被爆ジョークと隔離エッセイ
テーマ:ニュース報道を見る英国の国営放送BBCテレビが
お笑いクイズ番組『QI』で
広島と長崎で二重被爆した
山口彊(やまぐち・つとむ)さんを
『笑いのネタ』にしたのが
2010年12月のこと。
番組の内容に
在ロンドン日本大使館は抗議。
年が明けた2011年1月21日、
番組プロデューサーから
日本大使館に
謝罪文が届けられました。
この件、皆様ご記憶でしょうか。
そしてこの話を初めて耳にしたときに
多くの日本人が感じた(であろう)
あの身の震えるような怒りとやるせなさを
まだ覚えていらっしゃるでしょうか。
最近物忘れが激しい貴方は
どうか当時のわがブログの該当記事と
そのコメント欄をご確認ください。
(記事は三部構成です:
1.『BBCの二重被爆者ジョーク問題』
2.『それをブラックユーモアというな』
3.『私が今、考えていること』)
かくいう私も久々に
自分の書いた文章を読み返し
私が私のくせに生意気にも
理論的な主張をそれなりに
展開していることに驚いたのですが
(Norizoさん、それは謙遜、それとも自慢?)、
他の皆様の感じ方はどうてあったにせよ、
私にとってあの問題の一番の『痛み』は
「BBC側に悪意がなかった」事実。
日本大使館側から抗議を受けて初めて
「えっ?私、そんなひどいことしました?」と
心底驚愕したであろう番組製作者たちの
無知と想像力のなさ。
そして気を付けなくてはいけないのは
そうした知識と想像力の欠落は
なにも彼らだけの問題ではなく、
私自身にも絶対にある弱点であること。
それにしてもあの時
「抗議って日本大使館にはユーモアを
理解する精神がないんですか(笑)」
と世間に嘲笑されるかもしれない
可能性をがっつり理解したうえで
「これはユーモア以前の問題です、
我々にとってこれは
笑えないし腹立たしいし許せない、
大使館として公式に抗議する案件です」
と判断した日本大使館側の姿勢を
私は支持しますし
またその抗議を受けて最終的に
謝罪文の送付を決定したBBC側も
誠実であると私は感じました。
「だって知らなかったんだから
仕方ないでしょ」とか
「あれは本番で出演者が
勝手に言ったことなので」とか
そういうことは言わず
「なるほど、確かに
我々は考え方が甘かったです」
と認めたところを評価したい。
さて、ここで本日の本題。
産経新聞に掲載された
作家曽野綾子さんのコラムが
アパルトヘイトを美化しているとして
南アフリカ駐日大使が抗議した件、
皆様すでにご存知ですね。
ちょっと不安なんですけど、
もしかしてこの話を
ご存知ない方もいらっしゃいます?
いえ、ネットで検索した感じだと、
これ、NHKなどは
報じていない様子なんですが
これは私の検索が甘いせいでしょうか?
ともあれ。
コラム全文は各自で読んでいただくとして
たぶん南アフリカ駐日大使の
憤りと悲しみの琴線に触れたのは
曽野氏の次の一文からコラム後半にかけての
くだりなのではないかと私は考えております。
「もう20~30年も前に
南アフリカ共和国の実情を知って以来、
私は、居住区だけは、
白人、アジア人、黒人というふうに
分けて住む方がいい、と思うようになった」
で、ここから話は続いて、要約すると:
人種差別撤廃後、それまでは
白人専用だった集合住宅に
黒人も住むようになった
↓
白人と違って黒人は大家族主義なので
集合住宅の一室に一族が集まり住む
↓
居住人数過剰のため
集合住宅の水栓から水が出なくなった
で、「白人は逃げだし、
住み続けているのは黒人だけになった」。
そしてオチが
「人間は事業も研究も運動も
何もかも一緒にやれる。
しかし居住だけは別にした方がいい」
さて、これは
アパルトヘイトの許容・美化か?
そこのところの判断は人それぞれですが
とりあえず南アフリカ駐日大使は
『これは正式に抗議すべき案件』と判断した。
つまりアパルトヘイトの当事国である
南アフリカ人としてはそう感じる、
そう考えざるを得ない表現である、と理解した。
図式としてこれは4年前の
英国『QI』の二重被爆者ジョークと
とてもよく似ていると私は感じるのです。
もちろん片方は硬派コラム、
もう片方はお笑い番組。
しかしある『表現』が
その表現の『受け手』の一部に
『公式の抗議』を決意させる程の
衝撃を伴う内容だった点は同じ。
私としてはここはコラム筆者と
そのコラムを掲載した新聞の責任者には
あの時のBBC番組プロデューサーと
同じ程度に誠実に対応していただきたいもの。
西日本新聞の取材に対する
曽野先生の返答は以下の通り:
(コラムがアパルトヘイトを肯定、
擁護しているとの批判について)
あなたのご質問は、
現代の日本で、武家制度を復活し、
脇差しをさして生活することを望むか、
という感じです。
私にはよくわかりません。
・・・先生、すみません、私には先生が
狙っているところのご反論の趣旨が
いまひとつよくわかりません。
これよりもむしろ
『ウォール・ストリート・ジャーナル』への
ご返答の方が正統派曽野綾子的。
曽野綾子氏の著作というか
エッセイをこれまで読まれてきた方は
すでにご存知だと思うのですが
『異人種同士の生活は軋轢を生む』
というご主張は、これ、曽野先生の
お得意の論旨の一つなんですよ。
「知人のお嬢さんに結婚の相談をされた、
相手はアフリカ出身の黒人男性で・・・」
みたいな感じに始まるあの曽野節、
おわかりの方はこれでおわかりですね。
しかし曽野先生のそうしたエッセイは
これまでそれほど大きくは批判されなかった。
その理由の一つは、私は
『編集の腕』にあったのだと思います。
エッセイスト曽野綾子に対し
「さすが先生、歯に衣着せぬその姿勢、
誤解を恐れぬその勇気、
批判覚悟でご自身思うところの
正論をびしばし展開、先生、最高!
こんなこと書ける人、他にいません!」
とよいしょよいしょと持ち上げたうえで
「しかしこの表現は読者の理解力を
超えているかもしれませんねえ・・・
先生のご主張を真に理解することの
邪魔になるかもしれませんねえ・・・
先生は差別論者ではありませんでしょ?
だから読み手にそういう誤解は
与えないようにここらへん書き直しましょ」
と上手に言える編集がいるかいないか。
そんなわけでこの場合の『編集』である
産経新聞の東京編集局長の見解は:
当該記事は曽野綾子氏の常設コラムで、
曽野氏ご本人の意見として掲載しました。
コラムについてさまざまなご意見があるのは
当然のことと考えております。
産経新聞は、一貫して
アパルトヘイトはもとより、
人種差別などあらゆる差別は
許されるものではないとの考えです。
なるほど。
しかしこの見解には一つ足りないものがある、
それは産経新聞が曽野先生の当該コラムを
『アパルトヘイトを美化している』と
考えているか、考えていないか、その表明。
「コラム全文を読めばおわかりいただける通り
曽野氏はアパルトヘイトを美化していません。
つまり抗議は言いがかりです」
と胸を張って言えるのか、それとも
「曽野氏の主張にはアパルトヘイトを
美化していると受け取られかねない
表現はありました。が、しかし
新聞社として問題はないと判断しました。
抗議は作家ではなく新聞社にどうぞ」
ということなのか。
ただ私はこれ、『QI』と同じで
「抗議が来るまで問題のある表現だとは
編集部内で誰も気づいていなかった」が
実は正解な気もするのですよ。
その場合は
BBC番組プロデューサーに倣い
産経新聞は
「アパルトヘイトに関する認識が甘かった」
と正直に認めるのが一番なのではないでしょうか。
ズルい言い方かもしれませんが、
それが結局新聞社のメンツと作家を
守る結果につながると思うんですよ。
まあそれでも産経新聞関係者でも
曽野綾子ファンクラブ会員でもない
多くの一般日本人には、この話は所詮
対岸の火事というか『他人事』だと思うのです。
でも皆様、少しだけ
思い出そうではありませんか、
あの『QI』騒動の時、
怒りに身を震わせた人々の一部が
「こんな放送を許す英国人はやはり
原爆に肯定的で侵略的で人種差別的で
エゴイスティックで傲慢で
日本人を馬鹿にしているのだ」
と心の底からそう信じて断罪したことを。
実は多くの英国人がそんな騒動が
『QI』に持ちあがっていたことすら知らなかった、
という事実も怒りに油を注ぐ結果
(『だから結局日本人を馬鹿にしているのだ』)
にしかならなかったことを。
今回、南アフリカの人々の心の中で
逆のことが起きる可能性はゼロではない。
「全国規模の大新聞が堂々と紙面に
こんなエッセイを載せるということは
日本人はやはりアパルトヘイトに肯定的で
当時『名誉白人』扱いされたことを誇りにしていて
人種差別的で自分さえよければ問題なくて
歴史を振り返ろうともしないで
南アフリカの問題を軽視しているのだ」
アパルトヘイトの悲劇を経験した
南アフリカ人に面と向かって
目に涙をためてこう言われたら。
貴方ならどう事態を説明しますか。
ああ、ごめん、
今回長いうえに内容も真面目すぎ
いえね、産経新聞には頑張ってほしいの
最大のライバル朝日がアレな昨今、
頑張りどころは今でしょ!という
産経新聞の政治姿勢は
私はまったく好まないんですけどね
でも基本的に報道各社というか
メディアに対し
私は潜在的好意を抱いているので、はい
一時期ネット上で
『マスゴミ』という言葉を使って
喜んでいる人が多くいましたけど
報道メディアがなくなったら
困るのは我々よ、という
でも今回のこのニュースを
もしも一部のメディアが
「大きく取り上げないでおけば
そのうちなあなあでおさまるだろう」
という判断に基づいて
報道していないのだとしたら
それは違う、と
私は思うのですがどうですかね
頑張れ、頑張ってくれ、報道の皆さん!
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考えさせられるトピックですね。
勉強になりました!