猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ夕方に四つとしたら猿たちは少ないと怒ったので、朝に四つ夕方に三つとしたら喜んだ――。衆院の選挙制度改革を検討する衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長=佐々木毅・元東大総長)の議論をみると、「朝三暮四」の言葉が頭をよぎる。

 調査会は「一票の格差」を是正するため、小選挙区の定数配分を「アダムズ方式」と呼ばれる新しいやり方で行うことを軸に検討を進めている。

 この方式で現行の295議席を配分すると、青森、鹿児島など9県で1議席ずつ減る一方、愛知など4県で1議席、神奈川は2議席、東京が3議席増えて「9増9減」となる。2010年の国勢調査に基づく試算では、都道府県間の最大格差は1・598倍になるという。

 佐々木座長は「アダムズ方式」の利点として①議席の増減の幅が小さい②人口減少にある程度対応することができる――などを挙げる。

 しかし、アダムズ方式は、標準的な比例代表制の議席配分方式であるドント方式に基づいて各都道府県に議席を割り振った後、すべての都道府県に1議席ずつ加えた場合と同じ結果をもたらす。かつての「1人別枠方式」はあらかじめ1議席を各都道府県に割り振ったのに対し、アダムズ方式は後から1議席を加えるというだけの違いと言え、11年の最高裁判決の趣旨に照らして疑問がある。

 同判決は、投票価値の不平等をもたらす「1人別枠」には合理性がないとし、速やかな廃止を求めた。3年前の法改正で1人別枠方式は条文から削除されたが、実質的には温存され、最高裁は国会に抜本的な改革を求めている。

 調査会の議論では、アダムズ方式の計算過程には「1人別枠」の考え方は入っておらず、結果として同じになるだけだから問題ないという趣旨の意見も出ているようだが、果たして国民の理解を得られるだろうか。

 そもそも、公表されている議事概要を読む限り、調査会には、民主的平等とは何かという根本的な議論が欠けている印象がぬぐえない。

 有権者の意思を適正に反映する選挙制度は、民主政治の基盤であり、本来、衆参両院の役割分担を踏まえた一体的な議論が不可欠である。昨年12月に衆院選が行われたことで、調査会は時間的余裕を手にしたはずだ。拙速と短絡に流れることなく、「専門家」として、幅広い見地からの議論をお願いしたい。