健康医療フォーラム
2015年2月25日
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みむらまさる 慶応大学教授、慶応大学病院副院長。専門は老年精神医学と神経心理学。認知症や老年期うつ病の診療、研究を専門としている。
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うつ病を含む気分障害の患者はどんどん増えている。男性は壮年期がピークだが、女性は60~70代がピークで、高齢の女性はうつ病の有病率が非常に高いと言ってよい。
うつ病と認知症は、昔言われていたほど別な病気ではなく、関連しているが、高齢者ではまずしっかり見分けることが重要になる。
認知症の人は、憂鬱(ゆううつ)というより、あっけらかんとしていることが多い。うつ病の人は一般に悲観的だ。うつ病の人は眠れないで苦しむ。認知症の人は眠らないため家族が困る。
認知症の一部はうつ病と非常に親和性がある。最近よく知られてきたのがレビー小体型認知症だ。幻覚が見え、パーキンソン病の症状もある。薬が効きにくく、副作用が出やすいうつ病の人の中にレビー小体型認知症の人がいる。
睡眠はうつ病にとっても重要だが、高齢者の睡眠の時間や質を調べると、睡眠が十分でない人の脳の中にアミロイドというアルツハイマー病の原因物質の一つがたまりやすいことが報告されている。良質な睡眠は、うつ病だけでなく、認知症の予防にも非常に重要だ。
受診を広めるには、「あなたはうつ病ですよ」という言い方ではなく、眠れない、食べられない、集中できないといった症状をターゲットにして、「症状が取れて楽になるように、医者に行ってみよう」という言い方がよい。
認知症は患者本人にとって非常に苦しい問題なので、認知症とわかったら、うつになりやすくなるのは容易に理解できる。また、家族が介護負担でうつになることもある。一人で抱えないで、みんなで共有することが重要だ。
うつ病の治療は、薬物療法、精神療法、休養が三本柱だ。
最近の薬物療法は、気分や意欲に関連する伝達物質を調整する新しい薬を使っていくが、副作用もある。特に高齢者は、体の病気もあり、年とともに副作用が出やすいことがあるので注意が必要だ。
レジリエンスという概念が最近注目されている。
ストレスがかかった時に元に戻ろうとする力、その人の自己回復能力だ。それが弱ってしまっているのが、うつ病の状態とも言える。そこからいかにレジリエンスを高めていくかが、薬物療法でも精神療法でも大きなポイントになる。
軽いうつ病では運動療法が有効だし、うつ病の予防にも効果がある。健康な食事、運動、趣味、睡眠といったことが、うつ病の予防や治療に役立つ。
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なかしまみすず 臨床心理士。専門は認知行動療法。福岡県職員相談室に勤務するほか、刑務所で性犯罪や薬物依存の集団認知行動療法に携わる。
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同じ出来事を体験しても人によって受け取り方が違う。物事のとらえ方によって気分や行動は変わるという理解に基づき、認知や行動を修正することで気分の改善をめざすのが認知行動療法だ。
認知と行動を変えるテクニックのひとつが「考え方の癖」に気づいて修正することだ。これはうつ病の予防にも使える。落ち込んだり不安になったりしたときは、たいてい考え方の癖に陥っている。
例えば「一般化のしすぎ」という癖。
一つの失敗や嫌な出来事だけを根拠に「いつも○○だ」と考える。仕事の一部のミスを注意されただけなのに、私的な自分も含めて全否定する。そういう人には「違うよ。ここだけ改善したらいいよね」と声をかける。
次は、関係ないことまで自分の責任だと判断する癖。
夫や妻が不機嫌そうな顔をしていると、自分は悪くないのにそわそわする。そういうときは「私が唯一の理由ではない」と言い聞かせて冷静になり、「どうかしたの」と聞いてみる。自分の思考を疑い、客観的になることも大切だ。
三つ目は、根拠がない推論をする癖。
歩いてきた友人に声をかけたが、目も合わさずに通り過ぎた。とっさに「無視された」と考えた。それだけで一日中ショックを引きずってしまう。うつにならない人は「気づかなかっただけかな」とすぐ修正する。
ほかにも、自分の欠点を実際より過大に、長所を過小に考える「過大評価と過小評価」、客観的事実でなく自分がどう感じているかで状況を判断する「感情による決めつけ」などの癖がある。
いくつ当てはまるか。イライラしたとき、落ち込んだときに、こういう癖に気づくと修正がかけやすくなる。
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ビジネスマンを毎日診ている。どのようにうつ病に打ち勝って仕事ができる状態に戻っていくか、そこでまた同じことが起こらないようにするかがすごく大事だ。そのためにリワークプログラムというものをやっている。
昔は、会社に入って「エスカレーター」に乗れば一生安泰で定年を迎える終身雇用制だった。今の会社は違う。もっと競争する。評価もされる。この辺のストレスがとても大きくなっている。
さらに、責任も重くなり、能力や技能を活用しろと言われる。こうした仕事のストレスに、個人的要因が加わって病気が出てくると考えられている。そのとき大切なのは、上司、同僚、家族の支援だ。
かつて休職して治療した人を、もう大丈夫だろうと思って職場に戻したら、またすぐ再休職することがあった。考えたら、私が復職のための診断書を出すのが早過ぎた。休んでいて具合がいいのと、ストレスがかかる職場で働けるのは別のことだ。
復職時に会社が求めるレベルが上がってきている。昔は「週3日の勤務でいい」という会社もあったが、都内では今、定時勤務で週5日が常識だ。私たちのリワークプログラムでは、6~9カ月ぐらいかけて安全なポイントを見極めて復職してもらっている。
こういうプログラムを行う医療機関は今、全国で190施設になった。ぜひ利用いただければと思う。
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◆コーディネーター 田村建二編集委員
(朝日新聞 2015年2月24日掲載)
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