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■金融政策 私の視点

 ――勝間さんは「デフレ脱却国民会議」の呼びかけ人として、物価目標を導入し、緩やかなインフレを目指すリフレ政策を導入するよう呼びかけてきました。

 「昔はリフレ政策を主張していた私たちは『超』が付く非主流派で大変だったが、今では主流になった。安倍晋三首相は日本銀行の総裁に黒田東彦氏を任命し、日銀の政策はリフレ政策に変わった。最初はうまくいきすぎて気持ち悪いと思っていた。株価も上がり、為替も過度な円高が修正された。金融政策を評価すると120点以上だ」

 ――国債や上場投資信託を大量に購入するリフレ政策には、効果が少ない割に副作用が大きいなどと反対する論者も多くいます。

 「リフレ政策を批判する人たちがおもしろいのは代替案がないこと。もし、よりよい案があれば私もそちらに賛成する。ただ、現状はリフレが一番ましだ。日本はこれまで経済を好転させる戦略がないまま20年間が過ぎてしまった」

 「私は最近、マージャンやポーカーをやるが、勝利に向け全体を俯瞰(ふかん)した戦略が重要だ。捨て牌(はい)読みとか、牌のそろえ方などの戦術はどうでもいい。戦略を持てば少なくとも1年で十分トッププロと戦える。安倍政権を評価しているのは、経済再生への戦略がしっかりしているからだ」

 ――120点以上と評価した金融緩和ですが、2年目の2014年度は成長が鈍りました。

 「14年4月にあった消費増税によるノイズは悔やまれる。金融政策でアクセルを踏んでいるときに、消費増税でブレーキを踏んでしまい、日本経済が誤作動を起こした。その結果が去年前半から半ばぐらいまでの調子の悪さだ。今やっと修正が入って景気が戻ってきた状態だと解釈している」

 ――消費増税については財政再建のためそれでも必要だという声があります。

 「税率を上げて財政再建になるならいくらでも上げて欲しい。だが、消費増税は財政再建とは関係ない。ものを値上げしたら売り上げは下がる。消費税を上げたら税収は下がる。こんなことは商売をしている人間から見れば当たり前だ。3%幅の値上げって経営者感覚では尋常ではない」

 「財務省の人と話していて違和感を覚えるのは、法学部出身の方が多いので、経済的なロジックを心の底から理解していない。彼らは実際に商売をしていない。消費増税を判断するための有識者シンポジウムは本当にひどかった。消費増税に賛成しそうな人ばかり呼んでいたが、私たちは呼ばれなかった」

 ――円安で輸入物価が上がり、「悪い物価上昇」になっているといった副作用も指摘されています。

 「問題になるほど物価は上がっていない。むしろ消費増税で全ての物価が上がったことが一番大きな悪影響だ。円安による輸出効果が出るのは1年半から2年のラグがある。その一方で、海外から日本に生産移管が進んでいるというニュースもある。1ドル=120円の円安なら海外で生産する必要はなくなり、国内で作った方がよりよい労働力を安く使える」

 「デフレになり始めた時は急に景気は悪くならなかった。賃金はそのままでモノだけが安くなった。5年くらいは、みんながデフレはいいことだと言っていた。逆に考えれば、正しい政策に巻き戻して、効果が私たちの生活実感に至るまで5年はかかるということだ」

 「ただ、実質的な賃金については今後、プラスになっていく可能性が高い。非正規雇用の給料は十分に上がっている。それに対して人数が多い正規雇用はまだだが、今年の夏と冬の賞与の見通しは明るいだろう」

 ――仮に物価目標を達成した場合、金融緩和を手じまいすれば金利が上がるとの懸念もあります。

 「国債価格の暴落は全く起きていない。量的緩和の手じまいを始めた米国を見ていると、たいして金利の上昇は起きていない。すごく変な言い方になるが、手じまいするときに金利が急上昇するなら金融緩和はやめられないことになる」

 ――日銀は大規模な金融緩和に期待する最大の効果は人々に物価が上がると思ってもらうことという立場です。日銀の思い通りこうした効果は出ていますか。

 「少なくとも引き続き物価が下がるという印象はなくなった。これまでエコカー一辺倒だった車の売れ行きに、違いが出てきている。コンビニのスイーツの売りも昔は『安い』だけだったが今は『プレミアム』だ。一方で、デフレ時代にはやったファストフードチェーンの経営が悪化している」

 「ただ、日銀の目標通り物価が毎年2%上がると人々が期待を持っているかといえば、誰も持っていない。異常なまでのグローバリゼーションの影響もあり、私の直感では生産性の上昇は2%より高く、どんどん加速している。物価が生産性の向上分を超えて上がるのは大変だ。イノベーションで新しい需要を生み出さないと物価は下がる」

 ――13年4月から2年程度での2%の物価上昇目標の達成は可能でしょうか。

 「ちょっと短いかも知れない。黒田総裁の任期はまだ3年ある。期限はもうちょっと長くても良いのではないか。また、2%のハードルは結構高い。最終的には2%に行くとしたうえで、中間評価としてまずは1・8%を目指してはどうか。現実的な目標にした方が、日銀の言うことはより信頼されるだろう」

 ――安倍首相の経済政策「アベノミクス」に必要なものは何でしょうか。

 「金融政策と同時に所得再分配を高める二段構えが必要だ。高額所得者から多額の税金と社会保障費を徴収して、弱者にもっと再分配することが足りない。1万円により価値を感じる人たちに、政府はお金を移動させなければいけない」

 「私が消費税に反対する理由は、広く薄く徴収する水平的公平性はあるが、負担力があるお金持ちと、そうでない人との間での垂直的公平性が非常に低いからだ。お金持ちは10~20%幅税率が増えたとしても、大して消費行動は変わらない。よく海外に逃げると言われるが、逃げたい人は逃がせばいい。お金持ちが100万人いて逃げるのはせいぜい1万人だろう」

     ◇

 かつま・かずよ 1968年生まれ。早大院ファイナンス研究科修了。マッキンゼー、JPモルガン証券などを経て、2007年から経済評論家。(聞き手・福田直之)

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