被爆者:証言映像、世界へ…横浜国大生と留学生が英訳字幕
毎日新聞 2015年02月23日 11時57分(最終更新 02月23日 12時56分)
核兵器廃絶の願いを世界に発信しようと、18歳の時に広島原爆で被爆した伊藤晶さん(88)=三重県桑名市=の証言映像の英訳に、横浜国立大の日本人学生と留学生計9人が取り組んだ。英語字幕が付いた映像は、4月にもインターネット上で公開される。翻訳作業に加え、核問題を包括的に学び、核廃絶に向け何ができるのか問い直している。
証言映像に字幕を付ける作業は昨年1月、国内外の学識者たちが設立した「被爆者証言の世界化ネットワーク」(事務局・京都外国語大)が着手。国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市)の所蔵映像の多言語翻訳化を進めている。横浜国大の活動はその一環で、高橋弘司、長谷川健治両准教授が昨年10月〜今年1月の講義で実践した。大学の講義で翻訳したのは横浜国大が国内で初めて。
伊藤さんは通信兵として広島に配属され、1945年8月6日、路面電車で移動中に被爆した。破壊された街と炎、焼けただれた市民−−。伊藤さんは約24分間の映像で、脳裏に焼き付いた惨状を生々しく語る。
「感情を抑えた語り口に平和への願いが伝わってきた」という学生たちは、一語一語の意味や伊藤さんの思いをくみ取れるよう推敲(すいこう)を重ね、約1カ月半で英訳を仕上げた。
被爆者について詳しい学習経験がある留学生は少なく、米国人のマン・ラムさん(21)は「原爆投下が戦争の早期終結につながったと教わっていた」と話す。講義では、原爆開発や投下に至る経緯、今も放射能の後遺症に苦しむ被爆者の姿なども学び、ディベートを繰り返した。
日本と母国の歴史教育や認識の違いに驚きながらも、4カ月の講義を経験したことで、フランス人のサミュエル・ジャボルスキーさん(23)は「今後の選挙で各候補者の核兵器や原発政策に注目する」、スペイン人のルーベン・クロス・ロペスさんは(21)は「被爆者証言をぜひ母国語に翻訳してみたい」。伊藤さんは「被爆体験を世界に広げようとしている若い人たちに感謝したい。見た人の心に何か響くものがあれば」と話す。字幕付き証言映像は、同祈念館などが開設するサイト(http://www.global−peace.go.jp/)で公開される。【松浦吉剛】