向純平が横長の画角にスリットスキャンで描く、人間の内面的な“バグ”! Yuki MatsumuraのMV「solo scum」!

2015.02.24 Tue

 

Yuki Matsumura「solo scum」
dir/ed/c/VFX: 向純平|sound: Yuki Matsumura|label: moph records
高解像度な音素材と、シンセサイザーによる加工音が特徴の楽曲を発表している電子音楽家Yuki Matsumuraのファーストアルバム「Without a Break」から、「solo scum」のミュージックビデオ(MV)が公開された!

駅のホームを人々が行き交う、ごくあれふれた日常の風景。そう思ったのもつかの間、飛び込んできた電車がその形をグニャリと歪め、景色は一変する。異なる時間軸が入り交じり、やがて人間までもが異様に姿を歪めていく・・・。

音楽家Matsumura氏と向氏は以前からの知り合いで、命を削りながらストイックに制作に打ち込むお互いの共通点と信頼関係で結ばれている。本作の制作に際し二人とも“実写”というイメージを思い描いていたという。

「solo scum」を手掛ける向純平氏は1985年生まれの映像作家。2014年にはdownyのMV「曦ヲ見ヨ!」や、アニメ「ばらかもん」EDのビジュアル処理を手掛けている。初めての実写作品を制作するに当たり、向氏が着目したのは、楽曲が持つ“日本的なリズム”だったという。

「和太鼓に通じるリズムが、色んな要素を纏いながら連続していくのに、儀式的でスピリチュアルなものを感じました。映像にもそういった要素を入れていきたいというのはなんとなく最初からありました」(向氏)

■トンネルのような横長の画角
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4Kで撮影された元素材。これの上下をトリミングし、トンネルのように細長い画角とした。
「あの画面を筒に見立て、人や電車はそこを流れるものとして考えていました、血管のようなイメージです。意味付けしたりメタフォリカルな要素を想像しながら進めていくのが好きなんです。コンテを作らないのですが、そういった発想が次の展開を作っていきます。ラストは全てが溶け合って一つになって流れていくようなイメージでした」(向氏)

撮影が行われたのは、渋谷駅東口の首都高速の下の歩道橋。ちょうど駅のホームと同じ高さになっており、この場所を発見した時から何か作品が作れそうだと感じていたという。

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2回に分けて行われた撮影では、1回目と2回目で駅のホームのポスターが変わっているというハプニングにも見舞われたが、2回分のフッテージを横に繋ぐ逆転の発想で、画面に変化を生み出した。
ミニマルな楽曲との相性も良い、血管のような横長の画角。これは、人と電車のみという最低限の情報しか見る人に与えたくない、という意図による。撮影は、Panasonicのデジタルミラーレス一眼カメラGH4で、30fpsで4K撮影したものを、After EffectsのプラグインソフトTwixtorを用いてスーパースローへと加工し、フリッカー除去にプラグインFlicke Freeを使用している。

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「Solo Scum」で最も印象的なのはスリットスキャンによる歪み。スリットスキャンとは、画面を横または縦に細かく分割し、その分割した画面ごとに時間を少しずつずらしていくことで、動いている物体が歪んでいるような効果を生み出す手法。今回はその手法を、人物ごとにマスクで切り分けたものに適用することで、同じ画面内にいる人物が音楽のグリッヂに合わせてそれぞれ独特の歪み方をする演出が可能となった。「人間がメインの作品を作りたかった」という向氏は、人物を極端に歪ませた場合でも、顔だけは識別出来るように配慮したという。
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人物をざっくりとマスクで切り取り、スリットスキャンで歪みを加える。
「最初の人間(男女の高校生)に歪みを加えた時点で、ビジュアル的に何だか既視感があることに気付いて。それって漫画のホムンクルスや寄生獣の世界だったんですよね。そこに気付いてからは、歪みを加える人間一人一人の内面的なバグを想像して、その可視化を意識するように制作しました。最終的には映像を見ている本人が自分自身にバグを感じ、この世界そのものを不確かなものとして感じてもらえたら嬉しいです」(向氏)

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After Effectsで作業中の画面より。「グレースケールの明暗で時間を操作していくんですが、時間を模様として捉えていくのが新鮮で楽しかったです」(向氏)
スリットスキャンにまだまだ可能性を感じているという向氏。次回は他のVFX技術と組み合わせるなど、別の使い方を考えているそうだ。完成した映像を見てMatsumura氏はこう語る。

「完成映像を見た瞬間“やってくれたぜ!”と思いました。日常の構内の風景が、見たことのない映像で表現され、その中にジュンペイさんらしい“美しさ”を感じます。また、良い意味で音と映像が独立したものとして共鳴しあっているMVだと思います」(Matsumura氏)

Yuki Matsumura「Hugo」
dir: 石鍋俊作
また、2月4日に発売された同アルバム「Without a break」からは、もう一本のMVも公開されている。気象データをビジュアライズした美しくも中毒性の高い「Hugo」。本作はイメージソースに所属する映像作家、石鍋俊作氏による作品となっている!
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