2015-02-24
■道征く人
ふと、なんかここんとこ自分の中で停滞感があったんだなあ、と思った。
それは漠然としか感じていなかったものではあったけれども、未踏の最終成果報告会を経て、一日経って、ようやく自分の状況をそのように理解した。
一年前、アラン・ケイのもとを訪れた時、「もう君たちにアドバイスすることはない。君は君の道を行きなさい」という言葉を頂いて、僕は突然、道を見失った。
子供の頃からずっと、アラン・ケイのように成りたかった。
そしてついにアラン・ケイに会うことができた。
それから、ぽんと、道を失った。
それまで僕は自分の道を歩いているつもりだった。
けれどもそれは彼の敷いた道を別の歩き方をしているだけだった。
アラン・ケイのように成ろうと思ったら、アラン・ケイからアドバイスをもらわないと考えられないようではいけないのだ。
いや、そもそも道とは、いろいろな人が歩いて轍が作られるものなのだ。
そしてついに僕は、未踏の地を歩かなければならなくなった。
もうケイが作った道はない。この先の道は自分で歩いていかなければならない。
ケイがエンゲルバートから、エンゲルバートがブッシュから受け継いだ道を、そして今、先人として先を行く、石井裕先生や増井俊之先生の歩く無人の荒野を、僕もまた歩かなければならないのだ。
あてはない。
この先は真っ暗闇で、一歩踏み出すごとに恐怖さえ感じる。
星明かりだけを頼りに、この夜道を一人で歩いて行く。
僕はそこで立ち止まったつもりはないが、その歩みは明らかに遅くなった。
なんということだろう。
これまで、なんとたやすいことを僕はしていたのだろう。
道があるとは、そういうことなのだ。
本を読めば、書いてあること。
ネットで探せば、解ること。
誰かに聞けば、答えが貰えること。
そもそも最初から、正解があること。
それはあくまで、道を歩くための方法に過ぎない。
道を作るということは、その全ての方法が、使えなくなるということだ。
先人が歩んできた道を、僕はただ当たり前のものと思って歩いてきた。
しかし実際に道のない場所にたどり着くと、そこには茨と、暗黒と、恐怖だけがあった。
それでも一歩、また一歩と足を進める。
それしか僕にはできない。
後戻りすることもできるのかもしれない。
しかし一度踏み入れてしまった領域、漆黒の荒野という領域には、また同時に他に代えがたいほどの魅力を放っている。今戻れば、僕は何もかも虚しく感じるだろう。
石井裕先生には、とても励ましていただいた。
君のやろうとしていることを、私は応援する、と。
その意味が、僕にはすぐにはわからなかった。
増井俊之先生は、僕にとって個人的な友人でもあり、師でもある。
増井先生の本を読むと、多くの思考プロセスが僕が考えていたこと、悩んできたことと符合していて、非常に驚いた。
想像はしていたが、これほどまでに同じことを考えているのかと恐ろしくなった。
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彼もまた、同じ領域で道を作ろうと孤軍奮闘しているのだ。
そして一年後に石井先生が来日したとき、僕は石井先生と再びお話する機会に恵まれた。
石井先生ほど、enchantMOONを高く評価してくれた人は居なかった。
製品としての完成度を越えたその先を見据えて僕を応援してくれた。
今回の対談は石井先生の側から提案していただいたもので、非常に忙しいスケジュールを縫って設定していただいた。議論は非常に本質的なもので、その場で僕はいくつもアイデアを思いついた。その体験はアラン・ケイや増井先生と会話しているときと驚くほど似ていた。全ての指摘が示唆的で、持ち帰ってひとつひとつ丁寧に検討するに値する。そこに僕は共鳴に似た感覚を覚えていた。
やはり我々は、同じ領域の道なき道を懸命に探している、いわば同志なのだ。
コンピュータとはどうあるべきか。
そしてコンピュータとはどうなっていくべきか。
まるで相対性理論だ。
光のスピードに近づけば近づくほど、より大きなエネルギーを必要とする。
本当の未踏領域では年齢の差も経験の差も、本質的な違いになり得ない。
ここを突破するのに必要なのは、アイデアだ。
とびきりのアイデア。
未踏で出会った何人かのクリエイターたちも、また同じ道を往く者たちだった。
僕は自分より若く、そして志を同じくする人たちに出会って、ようやく、石井先生やアラン・ケイの気持ちがわかった。
同じ道を往く者に対してできるのは、愛情を向け、励ますことだけなのだ。
実際にその道を歩くのは、自分自身でなくてはいけない。
それが未踏領域、本当の意味でのフロンティアである。
真っ暗な荒野を星明かりだけを頼りに、いろいろなものを観察しながらあるべき未来の姿を想像していく。
慣れ合うのではなく、無視するのでもなく、ただそこに仲間が"居る"ということが、お互いを励まし、いつか誰かが成果を出すことを信じて、まずは自分の道を懸命に歩く。
若き旅人に出会い、僕はようやく自分がいつのまにか未踏領域の暗闇の中で、道を失って途方に暮れて座り込んでいたことに気づいた。
この出会いは、他の誰よりも自分自身を前に進めるために必要なプロセスだったのだ。
僕はゆっくりと立ち上がった。
再び未踏の大地を歩くために。
自分の轍を作るために。
立ち上がり夜空を見上げると、そこに月があった。
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