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極刑か回避か、裁判員重圧 蟹江殺傷事件20日判決

 愛知県蟹江町の会社員山田喜保子さん=当時(57)=宅で二〇〇九年に家族三人が殺傷された事件で、強盗殺人などの罪に問われた中国籍の元三重大生、林振華被告(31)に二十日、名古屋地裁で判決が言い渡される。検察側は東海三県の裁判員裁判としては初めて死刑を求刑。命をもって償わせるか、死刑回避か。極めて重い判断が、市民から選ばれた裁判員に委ねられた。

 「被害者の方…、父、母…、申し訳ない…、気持ち…、いっぱい…」。六日の最終陳述。林被告のか細く途切れがちな声に、六人の裁判員らが、三人のプロ裁判官と耳をそばだてた。

 被告は、山田さんと次男雅樹さん=当時(26)=を殺害し、三男勲さん(30)にけがを負わせ、二十万円などを奪ったとされる。公判は結審まで十回に及んだ。

 検察側は法定刑が死刑か無期懲役しかない強盗殺人罪で起訴。一方の弁護側は「窃盗目的で侵入して見つかり、パニックになり殺傷した」とし殺人罪と窃盗罪にとどまると主張する。

 法廷では被告自身から事件の詳細を聞くことにも難航した。被告は発声障害があるとされ、悔いからか発言に消極的。裁判長らの質問に沈黙する場面が目立った。

 被告人質問は裁判所、検察、弁護側が協議し実質二日程度に半減。代わりに検察側は被告が問題なく話していた取り調べ時の映像を四時間半、上映した。弁護側は被告の手記を朗読。裁判員らが犯行経緯や内心を理解できるようにした。

 裁判員らは、真相に迫ろうと「家人に見つかった場所はどこか」などと直接質問をぶつけ、被告は現場の見取り図に印を付けた。

 名古屋大大学院の宮木康博准教授(刑事訴訟法)は「死刑の適否という正解のない決断を出さなければならない裁判員には、被告の考えをより深く理解することが重要。書証の取り調べだけになり得るケースなので、従来より進んだ対応と言える」と指摘する。

 裁判員の心理的な負担を軽減するため、地裁は被害者の遺体を白黒画像やイラストで示す工夫もした。

 それでも裁判員には裁判官と量刑を最終判断しなければならない重圧が付きまとい、評議の中身を家族にさえ話すことは禁じられている。公判で遺族が死刑を求める一方、来日した被告の両親は涙ながらに一人息子が生きて償えるよう訴えた。検察関係者は「われわれも死刑の求刑時は複雑な心境になる。裁判員はなおさらだろう」と語った。

◆精神面のケアが大切

 <裁判員経験者の全国的な交流組織を運営する田口真義さん(39)=東京都練馬区=の話>死刑判決に限らず、重い判断に関わった裁判員の中には、心身に変調を来した人も多い。精神面のケアをするため、裁判所は「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」を設けているが、運用実態は乏しいのが現実。裁判員の実情を聞き取り、より効果的な取り組みを進めるべきだ。

 <裁判員裁判と死刑>最高裁によると、2009年に始まった裁判員裁判で、死刑判決は22件(昨年12月末現在)ある。うち、長野市一家3人殺害事件など3件の強盗殺人事件について、一審の裁判員裁判が下した死刑判決を破棄した二審判決が今月、相次いで最高裁で確定。市民感覚を取り入れるために導入された裁判員制度の意義が問われた。13年には、福島県の強盗殺人事件を審理し、死刑判決に関わった元裁判員が、遺体の写真を見て不眠などを伴う急性ストレス障害を発症したとして、国に損害賠償を求め提訴。各地の裁判で写真を白黒にするなど負担軽減策が広がった。

 

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