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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

米国留学で愛国心を強める
中国人留学生の“なぜ”

加藤嘉一 [国際コラムニスト]
【第45回】 2015年2月24日
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祖国への自信を強める中国人留学生
フランシス・フクヤマ氏に共感したこと

 「日増しに、あらゆる分野で深まっている米中交流が中国の民主化を促進する可能性についてどう思われますか?」

 2014年4月、米カリフォルニア州パロアルトにあるスタンフォード大学内で、現在同大シニアフェローを務める政治学者のフランシス・フクヤマ氏に聞いた。

 温和で気さくなフクヤマ氏が、少しだけ表情をこわばらせる。

 「あまり楽観視はしていないのだろうな」

 私はふと感じつつ、フクヤマ氏の言葉を待った。

 「20年前に米国に学びに来ていた中国の留学生は、自由民主主義を含め、米国の制度や価値観を信奉し、のめり込んでいった。しかし、時代は変わった。昨今における中国の発展を背後に、祖国の体制や発展モデルに自信を強めているようだ」

 なるほど。メイクセンス。

 私自身は20年前と現在という時間軸を持って、米国で学ぶ中国人留学生の米国観と祖国観を比較する術を持たない。しかし、フクヤマ氏が言わんとすることは理解できる。2012年8月に米国に来て以来、中国人学生と会話をする過程で、同様の感覚を抱いてきたからだ。

 ハーバード大学の学部生(経済学専攻)で、同大中国人学生会の幹部を務めるEさんとのやり取りを思い出した。

Eさん:「毎日のように中国から党幹部や企業家、学者がハーバードを訪問しています。私たちはその人たちに会いに行き、交流をし、将来に向けた人脈とするのです。中国は目覚ましい発展を遂げていますし、これから中国市場を無視した進路は考えられません。私の周りのほとんどの中国人が、同じ考えです。その意味で、ハーバードで学びながら、中国で影響力のある人たちとの関係がつくれるのはラッキーですし、大切にしたいと思っています」

筆者:「ただつながりが深くなれば、共産党体制に批判的になるのは難しくなりますね。実際、ハーバードを訪問するような企業家や学者は、体制のなかでも影響力を持っている。言葉は悪いですが、体制に取り込まれているのですから」

Eさん:「なぜ体制に批判的になる必要があるのですか? 共産党は頑張っているじゃないですか? 上手に付き合えばいいじゃないですか? 私たちのような若い世代がいくら体制を批判したところで、共産党体制は崩れないでしょう。反体制的になって一生を棒に振るくらいなら、政治にはアンタッチャブルでいるほうが賢明です」

第30回コラム参照:ハーバード大学で学ぶ中国人は祖国の民主化を促す原動力となるか?2014年6月17日

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加藤嘉一 [国際コラムニスト]

1984年静岡県生まれ。日本語、中国語、英語で執筆・発信する国際コラムニスト。2003年高校卒業後単身で北京大学留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。学業の傍ら、中国メディアでコラムニスト・コメンテーターとして活躍。中国語による単著・共著・訳著は10冊以上。日本では『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)、『いま中国人は何を考えているのか』(日経プレミアシリーズ)、『脱・中国論—日本人が中国と上手く付き合うための56のテーゼ』(日経BP社)などを出版。2010年、中国の発展に貢献した人物に贈られる「時代騎士賞」を受賞。中国版ツイッター(新浪微博)のフォロワー数は150万以上。2012年2月、9年間過ごした北京を離れ上海復旦大学新聞学院にて講座学者として半年間教鞭をとり、その後渡米、ハーバード大学ケネディースクールフェロー、同大アジアセンターフェローを歴任。2014年夏からは米ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院の客員研究員として、ワシントンDCを拠点に“日米同盟と中国の台頭”をテーマにした研究・発信に挑む。米ニューヨーク・タイムズ中国語版コラムニスト。世界経済フォーラムGlobal Shapers Community(GSC)メンバー。趣味はマラソン。座右の銘は「流した汗は嘘をつかない」。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

 21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

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