Updated: Tokyo  2015/02/25 00:00  |  New York  2015/02/24 10:00  |  London  2015/02/24 15:00
 

【クレジット市場】生保悩ます為替コスト、黒田緩和での外債シフトで

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  (ブルームバーグ):日本国債を大量に抱える国内生命保険会社は日本銀行の異次元緩和を背景に外国債券への資金配分を増やしてきたが、米利上げ観測を受けた為替差損回避(ヘッジ)のコスト増に直面している。

日本証券業協会の統計によると、生損保の国債買い越し額は今年度、1月までの10カ月で6兆9823億円。前年同期より35%少なく、2007年度以来の低水準だ。財務省の統計では、海外中長期債の買い越し額は同期間に2兆4383億円と過去3番目の大きさ。1年前は2896億円売り越していた。為替ヘッジ のコストは12年10月以来の水準に上昇している。

黒田東彦総裁は異次元緩和の波及経路の一つに、投資家を国債からリスクがより高い資産に向かわせるポートフォリオ・リバランスを挙げる。生命保険協会会長の渡辺光一郎第一生命社長は20日の記者会見で、超低金利下での運用利回り確保にはリスク資産や信用リスクを増やす多様化と、市場動向に応じてヘッジコストを考慮しながら機動的に運用する外債投資が必要だとの見解を示した。

SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは「投資家を円債から外債にシフトさせて円安・株高の需給を強める政策には一理ある」と指摘。黒田総裁の狙い通り、「生保は自らリスクを取らざるを得ない。運用面では非常に悩ましい状況」と述べた。

14年ぶり高収益から暗転

国債等の発行残高は昨年9月末に1015兆円。うち、保険は巨額の国債購入を進める日銀に次ぐ197兆円で全体の19.4%を占めた。長期金利の指標となる新発10年物国債利回り は1月20日に0.195%と過去最低を記録。20年債利回りは0.845%、30年債利回りは1.04%と13年4月以来の水準に下げた。先週にかけて0.45%、1.315%、1.56%まで上昇したが、20年債入札を順調に通過して低下。財務省は24日、40年債入札を実施する。

生保の資産運用はALM(資産・負債の総合管理)が基本。保険商品の契約者に支払う「長期・固定」の円建て負債に対応し、デュレーション(残存年限)の長い、超長期国債を主な投資対象としている。

米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によると、償還まで10年超の日本国債は昨年の収益率が10.1%と1997年以来14年ぶりの高水準を記録。格付け会社フィッチ・レーティングスが昨年12月に日本国債の格付け見通しを引き下げ、国債の過度な保有を理由に生損保9社を格下げ方向で見直すと発表しても、市場は動じなかった。

しかし、先月の収益率は0.039%と1年前の約44分の1、今月はマイナス2.3%と異次元緩和の導入翌月に金利が急騰した13年5月以来の悪さ。金利低下が歴史的な水準まで進み、契約者に約束する予定利率の確保が厳しい状況にある中、生保は貯蓄型商品の販売停止や保険料の引き上げに動いた。先月11日付の日本経済新聞は、第一生命や明治安田生命などが一時払いの保険商品の取り扱いを中止したと伝えた。

迷惑な環境

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の大塚崇広マーケットエコノミストは「超低金利の主因は異次元緩和で、ポートフォリオ・リバランス効果は狙い通りだ」とみる。デフレ脱却や2%の物価目標達成に「必要な政策コスト」との判断だろうが、「国債市場の参加者にはあまり友好的な政策ではなく、生保には迷惑な環境ではある」と指摘。「ますます運用先に困り、どうしても外債の積み増しになる」と述べた。

日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、マネタリーベース を積み増す「量的・質的金融緩和」を2013年4月に導入。昨年10月末の追加緩和で、増加ペースを年60兆-70兆円から約80兆円に高めた。資金供給手段である長期国債買い入れオペは月6兆-8兆円から8兆-12兆円に増額。政府の15年度に入札を通じて機関投資家に販売する市中発行額152.6兆円に対し、年率で最大9割超にも及ぶ計算だ。

買い入れの平均残存年限は7-10年程度と最大で約3年も伸ばす。直近の1回当たり購入額は追加緩和直前と比べ、残存1-3年が14.3%増の4000億円、3-5年は33.3%多い4000億円、5-10年は4000億円で横ばいだ。超長期の10年超25年以下は2.2倍の2400億円、25年超は1400億円と4倍に増額。超長期債の買い入れ増で利回り低下が進めば、生保などの新規投資や償還分の再投資への影響が大きい。

生保協会の統計では、42社の総資産は11月末に347.4兆円。前年同月より2.7%増えた。国債は149兆円と6066億円減り、構成比は42.9%と1.3ポイント低下。外国証券は1年前より18.2%増えて64.6兆円。構成比は18.6%と2.4ポイント上昇した。日本損害保険協会の統計によると、26社の総資産は11月末に25.4兆円。前年同月より0.8%減った。国債は0.1%増の6.3兆円で構成比は24.8%と0.2ポイント上昇。外国証券は4.5%増で、構成比は20.3%と1年間で1ポイント上昇した。

押し目買いとヘッジ削減

外債投資は難しい局面を迎えている。プレビデンティア・ストラテジーの山本雅文代表取締役は、これまでの円安進行で「さらに為替差益を取れるのか」と、米利上げ観測を背景に「ヘッジコストが上がり、フルヘッジ外債の魅力が薄れる」という問題があると指摘。生保はドル建ての投資ではオープン外債は円高に振れる場面で押し目買いに動き、ヘッジ外債はヘッジ比率を下げる可能性があると読む。

円の対ドル相場は日銀が異次元緩和を導入した13年に21%と79年以来の下落率となり、追加緩和があった昨年も14%下げた。昨年12月8日には1ドル=121円85銭と07年7月以来の安値を記録。市場関係者は今年末に125円(中央値)と予想する。

米金融市場では連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が9月までに少なくとも0.5%へ利上げするとの観測が5割。為替ヘッジコストの指標であるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)6カ月物の日米格差 は20日に24.7ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と12年10月以来の水準に拡大。昨年1月の12.5bpから約2倍に広がった。

三菱モルガンの大塚氏は、米債投資では「利回りが米利上げで今後上がるとみられるため、資金投入のタイミングが重要だ」と指摘する。

日本国債に資金回帰も

米10年物国債利回り は先月30日に1.64%と、量的緩和の縮小観測が浮上する前の13年5月以来の水準に低下。足元でも昨年1月に付けた3.05%より約100bpも低い。市場関係者は年末は2.58%(中央値)と予想。一方、ブルームバーグ・ニュースのエコノミスト調査では、日銀が10月末までに追加緩和するとの見方が35人中26人に上った。日米金利差は足元の171bp前後から年末には218bpに広がる見通しだ。

SMBC日興の竹山氏は、為替ヘッジコストを差し引いた外債投資が「あまりもうからないなら、20年債で1.4%程度でも日本国債に資金が回帰してくる可能性がある」と分析。「世界的に金利が下がっているので致し方ない面がある」とみている。

日本証券業協会の統計では、生損保は今年度の超長期債買い越し額が3兆7496億円。前年より27%も少ないが、なお外国人の3兆円強や農林系金融機関の2兆円弱などを上回る最大の買い手だ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF )など公的年金の売買を映す信託銀行は2兆円近く売り越している。日本生命保険、第一生命、明治安田生命、住友生命保険の運用資産を合計するとGPIFを上回る規模だ。

主要生保4社が13日公表した四半期決算によると、一般勘定資産は合計155.8兆円で、昨年3月末より約10兆円増えた。うち円債は67.6兆円で全体の43.4%。9カ月で2.7ポイント低下した。外債は6兆円増の31.8兆円。構成比は20.4%と2.7ポイント高まった。総資産161.6兆円のうち、国債は1兆円弱増えて58兆円。外国証券は6.9兆円多い41.3兆円だった。

JPモルガン証券の山脇貴史チーフ債券ストラテジストは、超長期債の利回り低下で「生保がなかなか買えなくなっているのは事実」だが、米欧先進国でも「国債利回りが下がる一方、調達コストは上昇している」と指摘。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和もあり「債券投資家は世界中どこへ行っても厳しい。結局、日本国債も一つの選択肢で、むしろ海外よりはましだとも考えられる」と語った。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 野沢茂樹 snozawa1@bloomberg.net;東京 Chikako Mogi cmogi@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Garfield Reynolds greynolds1@bloomberg.net 山中英典, 青木 勝

更新日時: 2015/02/24 16:25 JST

 
 
 
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