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スケ番が好き! 〜昭和に咲いた美しきズベ公たち〜 前篇

2011.04.16
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 みなさんはスケ番が好きですか? 僕は大好きです! と唐突に始めてみたが、「こんな原稿、誰も読まないかもなあ」と、早くも激しい孤独を感じている僕なのであった......。なにしろ「俺もスケ番が大好きなんだよ!」と同胞と手を握り合ったことは、僕の人生の中で一度もないのだから。しかし、スケ番が日本のエンタテインメントを語る上で決して無視出来ない存在であるのは、紛れもない事実なのだ。その点を、この機会に紹介しておきたい。

 スケ番とは少女の不良のこと。ズベ公とも呼ばれる。スケ番が活躍するエンタテインメントが一つのジャンルとして決定的に確立されたのは、1970年代初頭の映画だ。有名なのは例えば『女番長(スケバン)』シリーズ。その第1作『女番長ブルース 牝蜂の逆襲』は1971年に公開され、1974年の『女番長 玉突き遊び』まで、全7本が製作される人気シリーズとなった。梅宮辰夫主演で製作された『不良番長』の女版として登場した『ずべ公番長』シリーズも、お色気シーンとド派手なアクションが満載で熱い支持を集めた。毎回ズベ公達が刺激的な服装で登場する点でも注目されていたので、コスプレものの元祖などとも言われている。1970年に公開された第1作『ずべ公番長 夢は夜ひらく』は、藤圭子が歌う主題歌「圭子の夢は夜ひらく」が大ヒットした。また、忘れてはならないのが、『野良猫ロック』シリーズだ。1970年に公開された第1作『女番長 野良猫ロック』は和田アキ子主演。2年後の『女囚701号 さそり』で、スケ番ものとはまた別の超人ヒロイン像「女囚」を確立する梶芽衣子も準主役で出演していた。和田アキ子がこのシリーズに出演するのは第1作のみで、第2作『野良猫ロック セックスハンター』からは梶芽衣子が主演となる。1971年の『野良猫ロック 暴走集団'71』まで、全5本が製作された。

 ......と、スケ番ものの黎明期を大まかに綴ってみたが、ここからはどうしても力が入ってしまう! 1973年生まれの僕にとって、『女番長』や『ずべ公番長』や『野良猫ロック』は完全に後追いの衝撃。スケ番ものに目がない僕を決定的に形成したのは、80年代に製作されたTVドラマの数々だ。まず、筆頭に挙げなければならないのは、人気コミックを実写化した『スケバン刑事』シリーズ。斉藤由貴主演の『スケバン刑事』(1985年)、南野陽子主演の『スケバン刑事〜少女鉄仮面伝説』(1985〜1986年)、浅香唯主演の『スケバン刑事〜少女忍法帖伝奇』(1986〜1987年)は、燦然と輝く永遠の金字塔だ。当時の日本の少年少女で、『スケバン刑事』シリーズを観ていない人はほぼいないだろう。スケバン刑事にすっかり影響された当時の子供達は、友人同士でヨーヨーを投げつけあったものだ。

 『スケバン刑事』の成功は、TVドラマ界全体を巻き込んだ空前のスケ番ブームを生み、様々な作品が放送されていった。今となっては奇跡のように思えるキャスティングと、ハイセンスなタイトルに胸が熱くなってしまうのが中山美穂と仙道敦子のW主演作『セーラー服反逆同盟』(1986〜1987年)。けばけばしいメイクと真っ白なセーラー服姿の美少女達が悪の前に立ちふさがり、「セーラー服反逆同盟!」と名乗りを上げるシーンは、何年経っても生々しく僕の胸に刻まれている。また、当時アーノルド・シュワルツェネッガーの映画『コマンドー』が大ヒットをしたことを受けて制作された五十嵐いづみ主演の『少女コマンドーIZUMI』(1987〜1988年)にも触れておきたい。『スケバン刑事』と同じ番組枠で放送され、闘う女子学生を描いていた点で、これも広義のスケ番ものと言って良いのではないだろうか。セーラー服姿の五十嵐いづみがバズーカ砲をぶっ放すシーンは忘れられない。

 そして、僕が個人的に溺愛している作品が小高恵美、小沢なつき、石田ひかりが出演した『花のあすか組!』(1988年)だ。これも『スケバン刑事』同様、原作コミックが有名だが、ドラマ版も素晴らしかった。全国の中学生の裏番長組織「全中裏」による恐怖と暴力の支配を粉砕するために、少女達が協力しあって闘う戦国物語であった。任侠映画ばりの口上の決めセリフ、警察沙汰にならないのが不思議で仕方ないキナ臭い抗争の数々、軍隊並みの組織力と戦闘力を備えた「全中裏」の圧倒的な支配力、甲冑を着た少女が馬でパッカパッカと道路を駆け抜けて学校の校庭に突入したりする荒唐無稽なシーンの数々、セーラー服の上にわざわざ新撰組のような衣装を纏っている「風林火山」という敵キャラ4人衆の素晴らしい存在感(和久井映見が炎を巧みに操って攻撃する「火」の役だった)、限りなくスベっているのにアイドル達が演じているから何だか楽しくなってしまうギャグ・シーンの積極的な挿入......魅力的なポイントは尽きない。小高恵美、小沢なつき、石田ひかりが「あすか組」名義でリリースした「悲しげだね」は、当時のアイドルポップスらしいB級感たっぷりの名曲であった。「あすか組」として『ミュージックステーション』に出演した3人が劇中の口上を実演し、司会のタモリが大喜びしていたことが懐かしく思い出される。
(田中 大)

【関連サイト】
女番長ブルース 牝蜂の逆襲(DVD)
スケバン刑事 VOL.1
sukebandeka.com
少女コマンドー IZUMI(DVD)
花のあすか組!(DVD)
【執筆者紹介】
田中 大 DAI TANAKA
1973年生まれ。東京都出身。96年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シンコーミュージック、ロッキング・オンの音楽雑誌の編集者を経てフリーランスに。専門は音楽全般、西部劇。趣味はギター、サックス。