思いつきのメモ帳

2015-02-25

[][]『帝国の慰安婦』(朴裕河)の中で記述を改めてほしいと個人的に思う箇所

 今回は普段と文体を変えて述べたいと思います。

 『帝国の慰安婦』について批判的に言及していると、韓国での出版差し止め訴訟において裁判所が出版等禁止及び接近禁止の仮処分決定を下したことを支持するのかと批判されることがあります。言論の自由民主主義社会の根幹を成す自由であり、私も最大限尊重したいと考えます。しかし、その言論で言及された当事者の方々の尊厳も最大限尊重するべきだとも考えます。私の価値観をシンプルに言いますと、「個人の尊厳≧他者言論の自由」と考えています。したがって『帝国の慰安婦』に問題のある記述箇所があるならば、それは削除又は訂正してあげてほしいと思います。私は今「あるならば」と言いましたが、私としては看過できない記述箇所を一つ取り上げたいと思います。

 『帝国の慰安婦』第2章記憶の闘い−韓国編 1.再生産される記憶で、筆者は韓国で製作されたアニメーション「少女物語」を取り上げて次のように批判しています。

そして証言では、自分に阿片を打ったのは「主人」だったとしているが、アニメーションでは「軍人」が打ったかのように描かれる。「主人」の姿は消えて、軍人だけが前景化しているのである。阿片に関する話はほかの証言でも時折現れるが、阿片は、身体の痛みを和らげる一方で、時には性的快楽を倍増するためにも使われていた(『強制』2、一五七〜一五八頁、『強制』3、一三三〜一三四頁)。そしてそのほとんどは、主人か商人を通して買われていた。しかし、そのような阿片使用の元の目的は消えて、ただ日本軍の悪行の証拠としてのみ位置づけられる。証言を加工した二次生産物が、慰安婦のありのままの生をますます見えにくくしている最近の代表的な例と言えるだろう。
p.151-152


 私が看過できないと思ったのは、斜体にした箇所です。ここは「少女物語」への批判というよりも、いくつかの証言から一般論として筆者が述べている箇所です。筆者は、阿片使用の目的を1.身体の痛みを和らげる、2.性的快楽を倍増するの2点として論じていますが、この記述は問題があると思います。

 まず、阿片使用の目的には慰安所生活に伴う心理的苦痛を一時でも忘れるためがあるはずで、それが言及されていません。これは例えば金田君子さんの事例があり、「現実から逃避するために吸い始めたアヘンの中毒になった」と説明されています。
 そして、さらに問題なのが「性的快楽を倍増するため」の箇所です。何の説明もなく「性的快楽を倍増するためにアヘンを使用した」と記述してしまうと、性的暴力の被害者に対して「貴方も楽しんだのだろう」という言葉を突きつけるような二次加害になりかねません。また、心ない読者がこの記述を取り上げて二次加害につながる言動をしないとも限りません。
 ここでは元「慰安婦」の方々はなぜ性的快楽を倍増させるためにアヘンを使用したのかをさらに考えるべきではないでしょうか。私は数年前、いわゆるキャバクラでアルバイトをしていたことがあります。キャバクラは女性が客の隣に座って接待し、基本的に身体接触のない風俗業ですが、その店舗のキャストの女性達の中には客の席に着く前に厨房で酒を飲みたがる人もいました。素面では接客できないからだと言うのです。「シラフ 接客」でネット検索してみますと、性風俗業に従事する女性でも同じことを訴える人が存在することは分かります。アルコールからのアナロジーになりますが、かつての「慰安婦」の方々も接客中の精神的・身体的苦痛をアヘンを用いて(性的快楽を倍増させることで)紛らわせたのではないでしょうか。
 したがって筆者に対して失礼なこととは思いますが、私としてはここの記述は削除されるかあるいは例えば下記のような加筆をするなど考慮してほしいと考えます。

阿片に関する話はほかの証言でも時折現れるが、阿片は、心と身体の痛みを和らげる一方で、時には性的快楽を倍増するためにも使われていたともいうただし、それは現代の性風俗業従事者にも接客時の心理的、身体的苦痛を紛らわすためにアルコール摂取するケースがあるように、接客時の苦痛を和らげるためだったとも考えられる。


ちなみに『帝国の慰安婦』の韓国版においてここで指摘した箇所は、裁判でも指摘を受けている箇所でもあります。http://east-asian-peace.hatenablog.com/entry/2015/02/23/234842で紹介されている引用リストの13が該当します。*1

*1:リストの記述は韓国版の和訳ですが、日本版よりもさらに直接的な記述のように思います。ただし、私はハングルの原文を読解できないので、日本版を用いてこのエントリを書きました。

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