阪神淡路大震災から20年 復興は果たされたのか?神戸長田を歩く (下)

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阪神・淡路大震災から20年。当時壊滅的な被害を受けた神戸・長田の街は、総事業費2711億円をかけて大きく生まれ変わった。だが、復興の目玉事業であった商店街の大型再開発事業に商店主たちは強い不満を抱く。現地を歩き、復興の実態を調査した。(アイ・アジア/鈴木 祐太)

2階の店舗はシャッターが閉まっているのが目立つ。エスカレータは客がほとんどいないのに動いている。これが経費のかさむ一因でもある。

◆ 復興再開発で経費高騰し商売圧迫

◇ 高騰した共益費
大正筋商店街で茶葉販売の「味萬」を営む伊東正和さんに、空き店舗が目立つ理由を尋ねた。伊東さんは震災前からこの商店街で商売をしてきた。

「経費が高いからですよ」
「経費」とは何のことか。
「共益費などの経費が倍以上かかるようになってしまったんですよ」

なぜ、震災後の経費が倍以上に上がったのか?伊東さんによると、それは巨大なビルに理由がある。震災前にはなかった上下階へのエスカレータは客の少ない時にも動き、エレベーターも完備されている。商店街の通路は、震災前から両側1.5m、計3m広げ、清掃などの管理費用や照明代、トイレなどの維持費もかかるようになった。

再開発地区の概要と全体図
また、それ以外の経費も震災後、新たに生じるようになったという。震災前の大正筋商店街では、店舗と居住区が一体となった昔ながらの店で商売をしていた。それが震災後は、店舗とは別に居住スペースを確保しなければならなくなった。つまり、住居費用と店舗費用が別々に必要となり、余分に経費がかかるようになったわけだ。

こうした経費の高騰について、神戸市から十分に説明されなかったと伊東さんは話す。 「毛布一枚をもらうのに一日かけて並ばなくてはならない時期に、2か月という短い時間に震災復興再開発という決定が出たのが一番の問題。いくら書類に書かれていたとしても、この時期はほとんどの人が自分の家族を守るために行動しているわけですから、計画を理解できたかというと、それは難しかった」

伊東さんはさらに続ける。
「ランニングコストがこれだけかかるというのが分かっていれば、これだけ大きい街は作らなかったんじゃないのかな」

◇ 神戸市の見解
再開発した建物の不動産管理などを担っている新長田まちづくり株式会社が作った資料がある。

アスタ地区入居率(2014年12月1日現在)

アスタ地区入居率(2014年12月1日現在)
それを見ると総面積のうち、約94%が埋まり、区画数でも90%が埋まっている。これを根拠にしているのだろうが、神戸市市街地整備課の天野稔也課長は「全国的な商店街の状況からみると、決して悪くない」と胸を張った。
「この資料の内容と、私が実際に「アスタくにづか」で見た内容とは異なるような気がするが?」と質問をぶつけてみた。天野課長は次のように説明した。

「店舗は分譲や賃貸で埋まっている。売上など経営上の都合で店を閉めている場合もある」 空き店舗に見えるのは商売を中断しているだけで、それは経営者の判断であって復興計画の問題ではないという主張だ。

案内板には、空き店舗が確認できる。特に、2階は半数が空き店舗。
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それは伊東さんにはどう聞こえるのだろうか。再び伊東さんを訪れた。伊東さんは一瞬、表情を強張らせたように見えたが、直ぐに穏やかな表情に戻り口を開いた。

「明日に向かってみんなで協力していく、これしかない。今の経費を少しでも安くするというのを行政にもっと応援して頂けるよう、話し合いの中で決めていかなければいけない。我々も前を向いていきますので、行政の方も真剣に(考えてもらい)、手を取り合って進んでいきたい」

震災からの復興の問題は、東日本大震災の被災地でも既に顕在化し始めている。行政主導の大型公共事業が本当に地域の復興につながるのか、注視する必要がある。
(おわり)



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