つぶれた企業が政府の支援で強力になって蘇(よみがえ)り、ライバルを圧倒する。公正取引委員会の研究会がまとめた報告は、市場競争をゆがめる政府の無分別な対応を戒めた。早急に指針をまとめるべきだ。
公的支援での企業救済といえば、金融機関への公的資金を注入する前例はあった。これは経済の生命線である金融システムを守るという大義名分からだった。一般の事業会社まで救済が目立つようになったのは二〇〇八年のリーマン・ショック時からだが、無分別な支援は公正な競争をゆがめるひずみを生んだ。
代表例は米国ではゼネラル・モーターズの再建、日本では日本航空の再建支援である。日航の事業再生では、公的資金として三千五百億円の出資やつなぎ融資に三千六百億円が投じられたほか、会社更生法適用により五千億円強の借金棒引き(債権放棄)や税制優遇措置で九年間にわたって法人税ゼロなどの支援があった。
その結果、世界でも突出した高収益企業に生まれ変わり、自助努力を続けたANAホールディングスなどライバルの経営を脅かすことになった。
公的支援の原資は言うまでもなく国民の税金であり、その使われ方は国民に説明がつくものでなければ背信行為である。
欧州連合(EU)は企業への公的支援を原則禁じており、例外措置を明示したガイドラインが存在する。日本にはこれまで指針がなく、それが場当たり的な公的支援につながったともいえる。
日航の例が引き金となり、ようやく公取委研究会報告がまとまったが、遅きに失した対応だ。再び不透明な公的支援が起きる前に指針策定を急ぐべきだ。
研究会の報告が強調している原則は三点である。「民間だけでは事業再生が不可能な場合に、民間を補完する」「必要最小限の手段、方法をとる」「支援の情報を開示して透明性を維持する」−国民負担を考えれば、いずれも当たり前のことばかりだ。
ここ数年、各省庁が官民ファンドを乱造し、経営感覚もない官僚が無責任な企業支援を行う例が目立つ。半導体メーカーなどの再建失敗も続いており、やりたい放題ともいえる官民ファンドにも同様にメスを入れるべきだ。
日航再生は民主党政権時に実現したことで自民党による意趣返しといえる懲罰的対応も見える。公取委には政治の意図を忖度(そんたく)せず、それこそ公正さを望みたい。
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