アンドロイド向けのアプリストア「カフェ・バザール」のスタッフ Benoit Faucon/The Wall Street Journal
【テヘラン】明るい色の壁に囲まれ、据え置き型ゲーム機やテーブルサッカーゲームが置かれたカフェ・バザールのオフィスはサンフランシスコやロンドン、ベルリンなどテクノロジーの中心地で生まれている数多くの新興IT(情報技術)企業と見た目は何ら変わらない。
だが、カフェ・バザールのユニークさは、その場所にある。ここはイランの首都テヘラン中心地にある高層ビルの中だ。
カフェ・バザールは米グーグルの携帯端末向け基本ソフト(OS)「アンドロイド」用のアプリを扱うアプリストアで、仕組みはコンテンツ配信サービスの「グーグルプレイ」を真似ている。
イランでは数多くのIT企業が産声を上げており、カフェ・バザールもそのうちの1社だ。国際的な経済制裁や厳しい検閲法が世界的なテク関連企業をイランから遠ざけているなか、いや遠ざけているからこそ、こうした新興企業が伸びている。
フェイスブックやツイッターは人口7800万人のイランで増えつつあるテク好きのユーザーの間で特に人気となっている。ユーザーの中には最高指導者ハメネイ師やロウハーニー大統領のオフィスも含まれている。しかし、国際的な対イラン経済制裁の影響で進出が抑制されていたり、イラン国内の法律で事業が禁止されていたりする外国のIT企業はイラン向けにコンテンツを提供するには至っていない。
だが、こうした障害は国内企業の急速な成長を促している。カフェ・バザールはゲームやソーシャルメディア系、メッセージ系などのアプリを国内外向けに2万5000種以上提供している。サイト訪問者数はイランだけで1週間に約2000万人に達する。
グーグルプレイや米アップルの「アップルストア」がイランで使いにくいという事情も背景にある。経済制裁により、国をまたいだ送金が困難であることが主因だ。カフェ・バザールはその空白を埋めようとしている。
他の新興IT企業もソーシャルメディアや電子商取引、オンラインビデオといった分野で同じようなビジネス機会をとらえてきた。つまり、アマゾン・ドット・コム、グルーポン、グーグルの動画共有サイト「ユーチューブ」といったサービスを真似て事業を展開している。
イランの新興IT企業創業者らは、対イランとの取引で西側の企業に課されている制限のおかげで大手外国企業との競争が減り、成長が助けられたと指摘する。米国のIT企業によるイランの市場へのアクセスは今のところ制限されているか、もしくはまったくない。コンテンツの禁止や事業展開の制限がその理由だ。
例えばユーチューブはイランで禁止されている。このため、イランの動画共有プラットフォーム「アパラト」は数百万人のフォロワーを持つサイトに成長した。サバ・アイデア・テクノロジーが所有するこのサイトは1日平均500万回の再生があり、投稿される動画の量は毎日367時間分に達する。また、アマゾン・ドット・コムを模倣した電子商取引「デジカラ」は毎日4000件を上回る注文をさばいている。
サバで事業開発と国際業務を担当する責任者によると、サイトに投稿されるコンテンツはイランの文化を尊重しているものであることに注意しているが、コンテンツに対する直接的な検閲は受けていない。音楽や映画のシーン、動物、宗教関連などが人気だという。
だが、この成功ももう長くは続かないかもしれない。外国資本がイランで事業を行う道を探り始めたためだ。ウォール・ストリート・ジャーナルは昨年、対イラン経済制裁が解除された場合に備えて、アップルがイラン企業への接触を始めたと報じた。
その兆しはすでに現われ始めている。一時は300万人以上が登録していたソーシャルメディア「Cloob」の登録者数は40%減少した。サバによると、フェイスブックの人気が広まっているのが背景だ。
デジカラへの初期出資社であるベンチャー・キャピタル(VC)企業サラバ・パルスの創業者は「イランの新興企業は(外国企業を)食うか、食われるかだ」と述べた。