駅のホームを人々が行き交う、ごくあれふれた日常の風景。そう思ったのもつかの間、飛び込んできた電車がその形をグニャリと歪め、景色は一変する。異なる時間軸が入り交じり、やがて人間までもが異様に姿を歪めていく・・・。
音楽家Matsumura氏と向氏は以前からの知り合いで、命を削りながらストイックに制作に打ち込むお互いの共通点と信頼関係で結ばれている。本作の制作に際し二人とも“実写”というイメージを思い描いていたという。
「solo scum」を手掛ける向純平氏は1985年生まれの映像作家。2014年にはdownyのMV「曦ヲ見ヨ!」や、アニメ「ばらかもん」EDのビジュアル処理を手掛けている。初めての実写作品を制作するに当たり、向氏が着目したのは、楽曲が持つ“日本的なリズム”だったという。
「和太鼓に通じるリズムが、色んな要素を纏いながら連続していくのに、儀式的でスピリチュアルなものを感じました。映像にもそういった要素を入れていきたいというのはなんとなく最初からありました」(向氏)
■トンネルのような横長の画角 「あの画面を筒に見立て、人や電車はそこを流れるものとして考えていました、血管のようなイメージです。意味付けしたりメタフォリカルな要素を想像しながら進めていくのが好きなんです。コンテを作らないのですが、そういった発想が次の展開を作っていきます。ラストは全てが溶け合って一つになって流れていくようなイメージでした」(向氏)
撮影が行われたのは、渋谷駅東口の首都高速の下の歩道橋。ちょうど駅のホームと同じ高さになっており、この場所を発見した時から何か作品が作れそうだと感じていたという。
ミニマルな楽曲との相性も良い、血管のような横長の画角。これは、人と電車のみという最低限の情報しか見る人に与えたくない、という意図による。撮影は、Panasonicのデジタルミラーレス一眼カメラGH4で、30fpsで4K撮影したものを、After EffectsのプラグインソフトTwixtorを用いてスーパースローへと加工し、フリッカー除去にプラグインFlicke Freeを使用している。
スリットスキャンにまだまだ可能性を感じているという向氏。次回は他のVFX技術と組み合わせるなど、別の使い方を考えているそうだ。完成した映像を見てMatsumura氏はこう語る。
「完成映像を見た瞬間“やってくれたぜ!”と思いました。日常の構内の風景が、見たことのない映像で表現され、その中にジュンペイさんらしい“美しさ”を感じます。また、良い意味で音と映像が独立したものとして共鳴しあっているMVだと思います」(Matsumura氏)
トラックバックURL:http://white-screen.jp/white/wp-trackback.php?p=49785