった。

 町に閉塞(へいそく)感が漂う。周辺2町との合併話は財政難から09年に破談。九州一の人口増加率を誇る大村市に隣接して若者の流出がやまず、人口は昨年までの9年間に1300人(約13%)減。島しょ部を除き県内最悪の減少率だ。

 2期8年務めた前職の紙谷氏は、不出馬の理由について「無責任とは思うが、若いころのひらめきが浮かばなかった。町の財源は乏しく、できることは限られている」と話す。

 渡辺氏は4年前の立候補時「町長給与の半減」を唱え、月給74万円を課長より安い37万円に減額。浮いた分を各地区にまちおこし費として配ったが、「若者をつなぎ留めるのは難しい」と話す。

 町議の一人は「人口増には合併や若者優遇が必要だ。町長の給与が注目されるようでは政策論争はできない」と嘆く。渡辺氏自身、「また無投票で当選するのは……」と当惑する。「町を何とかしようと責任を感じる人は、いないのか」

       ◇

 人口が増える自治体でも「新人無投票当選」は起きている。

 長崎市のベッドタウンとしてこの30年間で人口が7000人増えた同県時津町。前回11年10月の町長選で、4選に向け出馬するとみられていた平瀬研氏(64)が、告示1カ月半前に引退を表明。他に候補はおらず、平瀬氏は副町長の吉田義徳氏(67)に出馬を打診した。

最新写真特集